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すのーでいず   作者: まる太
第二章
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高校生活スタート 2

 氷兄とは2階の階段で別れ、4階にある1ーAの教室へ向かう。

 星桜学園では、2階から4階が各学年の教室になっており、1年が4階、2年が3階のように低学年程登らなくてはいけないのだ。


 

 1-Aの教室は一番奥の角だった。

 開けっ放しになっている後ろのドアから中に入ると、波が引くように雑音が消え、同じ速度で視線が僕に集まった。

 な……なに? 

 思わず立ち止まってしまう。

 クラス中の目が全て僕を見ている。

 まるで僕の一挙一動を見逃すまいとでもしているようだった。

 ジッと見られているのはとても恥かしい。

 意識したことで、少し頬が上気してきてしまう。

 こんな顔見られたくないし、かといってこのまま止まっていると動けなくなるかもしれない。

 逃げたい僕は自分の席を探すことにした。

 辺りを見回すと、黒板に名前の書かれている紙を発見する。

 足早に黒板に近付き、自分の名前と相対する机を確認した。

 そして、素早くその机に向かって椅子に座った。

 クラスメイト達は僕の行動を追うように視線を動かしていた。

 別のクラスメイトが後ろから入ってきても、気にする者は居ないみたいだ。

 僕が何したっていうんだ! 心の中で叫んでも誰も答えなど教えてくれる筈もない。

 いつまでたっても視線が途切れることが無い為、突っ伏して顔を隠しながら時間を潰すことにした。

 顔が見られてないだけでも大分マシだった。



 その後すぐ、担任の先生が教室に入ってきたことにより、僕はやっと視線から解放された。

 そして、事務的にこれからの事を説明されて、流れるように式場である体育館に移動した。



 入学式は特に変った内容は無く、一般的なモノだったと思う。

 まぁ、突拍子も無いような入学式なんてやられても困るからこれでいいのかもしれない。

 そんな中、保護者の一人が、新入生の席に写真を撮ろうと近付き過ぎて注意された。

 思わず笑いそうになった。でもそれが父さんだと気付いて殴りたくなる。

 入学式なんていうものは子供が主役なのに、子供に恥かかせてどうするんだと言いたい!



 入学式が終わって教室に戻ってきた僕達は、担任の先生の自己紹介を聞いていた。

「ええと、今年一年間君達を受け持つこととなった村田むらた はじめ28歳だ。担当教科は社会科だ。サッカー部の顧問もしている。もしお前達の中でサッカー部に入りたい奴が居るなら後で先生の処に来るといい。もれなく放課後にブラジル体操を躍らせてやるからな。後そうだなぁ。まぁこれは隠しておいてもいずれバレル事だから教えておくか。俺のあだ名はムッチーパンダとか言われている。お前らの二年先輩の男子がこれを呼びだし、いつのまにか広まってしまったのだ。まぁ気軽にムッチーとでも呼んでくれても良いぞ。但しパンダをつけるとどうなるか判ってるな? とこれぐらいが俺の自己紹介ってところだな」


 

 ムッチーはそれほど身長は高くなく、筋肉で小太りしている感じだ。

 サッカーよりもラグビーとか、空手をやってると言われたほうがしっくり来る気がする。  


 

 それにしてもサッカー部の顧問ってことは氷兄のことを良く知ってるに違いない。

 絶対ろくなことしてないんだから、身内と思われるのは勘弁して欲しいなぁ。



「ええと、それでだ。俺の自己紹介が終わったことだし、今度はお前達の自己紹介をして貰おうと思う。だがそれだけじゃつまらんだろ? よって各自1発ギャグを必ず入れるように。一番つまらんことした二人が学級委員と、副委員な。どうせ立候補なんて居ない雑用係なんだし、俺のクラスは毎年これで決めているから伝統だと思ってくれ」

 へ? 思わずムッチーの顔を見てしまった。

 ムッチーは不敵な笑みを浮べていた。

 どうやら本気で一発ギャグをやらせるつもりらしい。

 どういう神経してるのか本気で疑う。

 こんな誰も知らない状況でそんなこと出来る訳がないじゃないか!

 更に、僕の出席番号はとても不味いのだ。

 苗字が阿南だから、あ行になる。

 このクラスはまだツイテル方だが、それでも女子の2番である。

 今から考えるとか無理、絶対無理!


 

 ムッチーはクラス中のブーイングなど無視するようにスタートさせてしまった。

 初めは男子からということで、出席番号1番の男子が席を立たされる。

「ええと、阿部義人あべ よしとです。趣味はパソコンです。1発ギャグは……隣の家に塀が出来たんだってね――かっこいいぃ」

「…………………」誰もクスリとも笑わない。

「お、終わりです」阿部君は居た堪れないように席に座った。絶望したように俯いている。

 1番初めのプレッシャーだし、ある意味頑張ったと誉めてやりたい気もする。

 だが、学級委員候補に名が載ったのは疑いようがない事実だ。


 

 刻一刻と僕の番が迫ってくる。かといって名案が浮かぶ訳でもない。

 もうあれか? 氷でも出せば……ってどう見てもギャグじゃない!

 だったらこの外見を生かし、髪を頭上に逆立て、目に気合を込める――

『スーパー○イヤ人!』どうだ!

 いや、落ち着け僕、それは幾らなんでも駄目だろ。何か大事なもの全部失う気がする。

 でも、根本的には良い気がする。

 この外見を逆手に取ったギャグは僕しか出来ないんだし、高評価間違いないだろう。

 となると、スーパー○イヤ人意外のネタにすればいいんじゃないか?

 白髪、青目のキャラクターを必死に思い出す。

 ああ、あれはどうだ? 深夜アニメでやっていた。ヴァンパイアプリンセス。

 主人公のヴァンパイア王女の見た目が僕ソックリだった気がする。

 台詞はと? うん。大丈夫覚えている。 



 丁度このタイミングで前の人が座った。

 本当は前二人が何を言うか聞いてたほうが賢いのかもしれない。

 だけど、初めの人同様に暗い雰囲気をかもし出しているから、苦しい結果だったのだろう……



「次」ムッチーの声を聞いて僕は立ち上がり、皆の顔が見えるように体の向きを変えた。

 教室の雰囲気が変ったかのような視線が集まる。

 その眼は妙に期待してるみたいな、興味深々なモノが殆どだ。

 は、話し辛い……

 このまま黙っていたら暗い人だと思われてしまうかもしれない。

 勿論、学級委員にもなりたくない。

 意を決して声を出し始めた。

「エリカ ツェペッシュです……」

 はっ! アニメのキャラばかりを意識しぎて自分の名前間違えてどうする僕! 

「すいません違います。阿南 雪です。こんな容姿してますが普通の日本人です――」

「ああ、確かに名前は阿南だな、中々面白かったぞ」ムッチーが余計な? 解説をしてくれた。

「あはは。くすくす。ぷぷぷ」クラスメイトが笑っている。

 ……笑われてしまった。

 あれ? でも笑いを取るんじゃなかったっけ? 

 これでいいのかな? なんかぐだぐだ……

「趣味は料理です。一発ギャグやります」

 そう言った瞬間、和んだ雰囲気が真剣なものになる。

 うわ、ちょっと……

 そんな凄いことじゃないんだから、あまり期待しないでぇ! 

 少し間が欲しくて、コホンと咳払いしてから始める。

「くくく、我は始祖のヴァンパイアの血縁に連なる者、エリカ、ツェペェッシュじゃ、我と共に過ごせる栄誉に感謝し、頭を垂れるがよいわ。おーほっほほほほほ」胸を張って高笑いするポーズまで入れた。

 クラスの全員が一斉に頭を下げた。ちなみに、ムッチーもだ。

 あれ? 今の笑うところなのに、何故……

 頑張ってやったのに、このやっちゃった感全開な感じ……今になって選択の過ちに気付いた。

「おしまいです」ペコッと頭を下げて座り、そのまま恥かしさを隠すように机に突っ伏した。

 この格好が癖になりそうで困る。 



 この後は、僕の捨て身? なジョークの賜物だったのか、幾分リラックスした雰囲気で自己紹介は続いていった。

 そして、終わりが近付いてきた時のことである。

「ええ、エリカ、ツェペッシュいいます。あっすんまへん間違えました」という声が聞こえた。

 その瞬間、爆笑が沸き起こった。

 な、なんて美味しいことするんだ――って違ーーう!  

 誰だ傷口に塩を塗るような奴は、顔を起こして言った犯人を探す。

 犯人はすぐ判った。僕の方を見て、してやったりの笑みを浮べていたからだ。

「ええ、本名は矢神太一いいます。この喋り方はオリジナルなんで、特許侵害はせんでください。ああっ誰もいらんですね。趣味は――」

 驚く僕を気にもしないで太一は挨拶を続ける。そして、無難なジョークをこなして会話を締めた。

 何故此処に太一がいるのかさっぱり判らない?

 別の高校に入学する筈だったのだ。

 非難するように太一を睨むと、意味深な目で返された。

 くそーー絶対とっちめてやる!



 ちなみに、学級委員は阿部君、副委員は太一に決まった。

 僕のネタで笑いをとった罰だからだ。

 ムッチーGJと誉めてやりたい。

  


作者は、このスーパー○イヤ人どうしてもやりたかったのです。

悔いはないです。


※ 誤字、脱字、修正点などがあれば指摘ください。

評価、コメントも是非にです。

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