3人でお出掛け 2
お昼ご飯を食べ終わった僕たちは、現在食後の運動とばかりに卓球をしている。
僕の持ってきたお弁当は好評を得て、「これならクラスで売ればお金持ちになるれよ」と喜ばれた。
正直、過大評価だと思うけど、素直に美味しいと言ってもらえるのは嬉しいし、ありがたく気持ちを受け取っておいた。
しかし! それはそれ、これはこれらしい。
この2人、どうあがいても僕を玩具にしたいようなのだ。
アクセサリーの件で懲りた僕は、必死に抵抗して、卓球の勝負で次の行き先を決めることを了承させた。
2対1、正直分は悪い。
だが少しでも可能性があるなら、それに賭けてみるのが漢ってモノじゃないか!
あ、この漢字、ろくな記憶が無いから、男に訂正しとくね。
女じゃんとか言っちゃ駄目です!
先ずは、肩慣らしとばかりに楓ちゃんと勝負だ。
「くくく。雪ちゃんに敗北の二文字を味あわせてあげるよ!」
楓ちゃんがボールを片手に持ち、突き出すようなポーズを取る。
「う~ん、それはどうだろうね。幾らなんでも楓ちゃんには負ける気がしないなぁ♪」
僕は首を左右に振って、余裕たっぷりの仕草をした。
なんといっても楓ちゃん。運動が苦手なのだ。
正に遥と正反対。この辺りが2人が惹かれ合う理由なのかもしれない。
「そんなことは、わたしのこのボールを受けてから言うのだ。いくよぉ!」
楓ちゃんがラケットを構える。オーソドックスなペンホルダー型ラケットを握っている。
僕はシェークハンド型ラケットを軽く握り、楓ちゃんが打つタイミングを待つ。
「古今東西!」
へ? なんだって!!
「雪ちゃんの胸の揉み心地! 凄く柔らかい!」楓ちゃんのラケットから、ボールが緩やかに弧を描いて飛んでくる。
「ちょっと、なにそれ!」
そんなこと言える訳ないよ!
そのままボールは僕のコートに弾み、地面に落ちた。
「むふふ。1点、1点♪」勝ち誇る楓ちゃん。
「汚いよ。もっと違うのにしてよ! それと、なんで古今東西なの!」
「雪ちゃん。勝負の世界は非情なモノなんだよ♪」
くぅ……そっちがその気ならコッチも考えがある!
「古今東西!」
楓ちゃんの表情が変り、身構えた。
「楓ちゃんの見た目! ロリ!」ボールを打ち出す。
「幼児!」
うそー。返ってきた!
「赤ちゃん!」今度はどうだ!
「はぅ、そこまで酷くないよぉ……」
そのまま点が決まる。
危ない、少しヒヤッとしたね!
「そういうこと言うなら――」楓ちゃんがむくれている。
「古今東西! ――雪ちゃんの性感帯! 腰!」ボールが飛んでくる。
えええええーー! なんでそんなのばっかりなの!
他の客からクスクス笑われてるってば!
ボールが僕の背後に転がった。
その後……2人の加熱した? 戦いは続き、なんとか僕のマッチポイントを迎えた。
お互いすでに、満身創痍になっている。
「楓ちゃん……中々やるね。 強敵として認めてあげてもいいよ……」
「ふ、雪ちゃんこそ……ここまでやるとは。恐ろしい娘だよ」
お互い肩で息をしている。
「これが最後の勝負だ!」僕がボールを打とうと構える。
楓ちゃんも緊張した趣で、防御姿勢を取った。
「古今東西! 遥のあだ名! ジャイアント」コンッとボールを打ち出した。
「こら! なんだそりゃーー!」遥の怒声が聞こえるが、今は勝負に集中だ。
「巨○兵!」楓ちゃんにすぐ打ち返される。
「ゴ○ラ」更に打ち返す。
「ダイダ○ボッチ!」コンッ
「グリーンジャイ○ント!」コンッ
「大○神!」コンッ
「トーテムポール!」コンッ
「モアイ!」コンッ、「ヤマタノオロチ!」コンッ、「バルタ○星人」コンッ
「マウント富士!」コンッ
「くぅ……BIGチョ○バー」楓ちゃんの苦しそうな表情。
まぁ、大きいといえば大きいけど微妙かな。ネタが尽きてきたと見た。
ならば勝負!
「ユーラシア大陸!」
「うわぁ、そ、それは!」
楓ちゃんの言葉が続かない。
そして、ボールは無情にも楓ちゃんのコートから落ちていった。
「うううう」ガックリと跪く楓ちゃん。
良い勝負だったよ!
僕は楓ちゃんに近付き、右手を差し出す。
それを見た楓ちゃんが一つ頷き、右手で握り返す。
楓ちゃんを立たせてあげると、2人で健闘を讃える笑顔を見せ合った。
ゾワッ……殺気を感じた。その気配を辿り嫌々顔を向ける。
楓ちゃんも同様で、怯えながら僕と同じ行動をした。
そこには……仁王様がおいででした。
「2人共、今生に思い残すことは無いよな?」
顔に青筋立ててる遥が残忍な微笑を浮べている。
恐いです。めっちゃ恐いです!
「遥、早まっちゃ駄目! まだ人生長いんだから、犯罪駄目!」
「うんうん。遥ちゃんには、笑顔が似合うよ!」
「それが、辞世の句か。もうい、い、よ、な♪」
遥が視界から消え、見えたと思った瞬間には僕と楓ちゃんの額に手が押し当てられていた。
う、これは、まさか!
嫌な予感がした途端、激痛が眉間に走る。
「いたーーい! へるぷ へるぷ!! 助けてー」
「遥ちゃん、あうーーーーーーー、はぅーーーうぎゃーー」
遥のアイアンクローが容赦なく僕達を襲う。
僕はまだ左手だったので、利き手の楓ちゃんは更に痛いに違いない。
それは……卓球場の管理人さんが助けてくれるまで続いた。
その後の遥との勝負は――聞かなくても判るだろう。
満身創痍な処を駄目押しされた僕。
体力が有り余ってるだけでなく、鬼気迫る遥。
瞬殺でしたよ……
そして、僕は……
大きな洋服店に入ってすぐ、両腕を押さえられて更衣室に押し込められる。
更に、呆然としてる間に、着ていた衣服を剥ぎ取られて没収された。
そこからずっと着せ替え人形。母さんにやられたアレです。
酷い、酷いよね! ううう。
途中、ゴスロリ服みたいなモノもあった気がするけど、反論しようとすると、裸のまま外に放り出すと脅されるんだよ!
素直に着替えるしかないじゃないか!
2人のバイタリティと反比例して、僕の生命ライフが刈り取られていく、帰宅時間までこの陵辱ショーは続いたのだった。
もうお嫁に行けない……
でも、下着まで取られなかっただけ、マシだったのかもしれない……
家に帰って、リビングで寛ぎながら本日のことを思い出す。
母さんには体(唇)を汚され、遥と楓ちゃんには精神を犯された。
最悪だよ! 折角の休みなのにどういうこと?
――そうか!
この悪夢は、氷兄に勝ったことから始まったんだ。
あの変態、負けたら負けたで迷惑をかけ、勝ったら勝ったで僕に不幸を呼ぶのか!
氷兄と関わるのは辞めよう! うん、そうだ、そうすれば良いんだ。
なんでこのことに気付かなかったんだろう……
「おっ、雪、今帰ったのか?」早速、その変態から声が掛かったよ。
もう僕はスルーすることにしたからね! 知らないよ。
「…………」
「そうそう、朝買ってきたルクレールのミルクシュー。冷蔵庫に入れてあるから、速めに食べてくれ」
あああああっ! すっかり忘れてた!
「お兄ちゃん♪ありがとう。わーい。ミルクシュー♪」
ルンルン気分で冷蔵庫に向かいミルクシューを手にする。
あれ? もう関わらないじゃなかったっけ……
まぁ、コレ食べてからだよね♪
人はシュークリームの為に生きて、シュークリームの為に死すらしい。
ミルクシューを食べた僕はすっかり嫌なことなど忘れたのでした。
ええと、此処からスポ魂に! とは言いませんけど。
この卓球ネタ。
思いついて、どうしてもやりたかったんですよね。
楽しんで貰えると作者冥利に尽きますね!
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