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すのーでいず   作者: まる太
第二章
32/84

無料より高いものは無い

「はぁ……」

 かれこれ10分程、氷兄の部屋の前で逡巡している。

 この後の行動は、ノックする、中に入る、お願いする、了解をとる。

 たったの4工程だけど、そのお願いするが問題なんだ。

 何を条件付けられるか堪ったものじゃない。

 嫌だなぁ。言いたくないなぁ。でもなぁ……

 こんな感じで時間だけが消費されているのである。



 こうなったのには訳があった。



 ゴールデンウィークを明日に控え、夜ご飯を食べてから部屋でのほほんと過ごしていた時の事。僕のスマフォが着信音を鳴らしたのだ。



「ちゃ~らららら~らら~、らららら~らら~♪」


 

 お気に入りのゲームソフト、ロマンシング伝説3の四魔貴族戦のBGMだ。

 中々手強い中ボスに値する敵で、初見殺しと言われている。 



「――らららららららら~、らららららら~ららららら~ら~ららら~♪」 

 いつ聞いても燃えてくるものがあるね!

 音楽に聞き惚れていると、着信が止んでしまった。

 ……くぅ、今からが盛り上がるところだったのに!

 こんななところで切る不届き者は誰だ、と思って履歴を見たら太一だった。

 太一だったらすぐ電話くるだろうと放置することにする。

 案の定一分もしない間に着信音が鳴る。

「ちゃ~ららららーらら~、ららららーらら~♪ ――――」

 うんうん。いい音楽だよ。ここからが見せ場!

 そして、又切れた……

 イラッとして、太一に電話した。

 呼び出してすぐノイズの後に太一の声が聞こえる。

「おお、何してたんや? 電話出れなかったんか?」太一のとぼけた声。

「違うよ! なんでもうちょっと長く呼び出さないかなぁ? 後少しで盛り上がるシーンだったのに、止まっちゃうじゃないか!」

「……はぁ? 何の話やねん。長くって意味が判らないがな」

「だ、か、ら、着信BGMを聞いてたのに、電話呼び出しを止めたら聞こえなくなるだろ? そう言ってるの!」

「……ええとさぁ、言いたいことは判ったけど、居るならさっさと出ろや!」

 その通りだね……

「う、人には出れない事情ってものがあるんだよ」

「BGMを聞きたいが為に出ないのは事情のうちに入らんやろが」

 凄く溜息をつかれてます。

 でも、聞きたいじゃないか! 消化不良だよ!

「ああ、もう判った。太一に音楽の良し悪しを期待した僕が馬鹿だったよ」

「なんていうかさ、全ての部分にツッコミどころ満載なんやけど――まぁ、それはええ、話が進まんからな。雪の天然のせいで、用件切り出す前に疲れたがな……」

 失礼な!

「ふーん。で、何の用事なの、こんな夜に?」

「ええとな、5月4日スタートのFSCCのクローズドベータを一緒にやろうぜっていうお誘いや」

「おおお、あの倍率100倍とか言われるアレだよね? 太一当たったんだ。すごー」



 FSCCとは、ファンタシースペースクリスタルクロニクルという、某大手ゲームメーカー2社が提携して作り出した、この春期待の話題作で、PCを基本媒体とするRPG風オンラインゲームだ。


 

「ちゃうちゃう。オレが当たったならもっと早く誘うっちゅうねん。当選アカウントを2つ貰えることになったんや。だから、1個を雪に上げよう思ってな」

「持つべきものは親友だよね。凄い遊びたいかも! ああ、でもどうしよ……PCだっけそれ?」

「そそ、アカウント登録後にPCのサイトからゲームをダウンロードするってパターンや。だからPCは必須やな」

「うーん……PCかぁ。僕持ってないんだよね、困ったなぁ、遊びたいなぁ……」

「氷室兄ちゃん、PCこないだ買った言うてたやん? 1個貰うか、貸してってお願いすればいいんちゃう? 雪が言えば簡単そうやん」

「確かにそうなんだけどさ……最近、調子に乗ってるんだよねぇ。絶対変な条件とか言い出しそうなんだもん」

「アホか。無料で物とか貰うほうが悪いやろが。少しぐらいは妥協するもんや。世の中等価交換や、錬金術の常識やで」

「だったら、その錬金術でPC買うお金を生み出してよ……」

「出来るか!」



 ということがあったのさ。



「はぁ……」悩んでいてもPCが手に入る訳でも無し、諦めてドアをノックすることにした。

「コンッコンッ」ドアを手の甲で叩く。

「氷兄、ちょっといい? 今大丈夫?」

「ああ、大丈夫だぞ、入ってこいよ」 

 氷兄にすぐ返事を貰い、ドアを開けた。氷兄はパソコンデスクに座っていた。


 

 久しぶりに見る氷兄の部屋は、パソコンデスクにデスクトップPCが1台、勉強机の上にノートPCが一台載せられ、ベッドと簡素なテーブルが置かれていた。

 全体的な色調はベージュ系の落ち着いた感じなのだが、何故か……壁に僕の等身大写真が貼られている。


 

 ぐっ! 右拳を握りしめる。

 今すぐ破り捨てたい……てか、なんでそんなものがあるんだ!

 そう考えた瞬間答えが出た。父さんが犯人に違いない。

 幼少の頃、父さんの書斎にも、僕の女装等身大写真があったのを思い出したからだ。

 そして、こう考えることにした。

 抱き枕じゃなくて良かったじゃないか……

 すごい耐えてるなぁ僕。我ながら関心するよ。

 物を貰おうとしてるのに、初見でキレてたら終るしね……



「珍しいな、雪が俺の部屋に来るなんて? 愛の告白か? それとも夜這い? お兄ちゃん♪はどっちでも構わないぞ」

 満面の笑みでごたくを並べている変態がいる。

 頑張れ僕! 雪は強い子だろ! 負けるなぁ!

「ええとね。氷兄にお願いがあるんだよねぇ」

「ふーん。そっかぁ。まぁ入り口で立ってても話し辛いし、その辺座れよ」

「うん」そう言って、ドアを閉めてから氷兄のベットに腰掛ける。

 僕が座ったのを見計らって氷兄が話しだす。

「それでお願いってなんだ? 雪のお願いを拒否した記憶は俺には無いぞ?」

「うん。それでなんだけどね……氷兄ってPC2台持ってるじゃない。だから1台を譲って貰えないかなぁって――も、勿論ミルクシューの罰はもういいから。どう、か、な?」

 上目遣いをして頼み込む。

「ふむふむ。そういう事か。まぁ雪の頼みだし譲ってもいいだろう。でもミルクシューの罰はこのままでいい。あれって俺的にはカナリ美味いイベントなのに気付いた」

「えっ、どういうこと? 結構お金かかるし、大変なんじゃないの?」

「うむ、確かにその点はある。しかし! よくよく考えてみたら、『俺』が与えた物で雪が凄い喜ぶんだ。あの食べてる時の表情を俺は独占出来るわけさ。何これ? 漢冥利に尽きるってモノじゃないか!」

 ああ、またその単語……でも罰ゲームなのに喜んでたら意味無い気がするよね……

「そうなんだ……じゃー無料でくれるの? 氷兄太っ腹! かっこいいよ!」

「無料は駄目だ。それと煽てても無駄だぞ」氷兄から邪なものを感じる。

「2台あるんだし、1台くれてもいいじゃん。ケチケチしないでさ」

「だから、あげてもいいとは言っているだろ? た、だ、し、条件がある♪」

 うゎ……ほら来た。

 こうなるから嫌だったんだよ……太一のせいだ!

 また抱きついてこいとか訳の判らないこと言うんだろうなぁ。

 ぜったいろくでもないことに決まってる。

「な、何それ? 変なこととか嫌だからね。まともな条件にしてよ?」

「それなら問題ない。同意のある行いはなんでも許されるのだ!」

「同意して無いから! はぁ……諦めて父さんにオネダリしようかな。父さんなら写真撮影に付き合えばくれそうだし」

「待て! 早まるな。条件を聞いてからにしろ!」

 おお、慌ててるなぁ。写真もかなり嫌だから、条件ぐらいは聞いてもいいよね。

「で、何? どんな条件なの?」

「ああ、簡単なことや。雪はさっきミルクシューを諦めると言ったよな? つまりはそれの賭けの対象だった、俺との恋人気分デートをしろってことだ。賭けの対象ということは同価値と言う事。まさか文句は無いよな?」

 ええええ、さっきの説明だとミルクシューの罰は逆に喜んでるみたいなのに……何かおかしくない?

 でも、その理論は説得力があるんだよね。

 氷兄はどうにしろ、僕にあのミルクシューは魅力的すぎるし。

 逆に考えるんだ。この程度なら良かったと思うことにしよう。

 たったの1日耐えればPCが手に入るんじゃないか。

 これってお得なんだよね……きっと

「むぅ。だったら5月3日迄にしてね。5月4日から必要になるから」

「おおっデート決定か! 逃した魚は大きかったと思ってたけど、俺ってツイテルじゃんか。日にちはそうだな。1日の日曜日にしよう。可愛い服着てくるんだぞ。雪はどんな格好でも可愛いけど、やっぱり更に可愛い方が嬉しいからな♪」

 凄いはしゃいでる。でもこれぐらいは仕方ないよね。

「判ったってば、後、ネットワークとかの設定もしてよ!」

「ああ、余裕だ。でも5月4日って何かあるのか?」

「うん。FSCCのCBで遊べることになってね。それでPC欲しいんだよ」

「ああ、そういうことか……」氷兄が意味深な顔をした。

「どうしたの? 変な顔をして?」

「あ、いや、なんでもない。あげるのはこのノーパソでいいよな?」

「うんうん。それでいいよ。ありがと氷兄」


 

 氷兄の表情が気になったけど、とりあえずPCは入手できそうだ。

 FSCCの世界が僕を待っている!

 その前にメンドクサイことがあるけど、気にしたら負けだよね。


きっと、誰もが一度はやるはず! 

好きな着信音を聞いてしまうという行為。


※ 誤字、脱字、修正点などがあれば指摘ください。

評価や感想、コメントも是非にです

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