球技大会 2
5/7 球技大会 1 の修正をしました。
グラウンドのハーフウェイラインに1-A、3-A両チームが整列する。
審判役のムッチーが来るのを待っていた。
通常なら4時間目に相当するこの時間、気温も上がってきていて、もう動き回ると半袖Tシャツでも暑そうだ。
「雪、忘れてないよな?」
僕の目の前にわざとらしく並んだ氷兄が確認してくる。
「くどいよ! そっちこそ約束忘れないでよね!」
「ああ。それにしても、後50分後には雪が悔しがる姿をみれるのかぁ。楽しみだな♪」
「ふん! 好きなだけ言ってればいいさ。後で謝っても許してあげないから!」
他の人達からの何事だという視線と、太一が呆れているのは判るけど、やらなければいけない勝負ってモノがあるのだ!
今の話しからも察し出来るように、僕は氷兄の賭けに乗ってしまった。
賭けの対象は、氷兄が勝ったら氷兄と一日デート。とても嫌だ。
僕が勝った時は、一ヶ月間、毎週ルクレールのミルクシュー4個! 太一が以前買って来てくれた1日限定100個のあれ。
結局シュークリームかと思うかもしれないけど、シュークリームは正義です。
それも毎週なんて贅沢過ぎだよ! これを受けなかったら損ってもんだよね。
氷兄の思惑通りに進んでる気もするけど、要は勝てばいいんだよ、勝てば!
ムッチーがセンターサークルまで来て、太一と氷兄がコインの宣言をする。
結果、3-Aがボールを得た。
対戦相手が3年なので、1年に最初から3点のハンデが付く、つまりは3-0からのスタートになる。更に、同点の場合も此方の勝ちだ。
「ピッピー」ムッチーのキックオフの笛により、試合が開始された。
僕はインチキ縦ポン戦術の為、相手ゴール近くまで一人向かっていく。
すると、そこには氷兄が居た。
「なんで氷兄が此処にいるの? さっさと攻めなよ」
氷兄はしてやったりの表情をする。
「ふっ、甘いな。今迄のクラスが敗れた理由は唯一つ! 雪をフリーにさせたからだ。俺達がその対抗手段を考えない訳がないだろ? 俺なら雪に触れることなど何も厭わないし、それどころか、むしろ触りたいぐらいだ。早くボールが飛んで来いってなもんさ」
「むぅ、それって反則じゃないの? 触るとか1発レッドカードだよ!」
「馬鹿だなぁ。世の中にはマリーシアという高等テクニックがあるんだ。見えないように触ることなどちょろいものさ!」
「……でも、僕にやったら唯のセクハラじゃない? 犯罪だとおもうよ」
「何を言ってるんだ。同意がある行為にそんなものは発生しない!」
「僕がいつ同意したのさ!」
「素直じゃない雪も可愛いぞ♪」
「ピッピーピー!」ここでムッチーの笛が鳴った。
話しに熱中していて、いつのまにかボールが僕たちの近くに転がってきていたのに気付かなかった。間抜けなことに氷兄もそうだ。
「氷室! イエローカード」ムッチーが胸から黄色の札を取り出してかざす。
「相手チームの選手と会話をするな。そして、なんかキモイから警告1な」
おお。ムッチーを見る目が変わったよ。
「は? ムッチーパンダそりゃねーって、雪だって話してただろ。なんで俺だけなんだよ!」
「女子と男子どっちを非難するかは自明の理だろうが。さっさと離れろ」
あれ? 良く考えたらムッチーってうちの担任なんだから、自分のクラスを贔屓するのは当然なのかもしれない。
強い味方が此処にいるじゃないか!
「雪、グッドジョブや!」太一が近付いてきて肩を叩く。
実は何もしてないんだけどね。
「これで、一番の障害に枷がついたようなもんや。いくら氷室兄ちゃんでも無茶は出来ないやろ」
そうだといいんだけどね。
あの変態がこのまま大人しくなるのかな?
太一の思惑とは裏腹にクリーンなプレーを心掛けた氷兄は見事だった。
僕に飛んできた高いボールは、その身長差から楽々カットされ、低いボールにも経験の差で先回りされて止められてしまうのだ。
接触プレーにすらならないので、どうしようも無い状況なのである。
氷兄が僕に張り付いている為、相手チームも決定力を欠いていた。
だが時間が経つにつれ、年齢差から徐々に点を加算されてしまう。
前半が終わる頃には3-2まで追い上げられてしまったのだ。
ハーフタイム、1-Aチームが集まり作戦を立てている。
「このペースは不味いわ」太一がぼやく。
「言われなくても判ってるっつーの」
「そんなことより、これからどう対処していくかだろ?」
「1点を守り抜くのもアリじゃね」
「それは無理じゃないかしら。今だって雪ちゃん一人が相手側にいるだけで、実質殆ど守っているようなものだもの」
チームメートからは、良い案は出てこない。
「だったら、ボクも守りに参加しようか? そしたら一人増えるから楽にならないかな?」
「一番駄目な案やな。雪が居るから氷室兄ちゃんが、攻撃に参加しないんや。もし、参加してたらとっくに点差はひっくり返ってるがな」
「そっかぁ……」
太一の意見に納得させられてしまう。
「問題は、氷室兄ちゃんなんや。あの人さえ排除出来れば勝てるんやけどなぁ」
「そうなのよね。氷室様がネックなのよ。どうしたら雪ちゃんへのパスが通るようになるのかしら――」
……氷室様ねぇ――顎に手を当てて考える。
確かに邪魔だよね。
馬鹿だし、変態だし、更にあの身長がムカツク。
ボクと同じぐらいだったら、取られないのに!
――って? 氷室様!?
「ちょっとボク、名案が浮かんじゃったよ。試してみない?」
「おっ、どんな案や? ボケボケの雪だから余り期待はせんけど、言ってみるんや」
失礼な! 太一後で殴る!
「こんなのはどうだろう――――」
僕の作戦は少し修正されたものの採用された。
だが、この作戦を行うにはタイミングが重要であり、一回きりしか効果がないので、ラスト5分になったら開始することになった。
ムッチーの笛で後半が開始される。
「あれ? まだこのままなのか。少しは変わったことしてくるかと思ったけどな」
僕をマークしている氷兄が軽口を叩いている。
「別に僕たちはこのまま守りきれば勝てるんだから、無理しなくてもいいしね」
心で舌を出す。
「ふーん。まっいっか、このままなら雪とのデートが楽に手に入るってもんだしさ♪」
「言ってろ! あまり話してると、またカード貰うよ!」
氷兄が慌てて、ムッチーの姿を探している。
それぐらいの理性はまだ残ってるみたいだ。
氷兄の予想は悔しいことに当たり、後半8分、14分と加点され、遂に逆転を許すことになった。
そして、残り5分、1-Aが動いた。
題して、氷室様をメロメロにしよう作戦が開始された。
氷兄チームがボールを外に出したのを機に、一気にメンバーを替える。
それも、全員女子とだ。
現在、男子8人、女子3人だったところに、女子を3人入れて男子5人、女子6人にした。
女子の布陣はキーパー1、FWに僕、残り4人の女子がMFとして前線に残る。
太一がサイドラインに向かい、ボールを手に持って、ポンポンと地面にボールを叩きつけながらタイミングを図る。
そして、それを機に僕がボールを貰いに向かう。
当然、僕をマークしてる氷兄も付いてこようとしたが出来なかった。
僕をフリーにするように、女子4人が氷兄を囲んだのだ。
「キャー、氷室様ぁ♪」
「かっこいいですわ」
「素敵です。氷室様!」
「その困ってる仕草もまた……」
「ちょ、なっ!!」
氷兄の悲鳴は、黄色い歓声にかき消された。
太一からスローインを受け取った僕は、相手ゴールに向かって進んで行く。
最早障害は無かった。
相手チームの女子はいつの間にか、うちのクラスの女子と何やら言い合っている。
3-A男子の抵抗は、形だけというぐらいのモノしか来なかった。
他のチームもそうだっけど、本当なんでだろうね?
後残すはキーパーだけ。
キーパーは数合わせの女子だ。
貰った!
「受けてみて、これがボクの全力全開!」
思いっきり踏み込み、右足を後方に上げる。
「スターーライトーーー○レイカ~~~~~~~!!」
「きゃー!」
先輩女子がボクの勢いに悲鳴を上げて逃げる。
それと同時に、チョンとボールをインサイドでタッチした。
ボールは、怯える先輩女子の横をコロコロと転がり、そのままゴールラインを割って、ネットにぶつかり止まった。
ムッチーのゴールインの笛が鳴る。
「やった♪」
ミルクシューげっと!
「なんで、魔法少女やねん! そこは○○○○シュートやろが!」
太一のツッコム声が遠くの方で聞こえた。
ここからスポ魂ものにしてやる!
なんていう気も少しはあったんですが、結局こんな感じになりました。
予定通りの2部構成。
作者もやれば出来るみたいです。
※ 誤字、脱字、修正点などがあれば指摘ください。
評価や感想、コメントも是非にです。




