これはデート? 3
お昼ご飯は、ハンバーガーをテイクアウトして、近くの公園で食べることにした。
駅から少し離れた処に大規模な公園があり、休日になるとストリートパフォーマー達が集って、技を競いあっている。
丁度今はゴールデンウィーク中だし、それを見ながらご飯を食べようという訳だ。
「毎度思うんだが、フィレ○フィッシュは無いだろ。ハンバーガーだぞ? 間に肉が入って無いのは邪道だろうが」
氷兄がハンバーガーの紙袋を持ち、したり顔で講釈しながら歩いている。
その横を僕が付き従っていた。
「好きなんだから別にいいじゃん。氷兄が食べる訳でもなし、何が不満なの?」
「不満は無いが、その白身魚が俺のダブ○チーズバーガーと殆ど値段に差が無いのが、許せないという感じだな」
「ふーん。確かに値段高いよね、フィレ○フィッシュ。でもタルタルソースが美味しいじゃない。これを食べちゃうとコッテリ系はどうもねぇ」
「馬鹿だなぁ。体に悪いカロリーの高い物ほど美味いんだぞ? これ真理」
「むぅ。そんなもんかなぁ?」
「ケーキやステーキも、カロリーが高いだろ。つまりはそういうことさ」
「珍しく的を得た例えだね。少し関心するよ」
「俺はいつも的確な意見を述べているだろうが。雪が聞いて無いだけじゃないのか?」
それはあるかもしれない。氷兄の発言なんて全部聞いてたら頭痛くなるしね。
そうこうしてると、目的地の公園に到着した。
大きな道が広大な芝生を囲うように仕切られている。その道の両端に散らばるように人だかりが出来ていて、歓声や拍手が随時沸き起こっている。
ストリートショーが開催されてるに違いない。
僕と氷兄は、先にご飯を食べる為に空いているベンチに腰を下ろした。丁度木陰になっていて涼しい場所だ。
氷兄から、フィレ○フィッシュ、ポテトとジュースを受けとる。
そして、氷兄の食べる量を見て苦笑する。
「ダブ○チーズバーガーって聞いてたけど、3個なんだ。ポテトのLとナゲットもあるし、腹壊すよ?」
ポップコーンも食べたというのに、すごい胃袋だよね。
「これぐらい軽いだろ? 後1個はいけそうな気もする」
氷兄は軽口を叩いて、ダブ○チーズバーガーにかじりついてみせた。
「うわ、僕なんてこれでも充分なのに、やっぱり変態となるとなんでも規格外なのかなぁ」
はむっと一口フィレ○フィッシュを頬張る。
タルタルソースの酸味が美味しいね。
「サッカー部の連中だったらこんくらい当たり前だって、雪も部活でも入ったらどうだ? いい加減、放課後を有意義に使う部の活動も飽きてきたろ?」
「そうは言うけどさぁ。夕飯の支度とか結構大変なんだよ。母さんが許してくれるかな」
「大丈夫だろ。学校の活動だしさ。一応あの人も親なんだから、それぐらいは大目に見ると思うけど」
「うーん。少し考えてみようかな」
「だったら、サッカー部に入って、俺専用のマネージャーになろうぜ!」
熱心に勧める理由が良く判った。
「絶対い、や、だ!」
「そんな冷たいこと言う娘はこうだ!」
僕の手に持っていたフィレ○フィッシュに、氷兄がかじり付いた。むふふと満足そうに食べている。
一口しか食べてなかったのに、半分ぐらい無くなっていた。
僕のフィレ○フィッシューーー。
「うわぁ、信じられない。そっちがそういう気なら――いただき!」
ベンチに置いてあった、ナゲットを容器ごと全部横取りした。
「ちょ、待て、いくらなんでもそれは鬼だ。たったの一口だけだろ? なんでナゲット全部なんだよ!」
今更慌てても遅いのだ。
「ふふふ、僕のフィレ○フィッシュにはそれぐらいの価値があるんだよ。判ったらもう横取りしないでよね」
入手したナゲットにマスタードソースをつけて食べ始める。
バーベキューソースは邪道だよね!
「いや、確かにそうか、ふむ。そうだよな。えへへ」
すごい気持ち悪い反応してるんだけど。
「氷兄? ナゲットとられて狂ったの? 1個ぐらいあげようか?」
一個を手に持って、氷兄の口元に持っていく。
すると、ぱくりと食べられた。
おお、まるで鯉みたいだ。
「ふふふ。まぁ雪は気付いてないみたいだしな。ほらフィレ○フィッシュ冷めるぞ。もしかして残りの全部くれるつもりなのか?」
気味が悪いなぁ。でも冷めると美味しくないし、大人しく食べることにしよう。
半分になったけどね……
はむっ、はむっ、フィレ○フィッシュにかじりつく。
氷兄の顔がニヘラーと変った。
「何? あんまり見つめないでくれない。食べ難いんだけど」
「ふふふ、それっと俺と間接キスだよな♪」
「ぶっ!」思わず吐き出しそうになったじゃないか!
何てこと言うのこの変態は!
「もうこれいらない! 氷兄にあげるよ!」
残りの分を氷兄に差し出す。
「え、いいのか? じゃー雪の間接キスいただき♪」
急いで、取り戻す。
「ああ、もう! やっぱり自分で食べる!」
僕のフィレ○フィッシュが汚された気がする。
でも、地面に落ちたと思えばまだ可愛いかもしれない。
そう思うことにしよう。
フィレ○フィッシュを食べ終わる頃には、氷兄は3個目のダブ○チーズバーガーに取り掛かってている。
その間に、ゲットしたナゲットを食べることにした。
それを見た氷兄が催促する。
「雪、ナゲットプリーズ!」
「そこのポテトでも食べてればいいじゃない? これは僕の」
わざとらしく微笑んでみる。
「…………」
「あっ、あんなところに!」氷兄が僕の背後を指差した。
そんな見え過ぎた手に引っ掛かる訳がない。
「……どしたの?」見せびらかすように、ナゲットをパクつく。
「………………」今度は、何も言わずに驚愕した表情を浮べている。
これも罠の気がする。でも本当に何かあったら?
――遂、振り返ってしまった。
そこには、平和に過ごす人達が目に入るだけだった。
「隙あり!」
氷兄の台詞に慌てて顔を戻す。
ヤラレタ……くそぉ!
ナゲットの殆どが強奪されていた。
「氷兄騙すなんて汚いよ!」
「ゆひぃをだますなんえらくらもんら(雪を騙すなんて楽なもんだ)」
「食べ終わってから話してよ、判んないから!」
氷兄はドリンクを一口含んで、ゴクリと中の食べ物を飲み込んだ。
「雪を騙すのなんて楽なもんだ。雪ってさ騙し合いに向かないんだよ。顔に表情が出過ぎだ」
自分の顔を触って確かめる。
むぅ、そんなことない筈なんだけどなぁ。
氷兄が狡賢いだけな気がする。
「根が正直と言ってよ。腹黒い氷兄とは大違いだよね。ナゲット1つしか残ってないじゃないか。どんだけ取るんだよ」
「元はと言えば雪が取ったんだろ。だから、俺のじゃないか」
「違うね! 氷兄が僕のフィレ○フィッシュを食べたからだろ!」
「ああ、雪の味がして美味しかったぞ♪」
恥かしい台詞を言うな!
「そんな味しないし、氷兄のした行為は、僕の恨み帳に記入しとくから、覚えておいてよね!」
「おっ何? 交換日記でもしたいのか? 帰りに買ってこうか?」
「……う、ら、み、帳、それも心のね!」
「知ってるか、嫌いと好きってのは表裏一体らしいぞ? つまり、それぐらい雪の中には俺が溢れてるってことだな。なんか照れるなぁ」頬を掻いて照れている。
おかしい、責めてる筈なのに、何故か相手は喜んでいる。
僕は無力だ……
食べ終わった後に、氷兄をベンチに残しお手洗いに向かう。
どうも、女に変化してから、トイレが近くなった気がするんだよね。
肉体的な面で、女になって得した記憶がまるで無いんだけど……
「はぅ……」文句を言っても、生理現象が止むわけで無し。
さっさとトイレに言って用を済ませた。
そして、その帰り道。
僕の進行方向を邪魔するように、ガラの悪い三人組みの男が道を塞いだ。
嫌な予感がする。
「はーい彼女、一人? 俺達とデートしようぜ」その中の一人、茶髪の男が話し掛けてくる。
ニヤケタ顔が気色悪い。
とりあえず汎用スキルで迎撃してみる。
「そーりー。あいきゃんとすぴーくじゃぱにーず。ぷりーずじゃーまん」
これで去ってくれと祈る。
この男達からは、少し危ない気配がするのだ。
「おぉ、英語? 見た目通り外人だったか。都合がいいな」茶髪では無く、鼻ピアスの男が呟く。
「ああ、これなら喚かれても周りの奴ら判らねーし。どっか連れてっちまおうぜ」
最後のタトゥー男が邪な笑みを浮べている。
不味い! すぐに思案を巡らす。
ここから、トイレまでの距離は結構ある。
更にトイレの位置は目立つ場所でなく、少し物静かな離れた処にあるのだ。
もし逃げ込んで篭城したとしても、こんなガラの悪い連中が居たら、中に入ってくる人はマズ居ないだろう。
それどころか、近付かずに他の場所に行こうとする可能性もある。
ならば残された手段は、近くの林を突っ切って、人が大勢居る芝生の方に逃げる込むこ
とだけだ。
そう判断すると、すぐ林に向かって駆け出した。
「「「ちょ(てめぇ)(こら!)、待てや!」」」
男達の怒声が背後からする。
僕が急に逃げるなんて思ってた訳が無い、当然の反応だろう。
話してる内容が筒抜けとはバレてないしね。
しかし、これで諦めてくれれば良かったのに、背後を振り返ると追跡してくる姿が見えた。
僕は必死に速度を上げる。
ハァッ、ハッ、ハッ、軽い登り坂になっていて呼吸が苦しい。足も少しもつれそうだ。
氷兄の言ってたみたいに、運動部にでも入ってれば良かった。今更後悔しても遅けど。
徐々に足音が近付いてくるのを感じた。心が悲鳴を上げている。
でも、天は僕に味方したみたいだ。
目の前には林の切れ間、そして、芝生にはくつろいでいる多くの人が見えた。
逃げ切った。
再び振り返ると、奴等の悔しがる顔が見えた。
「ふぅー」呼吸を整える。
汎用スキルにこんなオプション効果があるとは思わなかった。
これ、日本語で話してたら絶対危なかったよね。
こんな人気の多い場所でもこれなんだから、もっと気をつけないと駄目かもしれない。
ベンチに戻ると――氷兄は居なかった。
普通、待ってるって言った人が動く? 変態は落ち着きが無さ過ぎる。
僕がどんな目にあったと思ってるんだ!
そして、15分後ぐらいしてやっと戻ってきた。
だが、その体全体に多数の生傷が出来ていた。
「氷兄、大丈夫? ドジだかからつまづいてこけたの?」
「…………」
すごい肩を落としちゃったけど……僕変なこと言ってないよね?
「本当どうしたの? 気になるって、まさか喧嘩?」
「いや喧嘩という訳じゃない。正義の鉄槌って奴だ」
「それじゃ判らないって。氷兄が暴力振るうなんて僕見たことないよ。理由教えてよ!」
氷兄は座ってる僕の頭を優しく撫でる。
「雪、恐かっただろ? それが答えだ」
それで全て把握出来た。つまりは、僕が逃げきった後に氷兄があの三人組に報復したのだろう。
「何でそんな無茶するんだよ! 氷兄が代わりに怪我したら何の意味もないじゃないか。僕は無事だったんだし!」
氷兄は顔を顰める。
「まぁ、そう責めるなって、今回は偶々運が良かっただけかもしれないだろ。後少し雪が逃げるのが遅かったら、きっと、想像するのも汚らわしいことが行われた筈だ」
そう言われて、再び恐くなってくる。
もし、あの時……これ以上考えたくない。
「でも、氷兄が傷つくのは見たくないよ!」
「それは俺も同じだ。俺の宝物が汚される姿を見たくないんだわ。つまり、そんな行動をした奴らを、俺は許せない」
「うぅ……」普段馬鹿ばっかり言ってるから、格好いいじゃないか。
「という訳だから、姫をまもった騎士の俺には、何か褒美があっても良いと思うんだ」
少し感動したのに、これだから変態は!
でも、たまには優しくてしてもいいかもしれない。
「何? ちょっと嬉しかったから、簡単なことならしてあげるよ」
「おおおお、珍しく雪が素直な反応だ! 何これ? 俺の思いが遂に通じたのか? うは、このまま結婚? ハネムーンは海外がいいよな!」
どうして、今の一言でそこまで夢が見れるんだろう。
ある意味氷兄って幸せなのかもしれない。
「変な事言ってるから、やっぱり無しね!」
「ごめん、悪かった、それは勘弁してくれ! てか、一度OK出したのに、今さら駄目とか無いだろ!」
「むぅー。じゃー何? 次おかしなこと言ったら本当に無しね」
「そだなぁ! キス! 雪のファーストキスは母さんに取られたからな」
まだ根に持ってたのか、しつこいなぁ。
「それは却下だね♪ 他には無いの? 無いなら終了」
「うそぉー。だったら膝枕でいいや。ちょっと休ませてくれ」
まっ、体とか痛めてそうだし、そのぐらいだったら良いかな。
僕の為に戦ってくれたのだ。感謝しないとね。
「うん。いいよ」
「おお、いいねぇ。膝枕も漢のロマンだからな!」
「はいはい、馬鹿言ってないで、早く横になってよ」
「おう!」氷兄は素早くベンチに横になると、頭を僕の太ももの上に乗せてきた。
ワンピースの裾から少し髪の毛が当たって、くすぐったい。
「おお、柔らかいわぁ。これが雪の膝枕かぁ♪」
「変な感想言わない!」
ポカッと軽く氷兄の頭を殴る。
「お前、傷ついてるお兄ちゃん♪に暴力はないだろうが……」
「あ、ゴメン痛かった?」殴ったところを慌ててなでる。
氷兄の顔が悪戯小僧のようになった。
「ふふ、嘘だよーん」
「もう! 信じられない。なんでそういうことするの!」
再び殴ろうと思ったけど、さすがに自重した。
本当に痛いかもしれないし。
「悪い悪い。でも雪の感触は気持ち良いし、正に天国だよな♪」
「そんなこと誉められても嬉しくないから」
「そうか?」氷兄はそういうなり、くるっと体を回転させて、僕の股に顔を密着させるような体制をした。
「おおお。よい香り! 雪の匂いだ!」
瞬時に、顔が真っ赤になる。
「何してるかこの変態!」結局、後頭部を殴りつけていた。
その後氷兄は疲れたのか、すやすや寝てしまった。
「クスッ」寝顔だけは可愛いのにね。
氷兄の髪を梳く。サラサラしてて心地良かった。
氷兄ありがとう。きっと僕を心配して見に来てくれたんだよね。
じゃなかったら、あのタイミングを知る訳が無いから。
正直には言えないけど、本当は感謝してるんだ。
これはご褒美だぞ。
周りをさっと伺ってから、氷兄の前髪を掻き分け、そこに顔を近付けていく。
そして、そっと、おでこにキスをしてあげた。
ふふ、ちょっと恥かしいね。
その瞬間、パッと氷兄の目が開いた。
その目と僕の目が交差する。
「なっ!!」狸寝入りしてやがったのか!
「ふははははは。雪のでこちゅーげっと!! ひゃっほーーーーー!!」
氷兄は素早く立ち上がり、踊りだした。
そんなにはっきり言わないでよ! 首から背中まで赤くなる。
「もう知らない! 今見たのを忘れないと、一生後悔することになるよ?」
「俺今日からどうしよ。顔洗えねーよ。うわっ、今日のデート最高じゃね?」
「はぅ……」なんでこんなことしちゃったんだろ。
でも、さっきの感情って女の子ぽかったような。
まさか、体に魂が引き寄せられている?
じゃなかったら、あんなこと絶対しない……筈。
「雪、次のキスはいつ? 今か? それとも明日?」
ああ、煩いなぁ。考えが纏まらないじゃないか!!
第二章 (完)
これで第二章が終了になります。
此処まで読んで頂いた方に感謝です。
この後、すのーは少し休憩して、新モノを始めようか迷っているところです。
ユイもありますしね。
次の章からは季節を動かす予定です。其の前にひょっとしたら、外伝みたいのを挟むかもしれません。
気長に待っていただけたら幸いです。
※ 誤字、脱字、修正点などがあれば指摘ください。
評価や感想、コメントも是非にです




