携帯のある日常 3
実は4部作です!
とは言いませんので、気軽に楽しんでください。
これも全部阿部のせいです。
阿部め!
先程、この本文の修正を行いました。ご報告ありがとうです。
お弁当を食べ終わる頃になると、太一が僕の元にやって来た。
そのヤツレタ顔が結論を雄弁に語っている。
「雪、我が侭は良くないと思うんや」
遥と楓ちゃんが怪訝そうな顔をしている。
とりあえず大丈夫だよと笑顔を見せて安心して貰う。
「ボクの何処が我が侭なのさ」
「雪のせいでオレがめっさ被害受けたがな。氷室兄ちゃんに勝てる訳が無いやろが、全部弱み握られてるんやから!!」
堂々と言う台詞だろうか?
「で、何? 太一は氷兄に説得されて、ボクを呼びに来たのかな?」
「ああ、そうや、判ってるなら『オレの為』に早く行ってくれ」
「うーん。それってボクに何か得なことあるのかなぁ?」
「うわ、何その発言。幼馴染が困ってるのに助けようともしないんか? そもそも、オレは巻き添えを食らっただけやん。二人の問題なんやからオレは被害者やないか」
「一理あるかもしれない気もしないでも無いようなって感じだね」
「どこぞの政治家かい! ということで早く行ってくれや。さっさとしないと、雪の代わりに絶対オレが報復されるんやから!」
うわ、追い込まれてるなぁ。
仕方ないなぁ。これ以上ほっとくと、本当に氷兄が暴走しそうだし……
でもアレの何がそんなに恐いのか判らないんだよね。
「太一貸し1だからね。この貸しはエベレストよりも高いから覚悟しとくように!」
「高っ!」
遥、楓ちゃん、太一を教室に残して僕は教室の外に出た。
氷兄は廊下の壁に不機嫌そうな表情をして待っていた。
僕が顔を出すと、一気に破顔して笑顔まで向けて近付いてくる。
ね? どこがそんなに恐いのかさっぱりだよ。
「太一まで脅したみたいだけど、一体何のようなの”氷室様”」
氷兄の顔が引き攣る。
どうやら、この名前は効果があるようだね。
「その前に――どうして居留守なんてするんだよ。全部聞こえてたんだぞ。雪はそんなにお兄ちゃん♪が嫌いなのか?」
意外とショック受けてたのか。
まぁ氷室様については次回にしてあげよう。可哀想だしね
でも氷兄にも少しはまともな精神があったんだなぁ。
「別に氷兄のことは嫌いじゃないよ。『馬鹿なこと』しなければね!」
「俺がいつ馬鹿なことしたっていうんだ。雪のことばかり四六時中考えているだけだろうが! こんなピュアな愛はないんだぞ?」
それが、馬鹿なんじゃないか!
ああ、又注目され始めているよ。
氷兄が無駄にでかいからいけないんだ!
「とりあえず、何処か場所移そうよ。このままだと目立ちすぎるし」
「どれだけラブラブか見せ付けてやればいいだろうが♪」
「……もう変なことばかり言ってるなら教室帰るよ?」
「待て、判った今すぐ移動するから、そう怒るなって」
「初めから素直に移動してくれればいいのに……」
疲れてくる。これで僕の昼休みが無くなったな。ううう。
とりあえず、あまり人が来なそうな、屋上入り口のドア付近で話すことにした。
星桜学園は屋上の出入りが禁止になっているので、誰も来ないらしい。
「それで、お昼休みが終わるから端的に理由を話してよ。用件があったのでしょ?」
「そう急ぐなって、人気の無い所で雪と二人っきり。このシチュエーションは妙にソソルものがあるんだからさ」
又変態が始まった……なんでコレが女子の一番人気なの?
「じゃー、用事も無いみたいだし、僕は帰るね。バイバイ」
「あー待て待て、ちゃんとあるから落ち着けって」
僕は一応止まってあげた。
このまま喚かれながら追いかけられたら、折角此処に来た意味がないし。
「次は無いからね。どんな用事なの?」
「ええとだな、雪に送ったメールが途中から全部返ってくるんだ。故障かもしれないと思って聞きにきたんだ」
やっぱりそれかぁ。
「へぇーそうなんだ♪ それじゃ故障かもしれないね♪」
「そそ、だからちょっとスマフォ見せてみろ。壊れてたら今日俺が買った店に文句いってきてやるからさ」
それをされると困るんだけど……
「別に大丈夫だよ。壊れてないし、メールなんて出来なくても不自由ないから」
「一昨日買ったばかりだろ? 初期不良じゃないか。速く持っていったほうがいいだろ?」
真面目に心配してるのが判って、少し罪悪感が沸くんだけど……
悪いのは氷兄達なのに、なんでこうなるの?
「実はさぁ壊れてないんだよ。1時間目が終わった後に、太一にうちの家族のメールを着信拒否してもらったんだよねぇ。だからエラーメールがそっちに届いただけだと思うよ。なので本体は全く壊れてないから安心してね」
「は? なんで、そんなことするんだよ!! 太一め覚えてやがれ……」
「太一は関係ないから。それじゃ言わせて貰うけど。こんなにうちの家族からメールが届いたら、電池なんてすぐ無くなって、何も出来なくなるんだよ!」メールの着信履歴を氷兄に見せつけた。
「うげ……すげーな。でも、俺が1番送ってるじゃないか。ふふふ、まだ母さんと父さんは甘いな」
「甘いなじゃない! 充分迷惑なの! だから拒否にしただけ文句ある?」
「いや、だって、それじゃ雪と連絡取れなくなるだろ? 緊急の時どうすればいいんだよ……」
「その時は、電話すればいいじゃん。何の問題も無いよ」
「そ、それはそうだけど、可愛い妹とメールのやり取りしたいんだよ!」
「だから初めから言ってるでしょ。馬鹿なことをしなければ良いって、適度な量なら問題ないんだけど、うちは異常なの! だから聞く耳持ちません!」
「ううう、雪をこんなに好きなのに、なんでいつもそう冷たくするんだ……」
氷兄がイジケ出した。ちょこっと責めるとこれだもん。
まるで僕がいじめっ子みたいじゃないか!
「別に氷兄を冷たくしたことなんてないよ。1日3通くらいなら構わないから、それでなら拒否を解いてあげるよ」
「それじゃ、全然足りないって。俺の雪への愛には少なすぎるって!」
「なら諦めるんだね」
「ひでーよ。心配して来てみたら、居留守されて着信拒否とか言われるし、挙句に解いてあげる条件が1日3通? すごい横暴じゃねーか」
「全然、横暴じゃないね。いたって普通?」笑顔を向けてあげる。
「くそー笑ってる雪は可愛いなぁ。ああ、もう――だったら条件がある!」
急に立ち直ったと思ったら、とち狂ったこと言い出したんですけど!
「え? なんでそうなるの!」
「そりゃそうだろ。雪の意見を通してやるんだから。ついでに、さっきの話しを父さんと母さんに説得する時、協力してやるってことでどうだ?」
確かに、父さんはまだしも、母さんは手強そうだから協力してもらえるのは嬉しいかも。
「むむむ……それで……条件って何? あんまり変なことなら却下だよ」
「大丈夫だ、問題ない」
「その台詞聞くと、逆に心配したくなるんだけど」イー○ックだもんなぁ……
「まぁ大したことないって、毎日1回雪が俺に抱きついてくれればいいんだから」
「却下! それって、あれでしょ氷兄がメールで書いてた悪巧みじゃん。絶対駄目!」
「ちっ、それは届いてたのかよ……」心底残念がってるんだけど!
「だったら、1回だけってのはどうだ? それなら文句ないだろ? これ以上はまけれない」
「はぁ? なんでそうなるの。そもそも氷兄にそこまでの権利ないと思うよ」
「それなら、1人で母さんを納得させるんだな。母さんだけ無制限だったら、俺だけ制限されるのはおかしいし」
「うー。なんか納得いかないんだけど」
「じゃ、いいんだな、別に俺は構わないぞー」氷兄がニヤニヤしてる。
いつの間にか攻守が完璧に逆転してる気がする。
「ああ、もう判ったよ。抱きつけばいいんだろ。1秒ね!」
「早、せめて10分だろ!」
「そんなの長すぎ! 5秒ね!」
「うわ、大差ねーじゃん。8分!」
「10秒」
「5分」
結局1分で折り合いがついた。
「ハリー。雪ちゃーん♪」
両腕を広げた格好で待たれてるのがむちゃくちゃ嫌なんだけど。
鼻の下も伸ばしているし。
ああ、なんで頷いちゃったんだろうなぁ。
やっぱり僕って押しに弱いのかな?
なんだかんだで、いつも氷兄に上手いこと乗せられてる気がするんだよね。
「は、や、く♪」
催促しなくても判ってるって! 煩いなぁ
やればいいんでしょ。
「1分だからね! 約束守ってよ!」
「ああ、俺が雪とした約束を守らなかったことなんてあったか?」
そうなのだ、確かに今迄一度もないのだ。
それだけは信用できる事実でもある。
「判った、いくよ……」
「おう、いつでもカモーン♪」
はぁ……恥かしいなぁもう
目を瞑って、一気に氷兄の体に飛び込む。
身長差の為、氷兄の胸の辺りの僕の顔が来た。生意気な!
「うは、やっぱり雪の香りは最高だな」氷兄は僕の髪の毛の匂いを嗅いで喜んでいる。
ううう、この変態め……覚えてろ!
「ああ、雪、まだ抱きついた内に入らないからな。ちゃんと体を密着させて、後ろで手を組まないと駄目だ。そこから1分だぞ」
えええ、これで駄目なの! 細かいなぁ。
仕方なしに、言われたように氷兄の腰に腕を絡めて、体を密着させた。
胸が氷兄のお腹の辺りにつぶれた感触がした。
氷兄の鍛えられた体が頬に辺りその逞しさを実感させられる。
更に、背中を氷兄に抑えられた。
「おお、久々の生雪、感動もんだ! でも、糞、折角胸が当たってるのに感触が判らん。くーーー勿体ねー」余計な感想とか要らないから! すごい恥かしいのに馬鹿!
「後30秒ね!」
「ちょ、待て速いだろ、まだ5秒ぐらいしか経ってねーって!」
「変なこと言ってる間に、時間は経過してるんだよ。僕は数えてるんだから」
「5、4、3、2、1――終了! 早く離す!」
グッと力を入れても動かない……
「氷兄早く離れてよ! こんな処誰かに見られたどうするんだよ!」
「うー。ずっとこのままで居たいなぁ。雪は柔らかいし、気持ちいいし、良い匂いだし」
クンクン鼻を鳴らして体臭を味わっているようだ。
ああ、もうこの変態どうしていつもこうなのかなぁ!
ならばこれでどうだ!
「お兄ちゃん苦しいよ。離して?」目を潤ませてオネダリするフリをしてみる。
「あ、ゴメン雪、そんなつもりはなかったんだ」パッとすごい勢いで離してくれた。
おお、意外と効果あるなぁ。これもスキルに入れるべきなんじゃないかと悩む。
「実は苦しくないよ」エヘヘと笑ってやる。
「汚ね。騙したな!」
「時間過ぎても離さないほうが悪いんだよ! でも僕は条件を行使したんだから、約束守ってよね!」
「ああ、漢に二言はない。結果的には俺ラッキーって感じだったしなぁ」
そういえば? どう考えても僕が損してる気がする。
うううう、スマフォ手に入れてからろくなことがないよ!!
阿南家に新しい家訓が出来た。
雪へのメールは1日3通まで。
氷兄無双? でした。
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