出会い
昨日の更新分が反映されてなかったみたいですね。
サーバも黄金週間に入ったのかなぁ……
後一歩のところで、太一を取り逃がしてしまった。
敗因は、昨日教室に入った時のことを思い出し、出入り口付近で躊躇してしまったせいだ。
外に居ても太一が出てくることは無いよなぁ……
「うう……仕方ないか」
少し深呼吸してから意を決し、太一が開けっ放しにした後ろドアから入ることにする。
「……」ホッとした。
軽く視線は受けたけど、昨日程の強烈な視線は飛んでくることは無かったのだ。
ドアを閉め、 太一が自分の席で片手を垂直に上げながらゴメンと謝ってるのを横目に自分の席に向かう。
しかし、そんなものでは許す気なんて無いから、後で3倍返しと心の中で誓いを立てる。
いくらなんでも、教室の中、クラスメイトの居る前でパンツ見たことを大声で喚くような恥知らずでは無い。
窓側から2番目、前から2番目という、良くも悪くもない席に腰を落とすと、すぐに声を掛けられた。
「阿南さん。おはよー」
「あ、おはよーです」声の方向、右隣の席を見ながら返事を返すと、体育会系という感じの大柄な女の子が笑顔を見せていた。
どうみても170cm近くあり、とても羨ましい。
顔立ちも悪くなく、ショートカットの髪がその活発的な雰囲気に良く似合っている。
「クラスメイトなんだから、そんな他人行儀にしないでよ。アタシの名前は覚えてる?」
「ええと……」正直困惑してしまう。
自己紹介の時に、他の人の内容なんてまるで聞いてなかったのだから記憶にある訳がないのだ。
「あはは、別に気にすることないって、阿南さんみたいに有名人じゃないし、アタシの名前は、井波 遥よろしくね。遥って呼んで」
困っている僕を見て、井波さんが笑いながら自己紹介をしてきた。
「遥さんですね。判りました。ボクの名前は――」
「ああ、名乗らなくてもいいよ。阿南雪さんでしょ。インパクトがあり過ぎて覚えちゃったもの。もう学年中知らない人いないんじゃないかなぁ?」
「え? ボク何もしてないけど? なんで?」
「うわ、真顔で聞かれたよ。本気で判ってない?」
「うん……」
下駄箱で氷兄に言われたことがチラリと頭を過ぎるけど、何度考えても記憶にないんだよね。
「まぁ……阿南さんって天然ぽいもんなぁ。そんだけファンタジーな容姿してたら、有名になっても仕方ないと思うんだけど」
「ファンタジーって……遥さんが大げさなんですよ」
「あー、アタシにさんとか敬語とか要らないから、遥って呼び捨てにしていいよ。その代わりアタシも雪って呼ぶけど良い? なんていうかこそばゆい感じがするんだよね」
「あっはい、ボクも呼び捨てにされたほうが楽ですし」
「ほら、敬語も禁止!」
「了解」クスリと笑う。
「でもさぁ、さっきも思ったけど、その見た目でボクって呼び方は、何処か胸に込み上げてくるものがあるなぁ」
「そんなに変かな? これで慣れちゃってるから、アタシとか私とか言い辛いんだよねぇ」
元男だし、自分の事をアタシとか言うのに慣れてる訳が無い。
それに、このボクについても努力と戦いの成果みたいなものなのだから。
母さんにも、これからは一人称をアタシや私に変えなさいと注意されたのだ。
そこを何とか抵抗して僕をボクにすることで妥協を引き出したのである。
僕は駄目だけど、ボクならアリらしい。
その感性が良く判らないんだけど、許してくれるなら儲けものってところだよね。
本当は、太一や家族と居る時もボクと言うべきなんだろうけど、少しぐらいは手抜きさせてもらってもいいと思う。
まぁ微妙な違いだから気付く人はあまり居ないだろう。
でも最終的にはボクで統一することになるんだろうなぁ。
というよりもさせられそう……
「いやさぁ。見た目とのギャップが激しいわけよ。でもなんかそれはそれで萌えるモノがあるからアリな気がするのさ……」
うーん。母さんと同じ反応だ。僕の方がずれてるのかな?
「それで、雪に聞きたいことがあるんだ」
「な、何?」ズズイと迫ってくる遥に少したじろぐ。
「今朝さ、超カッコイイ人と一緒に登校してたろ? アレって雪の彼氏か何かなのか?」
「へ?」
超カッコイイ人? 今朝一緒だったのは、氷兄と太一。
氷兄は変態だからカッコイイとは思えない、残るは太一? 同じクラスメイトのことを聞いてくるのだろうか?
「そんな人と一緒だった記憶がないけどねぇ。ボクと誰かを勘違いしてるんじゃない?」
「いやいやいや、視力2.0のアタシが雪を見違う訳ないって。ほら、長身で日に焼けてるカッコイイ人だよ」
長身で、日に焼けてるかぁ、だったらやっぱり氷兄のことかな。
「となるとアレのことかな。イマイチカッコイイとは思えないけど、別に彼氏じゃないよ。例えるならストーカー?」
「ストーカーって酷くないか?」
「あはは、まぁそれは軽い冗談だけどね。多分遥が言ってるのは氷兄のことじゃないかな」
「氷兄ってことはお兄さん?」
「そだよ。阿南氷室、ボクの二つ上の兄だよ」
「そっかー、雪の身内ならあのカッコよさも納得ってものだな――って阿南氷室!?」
何をそんなに驚いてるのかな?
「そそ、どうしたの急に?」
「それって氷室様のことじゃないか! 今迄女っ気がまるで無く、孤高のプリンスと言われるサッカー部のエースだろ。噂ではファンクラブがあるとか昨日聞いた」
「氷室”様”? アレはそんな大層なモノじゃないけどねぇ」
「この学校の女子で氷室様をアレ呼ばわり出来るのなんて、雪意外いないと思うぞ」
「またまたぁ。やっぱり遥は大げさなんだって、でも面白い話が聞けたなぁ。氷室様ね、後でからかってやろ」
「はぁ、この娘やっぱり判ってないわ。ああ――でも身近に雪みたいな妹が居たなら、他の女の子なんて目を向けなくなるのかもなぁ。雪以上に可愛い娘なんて滅多に居ないだろうしさ」
遥はするどいなぁ。僕が可愛いはどうでもいいとして、本当あのブラコン、今はシスコンをなんとかして欲しいんだけどね。
さすがに、身内の恥を晒すのはなんだから、言えないけど……
僕が心で溜息を付いていると、
「あっ遥ちゃん、もうエリカちゃんと仲良くなったの? わたしも紹介してよー」
遥の背後からひょこりと顔を出した娘が居た。
座ってる遥の頭一個分位上の高さに顔がある。
その顔は愛嬌のある垂れ目が特徴的で、くるくるとしている髪をリボンでしばっていた。 遥と正反対の可愛い感じのする娘だった。
そして、なんだろうこの優越感。
どう見ても僕よりも背が小さいのだ。今ほど女の子になって良かったと思ったことは無い。
僕の人生に置いて、前習えをするイコール腰に手を当てるだったのが、ついに解放されたのだ。
女の子万歳! いやぁ遥を見たときは悲しい気分になったけど、やっぱり女の子ならいるんだよねぇ。僕の身長も捨てたもんじゃないのかもしれない!
「あのーエリカちゃん。今不愉快なこと考えてなかった?」垂れ目の娘が目をじとーとしている。
「しっしてないよー。それとエリカちゃんって誰、ひょっとしてボクのこと?」
「もっちろーん。エリカ ツェペッシュちゃんじゃない!」
ううう。もうエリカのことは忘れてよ。
太一にもネタにされるし、ろくな目にあってない。
「あれは、1発ギャグのつもりで演っただけだからね」
「でもでも、ソックリなんだよ。アニメから飛び出してきたのかと思ったんだから」
そりゃね。似てると思ったから演ったんだし。
「あー。はいはい楓は大人しくするんだ。それより、ちゃんと自己紹介しろ。それからだろうが」遥が苦笑いを浮かべながら仕切ってくれた。
「むー。確かにまだ言ってなかったかも、わたしの名前は江藤 楓、よろしくねエリカちゃん」
「よろしくね。ボクは阿南 雪、エリカちゃんじゃないよ。あと楓ちゃんで良いかな、遥とも呼び捨てにしようってなったし、遥の友達なら下の名前で呼ぶ方がいいかなと思うんだけど」
「うんうん。それの方が嬉しいな。わたしはエリカちゃんって呼ぶね」
おい! そこは雪だろう。
「こら、そこは雪という流れだろ!」ポカッと楓ちゃんの頭を遥が叩いてボクの代わりにツッコミを入れてくれた。
「ええええ、だってエリカちゃんはエリカちゃんだよ。雪ちゃんでもいいけど、どうせならエリカちゃんの方が……駄目?」楓ちゃんがボクに目でお願いしてくる。
「で、出来れば雪の方が嬉しいかな、あはははは」
「じゃーエリカちゃん!」
がくっとコケそうになる。
「だから、そこは雪だろうが!」ポカッと再び遥のゲンコツが楓ちゃんの頭に当たる。
「えーーん。そんなにポカポカ殴らないでよ。遥ちゃんの暴力魔! いじめっ子 巨○兵!」
いくらなんでも巨○兵はないだろと思うけど、女子にしたら確かに高い方だとは思う。
男だった僕よりも高いなんて悔しいことはなるべく想像しない。
「ふ~ん。そんなこと言うのかぁ」遥の目が怪しく光ったと思ったら、両拳を楓ちゃんのコメカミに当ててぐりぐりしだした。通称うめぼしという奴だ。
「い、いたーーーい。遥ちゃん。痛いってごめんなさい。謝るからぁ。許してぇ!」
しばらく楓ちゃんの絶叫が流れた。
「――ふぅ判れば良いのよ」終わった時の遥はどこかすっきりした顔をしていた。
「うううう。なんでもかんでも暴力で解決するのって良くないと思うよ」
楓ちゃんは半泣きで訴える。
「何か言った?」再び遥の目が怪しく光る。
「言ってない。言ってない」
「だよね♪ じゃーこれから雪のことを何て呼ぶのかな?」
「エ……」
「雪ちゃん♪」遥が半眼になるのを見て、楓ちゃんは言いなおした。
そこまで、エリカちゃんと呼びたいのか!
「それにしても二人とも仲良さそうだねぇ」苦笑いを浮べてしまう。
「ああ、そりゃね。幼稚園からの腐れ縁だし、あたしと楓って苗字が井波と江藤で、出席番号が近いからクラスが一緒になったら殆ど近くになるからね。こんなのでも自然と仲良くなったのさ」
「ちょっと遥ちゃん酷いよ。こんなのってどういう意味!」
「こんなのはこんなのだろ? 高校1年にしてその幼児体系、ランドセルでもしょってた方が似合うんじゃないか?」
「ああああ、言ってはならんことを言ってくれたよ、この巨○兵は。もう口から破壊光線でも放ってればいいんだよ!」
「まだ言うか!」
「あはは、まぁまぁ。ってことはボクと太一と同じようなものだね」
「うん? 太一? ああ矢神君だっけ? エリカちゃんで笑いとってた」
「そ……そう、その矢神太一ね。太一とボクも幼稚園からの腐れ縁なんだよ」
「ああ、そうなんだぁ。仲良さそうだったもんねぇ。そうかそうか、ひょっとして氷室様が彼氏じゃないってことは? 矢神君が彼氏だったりするの?」
「無い無い。だって太一だもん。ずっと昔から知ってるし彼氏とかあり得ないよ」
こないだまで男だったんだから、彼氏もなにも普通に親友だしね。
「そだよね。うん、雪の彼氏には相応しくないなぁ」
なんだろ? 今少し嫌な感じがした……
「そうかな?」
「そうよ。雪の彼氏になるんだったら、やっぱり白馬に乗った王子様じゃないとね!」
「白馬の王子様って、遥そんな夢物語信じてるの?」
「うわ、目の前の生きるファンタジーに言わても説得力無いわぁ」
そうこうしてると、ムッチーが入ってきて朝のホームルームが開始された。
普通に友達も出来たし、なんとか女の子としてやっていけそうな気もする。
元々、女子の中に居ても違和感が無いとか言われてたけどね……
思い出して暗くなってきた。
忘れよう。うん忘れよう。
女っ気がなさ過ぎるということで、学園偏から追加の新キャラ2名投入しました。
可愛がってもらえるといいですが……
※ 誤字、脱字、修正点などがあれば指摘ください。
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