はじめての…… Part2
「今日のお昼は、たまご、ツナ♪ 美味しい~ハムも挟みましょ♪」
僕はキッチンで、鼻歌交じりにランチを作っている。3人分のサンドウィッチだ。
横にいる母さんがニコニコしていた。
球技大会が終わり、1-Aは見事優勝を果たす。
景品の食券1カ月分は当然頂くことが出来た。すごい嬉しい。
僕の食券はというと、太一に格安で譲ってあげた。
基本的に、お昼は自作弁当なので使い道が無いのだ。
現在、懐はホクホク状態。更に、氷兄からはシュークリームの貢物。
ギャンブル万歳! あの負けた瞬間の氷兄の顔、思い出すと高笑いを浮べたくなるよ!
勝利者気分のこの土曜日、遥と楓ちゃんの3人で、隣町に遊びに行く予定なのである。
何故3人分作っているか?
自分のだけ作るのも、数人分作るのも手間は殆ど変らない。
それに、自分だけがお弁当を食べてると、2人が気を使うしね。
どうせなら皆で食べようってことだよ。
そして、食べ終わった後に、サンドイッチならゴミ箱に捨てれるのも良い!
折角得たお金なんだから、お昼じゃなくて有意義に使いたいじゃないか!
「雪ちゃんって、本当に楽しそうに作るわよねぇ。歌詞のセンスは微妙だけど」
母さんがシミジミと呟いた。
「む、歌詞なんてどうでもいいんだよ。楽しいことをしてる時は、自然と鼻歌ぐらいは出るの」
そう答えつつ、包丁で食パンの耳を切り落としていく。
「おかしいわねぇ。私は雪ちゃんのことばっかり考えてるのに、鼻歌が出てこないのよ。好きと楽しいは違うのかしら?」
またこの人は朝っぱらから壊れてきたよ。
「ふ~ん。そうかもねぇ」
流すが勝ち!
先程用意しといた、具材を食パンに挟んでいく。
「なんか雪ちゃんが冷たいわ。わーんって私の胸で泣いてたときは、天使が舞い降りたぐらい可愛かったのに――」
……まだ、その話をするの……
ここで何か言うと絶対母さんのペースに引き込まれるんだよね。
逃げろ僕!
「ふ~ん。そんなこともあったっけ」
出来上がったサンドイッチを紙容器に詰め込む。
「ううう。ツレナイ反応だわ。やっぱりアレなのかしらねぇ。アノ時にママが手を付けとくべきだったのかしら。余りの雪ちゃんの可愛さに手出し出来なかった自分の未熟さを感じるわ。はぁ……」
溜息交じりに、サラリと凄いこと言われた気がするんだけど……
やっぱり、氷兄の変態は絶対母さんの血の影響だよね。
どうして僕ダケが、こんなにマトモに育ったのだろう?
ああ! あれか反面教師って奴か!
そっか、良かったーこんなのにならなくて。
なんて考えながら作業してると、準備完了。
本当は飲料とスープも持って行きたいけど、重いし邪魔になるから現地調達にしょう。
「雪ちゃん!!」
母さんに、ガシッと両手で顔を抑えられ、体ごと母さんの方に向かされた。
「な、何?」こ、こわい、よ?
母さんの目が血走っている。
「雪ちゃんが悪いのよ。構ってくれないから!」
母さんの顔がどんどん近付いてくる。
え、え、え、えええええええええ!
「ちょ、母さん、な、な、なに!!!」
「雪、買ってきたぞー。あの店、内装どう――」氷兄がリビングからキッチンに入ると、目を見開いた。
人は死ぬ時、スローモーションのようになるって聞いたことがあるけど、これがそうなんだ……
「はっむぅ♪」少し湿った生暖かい感触と共に、僕の唇に母さんの唇が重ねられた。
「……………………」静まりかえるキッチン。
水道の蛇口から、水滴がぽたぽぽたシンクに音を鳴らしている。
……永遠と思われた時間が過ぎ、
「――――はぅう♪ ああ、素敵だったわぁ♪ 雪ちゃんパワー復活よ!」母さんがやっと僕の唇から離れてくれた。妙に顔がツヤツヤしている。
はぅ…………走馬灯のように今遭ったことを思い出す。
僕のファーストキスがぁ!!!
雪、16歳の春。初めての相手は母さんでした……
ガクリと床に崩れ落ちる。
「か、母さん! そりゃねーーーーって! 雪の唇は俺のなのに!!」氷兄の絶叫が頭の片隅に聞こえている。
いや、氷兄のじゃ無いから……ツッコミを入れれる自分に驚くよ。
「ふふん。可愛い我が娘のモノは全て私の為にあるのです!」
「雪! 今なら間に合う。3秒ルールで母さんのは無効になるから、俺ので上書きしような!」
それって、落ちたモノを食べる時のルールだった気がするけど……あと時間過ぎてるじゃん。
「氷君は駄目よ。もう私のモノなんだから!」
「なんでだよ! 雪のファーストキスは俺が貰う筈だったんだぞ!」
「あら? 何か勘違いしてるようだけど、雪ちゃんのファーストキスなんて、とっくの昔に喪失してるわ」
え? そんな記憶ないよ。
「どういうことだよ! まさか太一の奴か? あの野郎!」
いいや、太一の訳が無い。僕にそんな記憶がないし、男とキスなんて絶対しない。
「違うわ。ママよ! 生まれてから毎日のようにキスをしてたんだから。別に今更ってことよね」
あっ、そういうこと――って良く考えたら、親とのキスってファーストキスって言わないよね?
少し気が楽になってくる。
ああ、なんだ、そう、あれだ!
犬猫にされたと思えばいいんじゃないか?
目の前に居るのはアレ! 盛りのついた雌犬だ。
そう思っていると、段々復活してきた。
「うわ、ずりーよ。なんで無抵抗の時に俺はしてなかったんだ! くそー。雪、今しよう! すぐしよう! さっさとしよう!」
氷兄が近付いてくる。こっちは盛りのついた狼だ。
素早く立ち上がって、最強の盾、桜子 防御力9999 (オプションで 使う を選択すると、精神攻撃:可)の後ろに隠れる。
「あらあら、雪ちゃんたら甘えちゃってもう♪」
最強の盾が勘違いしてるけど、気にしない。
氷室の剣 攻撃力 400 さえ防げればいいんだ!
「雪出て来い。お兄ちゃん♪とキスしよう!」
「氷君、雪ちゃん嫌がってるじゃないの。駄目よ無理強いは」
母さん――違った。
最強の盾の言うことじゃないと思うんだ!
「いや、雪は心の奥底で俺のキスを望んでいる筈だ! だから、問題無い!」
「そうなの雪ちゃん?」母さんが首を後ろに向けて聞いてくる。
「…………」僕は顔を左右にフリフリして拒否を示す。
母さんは元の姿勢に戻る。
「雪ちゃん嫌って言ってるわ。氷君、引く時は引いて、次の機会を狙うのも戦術の一つよ!」
「つ、次っていつだよ!」
「そうねぇ、雪ちゃんいつ?」
再び首を此方に向けて聞いてきた。
もう駄目! 無理、忍耐の限界!
「そ、ん、な、の、あるか~~~~~~~~~~!!」
僕の怒鳴り声が家中に響き渡った。
この日、阿南家の家訓に、雪のキスは一日一回
が加わることは――なかった。
ええと、短いです!
全国30人程は居て欲しい。
桜子さんファンの皆様の為に変態ぶりを加速させてみました。
この話、本来6行ぐらいで流す予定だったのですが、少し膨らませたら作者が面白くなってしまい、そのまま1話にしちゃいました。
こんな事ばかりしてるから、全然進まないのですよね。
※ 誤字、脱字、修正点などがあれば指摘ください。
評価や感想、コメントも是非にです。




