MMOをやってみよう! 前
現在部屋では、氷兄がPCのセットをしてくれている。
それを僕は自分のベットに座りながら様子見していた。
氷兄は、こういう約束を絶対守ってくれる。
これだけは良いところだよね。
FSCCの開始が午後1時、後4時間だから間に合うかが少し心配だ。
「それで雪さ、クローズドベータって聞いてたけど、FSCCだろ? 良くアカウント取れたな」
氷兄が背中越しに聞いてきた。
「あ、うん。凄いでしょ。太一が一緒にやろうってくれたんだよねぇ。持つべきものは親友だよね!」
「へぇーー。た、い、ち、ね? そうか、そうか、あの野郎は俺の雪にどうしても手を出すのな……」
ちょっと! 急に黒いオーラ出し始めちゃったよ!
「氷兄、変なことしないでよ? 好意でくれたんだから。それと、俺のって何? いつから僕は氷兄のモノになったのさ!」
「え……そんなことお兄ちゃん♪に言わせるの? いやーどうしよ」
黒いオーラは消えたけど、今度はすさまじくキモイ反応になったよ。
「いや、やっぱり言わなくていいや。さっさとPCのセットアップして」
「なんだそりゃ。でも、それってあれ? 本当は言って欲しいけど、恥かしくて言えないっていう、ツンデレに目覚めたのか? やっと雪にもデレが芽生えたのな。嬉しいなぁ」 相変わらず訳判らないよ。この変態は……
「デレも何も無いし、さっさとやって貰いたいだけなんだけど」
「またまたぁ。本当は聞きたいんだろ? 素直に言うといいぞ」
メンドクサイなぁ! もう!
「どうせ話したいんでしょ。さっさと言えば?」
「じゃー言っちゃおうかな。ほら、俺と雪ってキスした仲じゃないか♪」
……くぅ。嫌なこと思い出した。後ろ向いててくれて良かった。
絶対今、顔真っ赤だ。
「そんな記憶ないなぁ? 夢でも見てたんじゃないかな?」
「お昼を食べた後の桐木の公園、雪の唇が――」
具体的に解説するなこの変態!
「きっとそれ幻だよ。だって僕の記憶に無いもん」
「ま、ぼ、ろ、し、ねぇ♪ まぁ雪の気持ちは良く判ってるから、安心していいぞ」
くそーーー。なんであんなことしたんだろ。
汚点だ。ああ、忘れたいよぉ。
記憶喪失にでもならないかなぁ。
――いや、それは不味い気がする。
記憶が無いのを良いことに、家の変態ズがよからぬことを吹き込みそうだし。
「それで、さっきから妙に時間掛かってるけど何してるの?」
「ああ? ちょっと雪が使いやすいようにカスタマイズしてる。後、回線を試す為に、FSCCのソフトもダウンロード中だ」
「おお、氷兄気が利くね。伊達に変態歴が長くないよ」
「それほどでもないかな♪」
やはり、変態と言っても全然効果ないね。あたらしい単語を編み出さないと駄目なのかな。あの黒いG並の耐久力だよ。
ダウンロードが終わったのは3時間後だった。
10Gものファイルサイズはさすがに時間が掛かった。
危うく、CB開始時間に間に合わないところだったよ。
氷兄は、設定が終わると自分の部屋に戻っていった。
何かやることあるとか言ってたけど、氷兄が何してようがどうでもいいし、気にするだけ無駄ってことだよね。
無事、FSCCのインストールも完了し、PCが自動で再起動する。
すると、OSのロゴ場面に変な画像が出た。
芝生の上で猫耳をつけた白髪の少女……
その画面は一瞬で切りかわったけど、どうみても僕だった。
……きっと消し忘れたのだろうね。耐えろ僕、PCに罪は無い壊しちゃ駄目だ。
いやそれよりなんでこの写真を氷兄が持ってる!
後で、とっちめて元画像ごと消去することを誓う。
――氷兄に入れといてもらったSK○PEで太一とCB開始時間を待っている。
これで、マイクがあればボイスチャットも出来るそうなので、余裕があればマイクも購入するといいと教えられた。
とりあえずは、文字でも充分だし必要になったら買うことにしよう。
『YUKI:太一はどんなキャラで行く予定なの?』キーボードで文字を入力する。
『TAICHI:うーん。そうやな。俺TUEEキャラがええかな』
ノーパソの画面上に太一の文字が返ってきた。
※ 以後 Y YUKI T TAICHI
『Y:それ何がしたいの? 折角オンラインなんだし皆で遊べるキャラがいいんじゃない?』
『T:その考えが甘いんや。やるからには周りが恐れ戦く程じゃないとあかんがな』
『Y:そんなものなのかなぁ?』
『T:そやそや、それと雪は天然やからな。あまり自分の本名とかばらしたらあかんぞ。特に女子高生という台詞は厳禁や、変なのが寄ってくるからな』
『Y:ふーん。良く判らないけど気をつけるよ』
『T:その心がけや、それじゃそろそろ時間やしゲームの世界にログインしようや。キャラ作りとか時間かかりそうやし、作り終わったら、これか電話で連絡しよや。まぁ30分もあればいいやろ』
『Y :あいさ』
太一とのチャットが終わり、FSCCのゲームを起動する。
画面全体に、凝ったムービーが流れ、今から始まる冒険に胸が弾む。
そのムービーは5分近くあり、途中から長すぎると思ったが、初回ぐらいは見るものだろうとずっと眺めていた。次回からエンターで即飛ばしだけどね。
そして、やっと入力欄が出る。
僕は太一から貰ったIDとPASSを入れてLOGINボタンをクリックした。
すると、キャラクター製作画面が現れた。
太一から聞いていたサーバ選択みたいなものは、クローズドベータでは同じものを使うようだったので、連絡する手間が省けたみたいだ。
さて、早速キャラを作りこむ!
この瞬間が楽しいよね。
自分の手足となって動かす存在なんだから、ここで妥協すると絶対痛い目を見る。
まず名前から――
名前 トール (部屋に飾ってある伝説の武器コレクションから取った)
性別 男 (大きな武器持てる女子なんて居る訳がない)
年齢 38 (歴戦の戦士はこれぐらいの年齢でしょ)
種族 ヒューマン (ドワーフと迷ったけど、ここは無難に人間にした)
職業 鈍器戦士 (男は大槌でしょ! 剣? 槍? ロマンがないね)
となった。
外見は、髭面の筋肉マッチョ親父。
髭とかをアールグレイにして、渋めをだそうと思ったけど、とりあえずはこれでいくことにする。
他のゲームで実際に年齢が加算されるというのがあったし、あまり年取ってて速く死ぬのは嫌だしね。
全て入力出来たので、ゲームスタートボタンを押す。
どうやら、重複もしなかったようで、またムービーが始まった。
このゲーム、どんだけムービーが好きなんだろうね。
ここまでキャラ作りとムービーしか見て無い気がする。
チュートリアルが終わり、初期村と思える場所に出る。
どうやら、此処からはパーティプレイが出来そうなので、太一に連絡することにした。
スマフォで太一を呼び出し、少し待つ。
ノイズの後、太一が電話に出た。バックからFSCCの音が聞こえている。
「太一まだー? 僕準備終わったよ」
「ああ、オレも今チュートリアル終わったところや、雪は何処にいるん?」
「ええとね。初めの村の防具屋前かな」
「了解、向かってみるわ? それで今チャンネルはいくつや?」
「何それ?」
「画面の右端に現在のチャンネルがあるやろ。見てみ」
言われるまま画面右端を見ると、20chという表示がされていた。
「20chって書いてあるね」
「ほいほい。ほな20chに移動して、防具屋の前に移動するわ」
「このchって何?」
「ああ、それはな、全員同じマップに集まると、モンスターとか取り合いになるやろ? そこで同じ世界をch分作って、空いてる場所で狩りやすくするためのものや」
「なるほどねぇ。確かに、多いと遊べないしね。賢いじゃないFSCC」
「いやいや。これネットゲームの常識やから」
「そなんだ。僕ネトゲ経験浅いからなぁ。P○3のとは大分違うしねぇ」
「まぁ、今から覚えていけばいいねん。で、雪らしいキャラが見当たらないんやが、本当に防具屋前なん?」
「うん。そうだよ。僕も太一っぽいキャラ見当たらないんだよねぇ。何処に居るの?」
「どうみても防具屋前やな」
もう一度、画面を良く見てみる。
そこには、ちょろちょろ動く、金髪ロリがいた。
「ねー、まさかと思うけど、太一のキャラって金髪の幼女じゃないよね?」
「そやそや、雪は何処いるん? オレ見つけれないんやが」
うわぁ、本当にこれか。見る分には可愛く見えるけど、中身が太一だしなぁ。
「じゃー。ちょっと止まっててよ。横まで行くから」
金髪ロリが言われた瞬間に止まる。
そこに、僕の操る髭マッチョが近付いていった。
「ええと……まさかやけど、その親父なん?」
「そそ! かっこいいでしょ!」
「……………………」
何この沈黙?




