ある日の冬耶君
「ねー、冬耶君。今度のお休み、一緒に遊び行こうよ!」
「駄目よ! 冬耶君はアタシと遊ぶの!」
中学校からの帰り道。
新しくクラスメイトになった、咲ちゃん、留美ちゃんと一緒に帰路の途中だ。
話の流れによると、5月の大型連休に、僕は彼女達とお出かけしなくてはいけないらしい。
「僕は行かないと駄目なの?」
「それは当り前だよ!」咲ちゃんがツインテールを揺らしながら答える。
「勿論よ! それでどっちと一緒に行くか決めた?」留美ちゃんが迫ってくる。
2人共クラスでは可愛い方だと僕は思う。
咲ちゃんはツインテールをリボンで結び、とても女の子らしい感じがする。
留美ちゃんはセミロングで少し身長が高く大人っぽい。
「うーん。僕なんかじゃなくて、他の子と遊びいった方がいいと思うよ?」
「「冬耶君がいいの!」」2人にすぐ反論された。
困ったなぁ。学校を出てからずっとこの調子なんだよね。
「だって、冬耶君以上にカッコイイ人なんてこの学校に居ないんだもん」咲ちゃんが頬を染める。
「そうそう、冬耶君に比べたら、他の男子なんて、ジャガイモ? サトイモ? サツマイモみたいなものじゃない」留美ちゃんも同意する。
「僕なんて格好良くないよ」
「冬耶君は、本当に鈍いよね」
「咲ちゃんの言う通りだよ。それと天然なところもいいんだけどね」
むむ。鈍い、天然っていったら、雪姉ちゃんの代名詞な気もする。
姉弟だから似たのかなぁ? でも氷兄ちゃんとは外見以外それ程似てないような。
まぁ、雪姉ちゃんはよく僕と遊んでくれるし、大好きだからいっかぁ。
「それで! 冬耶君どっちと遊びに行くの? 勿論私だよね!」咲ちゃんに右手を引っ張られる。
「そんなの駄目よ! アタシと行くよね!」留美ちゃんにも左手を引っ張られる。
別に対抗しなくてもいいじゃと言いたい。
引っ張られるの痛いんだよ!
「2人共痛いよ!」
「知ってた留美ちゃん? こういう時、本当に好きな方が手を離すらしいよ?」
そう言いつつも咲ちゃんは手を離そうとしない。
「そんな昔話があったね。だったら咲ちゃんが愛を証明する為に、手を離すといいと思うよ」
留美ちゃんの引っ張る力が更に強くなった気がする。
「むむむ……」
「ぐぐぐ……」
2人が睨みあって引っ張り続けている。二人の視線から火花が散っているようだ。
更に痛みが増した気がする。
「あの……すごーーーく、痛いんだけど」
「「冬耶君は黙ってて!」」
「う、うん」2人の剣幕に大人しくさせられた。
このまま暫く続くのかと思っていたら、背後から鈴のなるような声が掛けられる。
「やっほー冬耶。大丈夫?」
僕たち3人が振り向くと、白銀のような髪をした制服姿の美少女がいた。澄んだ青い目が僕達を見て微笑んでいる。
「雪姉ちゃん!」
いいところに来てくれたと思う。このままだと両腕が脱臼するところだったよ。
「冬耶、その格好どうしたの? ひょっとしてガールフレンドに取り合いされてたとか? モテルなぁ」
此処でやっと、咲ちゃんと、留美ちゃんの拘束が取れた。
どうやら、雪姉ちゃんに見惚れてるみたいだ。
やっと首だけを向ける苦しい体勢から開放され、雪姉ちゃんの正面を向けた。
「違うよ雪姉ちゃん。咲ちゃんと、留美ちゃんはただのクラスメイトだよ」
「ふーん。そうなんだぁ。でも2人とも可愛いし、実はどっちかが本命だったりするんじゃないの?」
雪姉ちゃんの台詞で我に返り、二人は顔を真っ赤にして照れている。
「もぉ、違うって言ってるでしょ! で、雪姉ちゃんも今帰りなの?」
「そそ。はじめは折角の冬耶の恋路を邪魔するのはどうかと思ったんだけどね。このまま隠れてついてくのも大変かなぁって声掛けちゃったのさ」
「なんで、そんな変なこと思いつくのさ」
「うーん。なんとなく?」エヘヘと雪姉ちゃんが笑う。
それだけで、空気が変った感じがする。
「ええと、冬耶君? 此方の超絶美人な方、だ、誰?」咲ちゃんがドモリながら声を出す。
留美ちゃんも聞きたいらしく、興味津々な様子で顔を上下に振って催促していた。
僕が話すより先に雪姉ちゃんが声を出した。
「あ、ごめんね。まだ挨拶してなかったね。ボクは冬耶の姉の雪だよ。これからも仲良くしてあげてね。冬耶ってちょっと内気なところがあるから、引っ張っていってあげると喜ぶと思うんだ」
「あ、本当のお姉さんだったのですね!」
「良かった……」
咲ちゃんと留美ちゃんがホッとしたように胸をなで下ろしている。
「むぅ。雪姉ちゃんそんなことないって。僕はこれでも結構活動的と言われてるんだよ!」
「ふーん。そうなの?」
雪姉ちゃんは僕の意見をスルーして、咲ちゃんと、留美ちゃんに話しを聞いた。
実の弟の意見を信じないって酷いと思うんだ。
「お姉さんだから言いますけど、冬耶君って鈍感なんです」咲ちゃんが。
「それに、少し天然なところもあるんですよ!」咲ちゃんも頷く。
あれ? 雪姉ちゃんの顔が引き攣ってる。
ああ、そうか、いつも言われるもんね。
「そ、そうなんだ……」
「そうなんですよ。それに、今度の休みに出かけようと言っても付き合ってくれないんですよ!」
「うんうん。酷いですよね!」
うわ、雪姉ちゃんを篭絡しにきたのか。
雪姉ちゃん素直だからすぐ乗せられちゃうのに……いやーな予感がするなぁ。
「冬耶、折角可愛い娘からのお誘いなんだから、付き合ってあげればいいじゃない」
ほら、こうなったよ。
そして、何かを思い出したかのように、雪姉ちゃんはポンと手を叩いた。
「ああ、そうだ! 確か連休の後半にボクと遊びに行く約束してたよね。その日に出掛けたらどう?」
えええええ、なんでそうなるの! どんどん変な方向に進んでるよ。
「雪姉ちゃん約束破るの? ずっと楽しみにしてたのに!」
「いやいや。そんな興奮するなって、あくまでも例だよ。だって折角の好意なんだし悪いだろ?」
「むぅ。だったらいいけど……ちゃんと約束守ってよね」
「判った、判ったから」
雪姉ちゃんが呆れたような顔をしてるけど、咲ちゃんや留美ちゃんより、雪姉ちゃんと遊びたいんだから仕方ないよね。
「あのお姉さん、そこまで無理しなくても……」
「私達は空いてる日にいけたら充分なんです……」
雪姉ちゃんに話すの止めて欲しいなぁ。
ほら、ウンウンと首を振って共感してるよ。
「2人とも凄く良い娘じゃないの。冬耶は何処が不満なの?」
「べ、別に不満は無いよ。咲ちゃんも留美ちゃんも可愛いと思うもん」
「だったら……」
雪姉ちゃんの言葉を僕は遮る。
「無理なものは、無理なの、それに僕は雪姉ちゃんの方がもっと可愛いと思うよ」
雪姉ちゃんが目を丸くして、肩をすくめた。
「ゴメンねぇ。咲ちゃんと留美ちゃんだっけ? 冬耶頑固なところがあってね、一度こうなると中々直らないんだよ。今度冬耶攻略法を教えてあげるから、連休は勘弁してあげて貰えないかな?」
「「本当ですか! お姉さん」」凄い勢いで2人が雪姉ちゃんに詰め寄る。
「う、うん。今度ね」雪姉ちゃんも此処までの反応をされると思ってなかったのだろう。
ちょっとビックリしてる。
咲ちゃんと留美ちゃんは、いつの間にか手をつなぎながら跳ねて喜んでいる。
争ってたのが嘘みたいだね。
その時、凄い勢いで走ってくる黒い塊が見えた。
近付くにつれ、それが氷兄ちゃんだと気付く。
「雪姉ちゃん。氷兄ちゃんが走ってくるよ」
「え? あのストーカー撒いたと思ったのになぁ、それじゃ急用が出来たから皆またね♪」
雪姉ちゃんはそう言うと、良い香りを残して去っていった。
代わりに氷兄ちゃんがさっきまで雪姉ちゃんが居た場所で立ち止まる。
「おお、冬耶か。今雪居なかったか?」
「え、うん。居たけど、どうしたの? 氷兄ちゃん」
「くそーー。また逃げられたか。だが、そんな冷たい雪もいい!」
咲ちゃんと、留美ちゃんが氷兄ちゃんを見て目を奪われている。
「氷兄ちゃん。あんまり変なことしてると、雪姉ちゃんに嫌われるよ?」
「無い無い。雪の性格は熟知してるからな。口ではなんだかんだ言うけど、最終的に優しいんだ。そして、押しに弱い! 絶対落とせる筈!」
それはあるかもしれない。氷兄ちゃんの意見は納得させられる部分があるなぁ。
僕から見てもお人好しだし、すぐ騙されるもんなぁ。
雪姉ちゃんはギャンブルとか絶対向かないよね。
「彼女達は、冬耶の友達か?」
「う、うん。クラスメイトだよ」
「そうか、泣かすようなことをしたら駄目だぞ? それでは、俺は雪を追う! またな」
氷兄ちゃんは、再びダッシュで雪姉ちゃんが去った方を追いかけていった。
来た時も凄かったけど、去るときも圧巻だね。
「ね、ねー冬耶君? 今の超絶カッコイイ人って、誰?」
留美ちゃんも聞きたいのだろう首を上下に振って催促してくる。
あれ? さっきもこんなことあったような。
「ええとね。今のは氷室って言う僕のお兄ちゃんだよ」
「うわぁ、大人な冬耶君って感じで凄くかっこよかったよ!」
「うんうん。冬耶君もああなるんだよねぇ」
「そうかなぁ」
見た目はああなるかもしれないけど、性格的には僕は雪姉ちゃんのようになるのかも。
あそこまで強烈なのは無理だと思うんだよね。
「でも冬耶君が女の子になびかない理由が今日判っちゃったなぁ。あのお姉さんを見てたら普通の娘なんて霞むもの」
「そうだよねぇ。アタシなんて初め微笑まれて、思わず惚れそうになったよ」
「あ、留美もそうなんだ? 私も私も、ちょっと可愛すぎるんだよね。なんか守ってあげたくなる感じがするよね!」
雪姉ちゃん。年下にまで言われてるよ……
でも、咲ちゃんの言うように、隙だらけっていうか、危なっかしく見えるんだよねぇ。
やはり、雪姉ちゃんを守るのは僕しか居ないのかな?
氷兄ちゃんは雪姉ちゃんを守るっていうより、襲いそうだしね。
それにしてもいつの間にか、完璧に話題がそれたのは流石だなぁ。
持つべきものは兄姉だよね!
これで番外編は終了になる予定です。
この話やりたかったんですよねぇ。
冬耶の影が薄いからなんて思ってませんよ。
新連載として、「学園のヒロインにボクがなる!」書き始めてみました。
すのーでいずをライトにして、毒を抜いた?(笑)みたいな作品ですので、良かったら見てやってくださいませ。
さりげない、宣伝でした。




