これはデート? 1
「うわ! これ限定のボトルキャップフィギュアだ。すごいなぁ、売ってるの初めてみたよ」
本日は、氷兄曰くデートの日。桐木駅の近くにあるトイショップを見物していた。
前回、遥と楓ちゃんと来た時に、妨害されて行けなかったお店でもある。
氷兄の思惑はどうあれ、僕の中では、家族で遊んでるだけという脳内変換をすることにしている。
世間から見てもその通り、何も間違ったことはない。
しかし、腕を組もうとしたり、手を繋ごうとしたがるのを何とか出来ないものか……溜息が出るね。
「どれどれ――雪これ持ってなかったか? 部屋に飾ってあるペプ○のやつだろ?」
氷兄がショーケースのボトルフィギュアを見ながら話しかけてくる。
その際に、背後から肩に手を載せてきた。
今日着てきた格好は、氷兄がう、る、さ、いので、ベージュ柄のワンピースに、膝上高のソックス、茶色のパンプスという組み合わせだ。
ワンピースの生地はそれ程厚くない為、氷兄の手には僕の肩の感触がはっきり判るに違いない。
現に邪な雰囲気が感じられる。
「あれは、市販で売ってる奴をコツコツ集めたの。これは、専用葉書にシールを貼って貰える懸賞品なんだよ」
軽く体を捻って、氷兄の手を外そうとする――が動かない。
ちっ……強気に出れない弱味があるからって、調子にノリ過ぎてると思うんだ!
「てか1万越してるぞこれ。たっけーな。他のモノ買ったほうがいいんじゃね?」
「氷兄はコレクター心理ってモノが判ってないね。一つ買うと全部揃えたくなるものなんだよ。そして、これは限定! 心に響くモノがあるでしょ?」
「うーむ。俺にはその限定って言葉、あまり意味を成さないけどな。どうして、皆限定って言葉に弱いのか謎なぐらいだ。普通のモノの色違いとかそんなもんだろ?」
「ひゃ」何さりげなく、首筋とか撫でてるの!
「氷兄!」ジロリと睨む。
「うんなんだ?」氷兄は白々しい態度をとっている。口笛でも吹きそうなぐらいだ。
「……いい加減にしないと怒るよ?」
「なんのことだよ? お兄ちゃん♪さっぱり判らないぞ」
殴りたい……
「この肩の手がいやらしいんだよ! 邪魔、どかして!」
「えっそうか? そんなつもりは無かったんだが、ごめんごめん」
意外と素直に外してくれたけど、顔が緩んでるのが良い証拠。
まったく、なんでこう変態なのかなぁ。年がら年中発情しないで欲しいよ。
「俺だったら、これのほうが欲しいけどなぁ」氷兄がこの雰囲気を紛らわすように指差したのは、ヴァンパイアプリンセス、エリカのフィギュアだ。
「……一応聞いておくけど、なんでそれなの?」
「いやさ、この娘って雪ソックリだろ。俺の部屋に飾って置いてもいい気がする。2000円でお得だしな」
はぁ……そんなことだと思ったよ。
「てかさぁ。その何でも僕に関係したものとか、そういうの止めた方がいいと思うんだよね。氷兄モテるんだしさ。好きな娘とかいないの本当に?」
「別に好きな娘ならいるぞ?」
え? 意表をついた反応。
これでやっと、僕離れしてくれるのかぁ。
その為の協力は惜しまないよ!
「誰、誰? 僕の知ってる人?」
「ああ、良く知ってるぞ――だって『雪』だから! 雪以外の女? はっ、ありえねー」
鼻で笑われたよ……
そして、結局そうなのね……この際、氷室様ファンクラブとやらに接触して、氷兄を正しい方向に導くべきな気がしてきた。
明るい僕の未来の為には必須かもしれない。
僕が考えていると、氷兄が話しを続ける。
「ここで、本当? ボクもお兄ちゃん♪のこと大好き、とか、お兄ちゃん♪さえ居ればいいの! みたいな台詞はいつ出てくるんだろうなぁ。中々壁は手強いぜ! しかし、壁は高ければ高いほど、越した時の喜びはひとしおってモノだからなぁ」
僕の反応を無視して、勝手に夢物語を構築してるんだけど、どうするのこれ?
「ねぇ、氷兄。どうせだし神社でお参りして帰ろうか? 変態が直るようにお祈りしてあげてもいいよ?」
「ふふふ、雪は素直じゃないよな。本当は嬉しい癖に。今はツンデレのツンしかないが、いずれ壮大なデレがあるんだよな? 待ち遠しいぜ!」
又、どこかの次元に思考が飛んだよ。
もういいや、このままほっとくことにしよう。
変態につける薬は無いしね。
再びボトルフィギュアを注視する。
うーん。でも欲しいけど高いなぁ。せめて半額なら手が届くに。
ぐぬぬ……仕方ないか。
他に何か目ぼしいモノは――店内を見回すと、沢山のショーケースのの奥、壁際にある赤いガチャポンマシーンが目に入る。
そこにあった、一つのガチャポンが目を引いた。
あ、あれはっ! 伝説の武器コレクションじゃないか。
これは、やるしかないでしょ!
全6種+シークレットで、そのうち5種は手にいれているんだよね。
目指すはシークレットの聖剣デュランダルとエクスカリバー。
此処であったが、なんとやらだよ!
その勢いのまま、100円玉を2枚スロットに入れて、丸い取っ手を回す。
……コロコロと中のカプセルが落ちてきて、下のトレイに留まった。
それを緊張しながら手に治める。
この確認する瞬間が楽しい。
その中身をゆっくり見ると――――ゲイボルグだった……
あはは、1回で出る訳が無いよね。軽く自分を慰める。
これは冬耶にやろう。最強の槍だし、きっと喜んで貰ってくれるに違いない。
くそぉ、もう1回やるか。業者の思惑通りな気もする。
でも次回したら出るかもしれない。この理論に、いつもひっかかると知ってても止めれないんだよ。
再びお金を入れて、ガチャガチャと取っ手を回す。
今度こそ!
下のトレイに留まってるカプセルを今度はすぐには取り出さない。
「サモン、デュランダル!!」
少し、念を掛けてから、取り出してみる。
モノは――――エクスかリバー……
ぐぬぬ。確かに聖剣だし、持ってなかったけど、何か微妙に違う。
ううう、諦めるかぁ。6種コンプしたし、シークレット狙いは辛すぎる。
そう黄昏ていたら、氷兄がこっちに来た。
いつの間にか、現世に戻ってきたらしい。
「ふーん。雪はコレが欲しいのかぁ? ちょっとどいてみ」
氷兄は僕の居た場所に立つと、何の気無しに200円を入れ、ガチャポンマシーンを回す。
そして、無作為にカプセルを取り上げてから、首をかしげた。
「この武器良くわからねーな。なんていう奴だ?」
氷兄からカプセルを受け取って確認する。
中身は――――デュランダルだった……
何故だ! 僕がやっても出ないのに、変態がやると出るなんて、これは細工でもされてるのだろうか?
ちょっとマシーンの左右を見てみる。
しかし、なんともない。
「こらこら、何してる。それで、そのカプセルどんなのだ?」
くそー、無欲の勝利って奴かこれが。
「うんとね。シークレットのデュランダルだよ……」
「ふーん。そっか。それって価値あるんか?」
「うん、一応このシリーズのシークレットだしね。一番価値があると思うよ」
「そかそか、なら良かったな。嬉しいだろ?」
「へ? 別に僕が手に入れたものじゃないから嬉しくないけど?」
「馬鹿だなぁ。俺がコレを欲しくてやったと思うのか? 雪が欲しそうだからやっただけだ。だから初めから雪にやるつもりだって」
氷兄と遊びに来て正解だったかも!
まさかこんなに簡単に手に入るなんて思ってもみなかったよ。
「本当! やったー。氷兄は優しいよね♪」
「それじゃ、そろそろ他の場所いこうぜ」
「うん♪」
氷兄が差し出した左手を、右手で握り返していた。
あれ? これって手を繋いでるような……
ま、どうでもいっか、デュランダル手に入ったし、うれしいなぁ♪
少し短めです。
今回作者迷ってまして、部数の宣言ができません。
※ 誤字、脱字、修正点などがあれば指摘ください。
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