長い一日の始まり 1
第 一 章
長い一日の始まり 1
暴れる? 喚く? 支離滅裂になる? 僕を両親はなんとか宥め、今現在リビングのソファーに三人で腰掛け、詳しい解説を聞くところだった。
母さんの目が怪しく光ってそれが恐かったから大人しくなった訳ではない。断じてない。でも本当は……がくがく……
「ええと何から説明すればよいかしら」母さんが思案する様に声を出し始める。
僕と父さんは黙ってその話を聞いていた。
「母さんの祖先はその昔、雪山に住んでいたの。ある時、とても寂しくなって下界に降り、そこで素敵な男性と恋に落ちたらしいわ。まぁ母さんと一緒で美人だったでしょうから相手はイチコロよね」
ふーんそれでと軽く聞きながす。
僕のリアクションが無い事に、頬を膨らまして不満そうだが母さんは会話を続ける。
「そこで、子宝を授かった二人は中睦まじく暮らしたのでした。ちゃんちゃん」
「…………」は?
今の説明で何が言いたいのか理解出来る人は手を上げてほしい。
超能力でもなければ無理じゃないか?
さすがに父さんも苦笑いしている。
そして、「まぁ、後は私が話すよ」と母さんから説明を引き継いだ。
初めから父さんが説明したほうがマシだったとは言えなかった。
母さんの性格だとすぐ拗ねてめんどくさくなるのが判っているからだ。
――父さんの説明はこうだ。
雪山に住んでたと簡単に話していたが、普通の人間が雪山で暮らすなんていうのは不可能に近い。
ポイントはそこにある。
普通の人間ではなく、雪の精霊である雪女だったという訳だ。
どうやって精霊が人間の子供を産めたのかは生命の神秘とか、奇跡とか良く判らないらしい。
丁寧な事にこの後の事もちゃんと教えてくれた。
母さんとはやはり違う。
幾代と世代がかさみ、雪女の血は薄れ一般人とまるで見分けがつかなくなった。
現に母さんを見てもどこにでもいる普通の主婦だ。
しかし、血は薄まっただけで無くなってはいない。
その中で血を濃く受け継ぐ者が稀に生まれてしまうのだという。
外見は白い髪と青い目を持つ美しい容姿がそれだ。
はじめから女の場合は、その造形になって生まれてくるのだが、特にレアなケースとして男として生まれてくる事もあるらしい。その場合、人間と雪女の血が体の中で戦う事になる。
普通の人間と精霊の血どちらが勝つかは想像しなくても判るだろう。
最終的に押し切られる形で女体化してしまうのだそうだ。
雪女の名前の通り女の精霊の姿を形どるからである。
今回の長期間の高熱は女体化する前兆だろうと確信していたことも聞かされた。
「マジ?」
僕の質問に母さんは嬉しそうに頷き、父さんも真面目な顔で首を縦に振った。
二人の表情は嘘を言っているようには見えない……
普段おちゃらけたことを言っている分真実味が増している。
尚且つ、容姿が変ったこともちゃんと説明出来ていた。
現状が在り得ないことだらけなのだから、ファンタジーな内容のほうがかえって納得出来てしまうのだ
となると聞いておかなけばいけないことがある。
「これって元に戻ること出来るのかな?」
変ったのだから、戻す方法もある筈だ。
「え? 無いわよ?」
母さんがあっさり希望を打ち砕いてくれた。
「……このまま一生女のままって事?」
「うんうん。その通り。親娘仲良く暮らしましょうね。家族の中で女は母さん一人、寂しかったのよ。もぉ雪ちゃんは母さんだけのものだから!」
「そうなんだ……」がっくりと肩を落とす。母さんの笑顔が頭痛い。
「桜子ちゃんそれは酷い。僕も雪くんと戯れたいです!」
「ええ! 隆彦さんには冬君と、氷君がいるじゃない。贅沢よ」
人の気も知らずに二人は僕の争奪戦? を開始してしまった。
そんな二人はほっとくとして……本当に困った。
戻れないというからにはこのまま女として生きていくしかない。
今迄ずっと男として生きてきたのにだ。
はぅ、脱力感と共に自然と溜息が出た。
これからどうすればいいんだよ……
あっ! そこでふと気付いてしまった。
高校――あれだけ苦労して受験勉強したのに無駄になるのは嫌だぞ。
その事をまだ揉めている二人に聞いてみた。
「ああ、それなら大丈夫だと思うわ」
「えっどうして?」
まるっきり問題とすら捉えてない風の母さんに自然と疑問が浮かぶ。
父さんも余裕あるところ見ると母さんと同じで理由を知っているのだろう。
「わたし達一族の血筋はとても貴重なものなのよ。精霊と人間の合いの子なんて本当にありえない組み合わせなんだから。秘密裏に保護する対象と国でされているの。だからあるところに頼めば、戸籍を弄って性別を変える事なんてお茶の子さいさい、折角合格した学校にだって普通に通えるのよ。但しこの事に関しては秘密厳守だけどね」
とりあえず一安心した。そして、秘密の件も良く判った。
確かに、世間では御伽話みたいな種族? だし、僕だってご近所に雪女が住んでますなんて知ったらパニックを起こすと思う。
その後、母さんにとりあえずシャワーでも浴びてらっしゃいと、リビングから追い出されてしまう。
僕は部屋により、着替えを持って風呂場に向かった。
意識した事により汗だくだった体が気持ち悪いと思ってしまったのだから仕方ない。
今日は短めですいません。
次話も、鋭意執筆中ですのでなるべく早くお届けしたいと思います。