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すのーでいず   作者: まる太
第一章
12/84

料理は愛情!

巻きでいきます! 巻きで!

 忙しなく時は流れ、後一週間で入学式を迎える迄になっていた。



 その間の僕はというと、日課とされた手伝いという名のシゴキを受けさせられていた。

 ずっと食っちゃ寝してた訳ではありません! 

 本当はそうしたかったのに。うううう……

 現在はキッチンにて母さんと一緒に昼飯を作る最中だった。

 本日のメニューは、コンソメスープとチャーハンである。


 

 何故こんなことになったのか?

「雪ちゃんには女の子としての意識が欠けています!」

 母さんのこの不吉な一言から始まった。 

 先日まで男だった僕を捕まえて、女の子の意識なんて言われても鼻で笑うしかないのだが。

 母さんの美意識からすると、許せないらしい。

 理想の女の子にしてみせると燃えているのだ。

 その後に、「美味しく育ってからふふふふ」みたいな怪しいことを呟いていたのは気のせいと信じたい……

 大体、望んで女の子になった訳でもないのだから、それぐらいは大目に見るものじゃないだろうか? そう思うよね? きっと誰か賛同してくれる筈。誰って誰だろ?

 母さんから駄目だしされたのは、

「胡坐で座らない」

「歩き方を変えなさい」みたいな日常動作から、

「出掛ける時はシャンプーしてブラッシングしなさい」という身だしなみについて、

 更には、「女子たるもの料理の一つや二つレパートリーがなければ、イザという時困るのよ」と家事に至るまで及んだ。

 正直付き合ってられない。

 大体イザという時っていつだよ。

 声を大にして反論したい。

 じゃー別にやらなければいいじゃんと突っ込こまれるかもしれないが、そこには理由ってモノがある訳でして……

 いや、別にそんな大したことじゃないよ?

 ただ『休みの間ちゃんとやれたら、欲しがっていた携帯を買ってあげる』なんていう言葉に乗せられた訳じゃないんだからね! ツンデレっぽく言ってみました。

 PCでも良かったけど、PCは氷兄の持ってる奴ををコッソリ狙っているのは内緒です。

 はい、解説おしまい!


 

 キッチンに親娘で料理している姿は、どこか和むものがあるかもしれない。

 僕の格好は、母さんとお揃いのエプロン(いつのまにか用意してた)の下に水色のプルオーバーとベージュのキュロットスカートという感じである。

 太ももがあらわになっていて恥かしいけど、まぁ変則的な半ズボンと思うことにした。

 服装に関しても、女の子らしさを身に付けるにはまず外見から、という理屈でこの格好だ。

 後一週間もすれば解放されるのだから、携帯の為に頭を下げると思えば我慢出来るってもの。

 微妙に言葉が違うけど、そこは応用だよね!



「雪ちゃん、上手くなったわねぇ」

 フライパン上のチャーハンを、木ベラを使いながら混ぜている僕に、母さんが話しかける。

「うん、そっかなぁ? まだまだだと思うけど」

「そんなこと無いわよ。動きが大分様になってるもの。雪ちゃん才能あるのかもしれないわね」

「へぇ。そうなのかなぁ?」

 お世辞だと判っていてもちょっと嬉しくなる。

 料理なんて、家庭科の調理実習でやったぐらいで、ほとんど忘れてたのだから一番初めは大変だった。

 基本の、さ(砂糖)し(塩)す(酢)せ(醤油)そ(味噌)ですら覚えてなかったのだ。

 良く頑張った僕と誉めてあげたい。

 でも料理に関してだけならば、今は結構好きになっていた。

 初回に作ったモノなんて焦げてるし、それを誤魔化す為に調味料を大量に入れたりして、最早原型はなんだったのかという怪しい代物だった。

 それでも、父さんや氷兄は美味しいと涙を流しながら食べてくれるのだ。

 3割、いや4割は本気っぽかったけど……

 冬耶の分は母さんが作ったのを出してくれるので、気兼ねしないのもよかった。

 そこからは燃えた。

 だって、何を出しても美味しいと言ってくれるんだよ?

 それはそれで嬉しいけど、どうせなら本当に美味しいものを出して喜んでもらいたいじゃないか。

 自分の作ったものを評価してもらって、誉めて貰えるような経験、今迄無かったのだから楽しくなってしまったのだ。

 おかげで、普通に食べれるモノを出せるぐらいには上達したと思う。

 まだ母さんの味までは遠いけど、目標があることは励みになる。

 趣味には丁度良いかもしれない。

 更に、料理をしてる時は母さんも文句言ってこないのだ。

 なんでも家は三人男だから、自分の味は継承されないと半分諦めていたらしい。

 だけど僕がその味を覚えてくれるようになって感動ものなのだそうな。


 

 丁度良い具合になったので、チャーハンを4人分取り分けてお皿に盛っていく。

 それを、母さんがリビングに持っていってくれる間に、コトコト煮込んでたコンソメスープを各自のカップに注ぐ。

 フライパンに水を入れて余熱で洗い易いようにし、コンソメスープと烏龍茶を戻ってきた母さんに渡して再び運んで貰う。 

 キッチンを大まかに見て火元は大丈夫か確認してから僕もリビングに向かった。



「お待たせ」僕は自分のソファーに腰掛けた。

 ソファーには氷兄と冬耶が既に座っていて、母さんも僕が来たのを見計らって座る。

「今日のはそこそこ自信あるよ」

「お腹空いてるからなんでも来いってもんだ」この失礼な発言は氷兄。

「雪姉ちゃん料理上手だよねぇ」素直な感想の冬耶。

「そのうち、料理は全部雪ちゃんにやってもらうことにしようかしら?」不穏なことを言うのは母さんだ。

「いただきますx4」一斉に食べ始める。

 味は悪くない。

 ちょっと胡椒が弱かったかもしれないけど、冬耶が居るからこんなものかなぁ。   

 ああ、チャーシューでもあれば更に美味しいのかな?

 どうやって作るんだろ……今度調べてみよう。

「ふぅ、ごっそさん。いやぁ美味かったわ」氷兄が全部平らげて、お腹をさすっている。

 早! 僕なんてまだ半分も食べてないのに。

 母さんと冬耶も似たようなところだ。

「ちょっと、氷兄、折角作ったんだからもうちょっと味わって食べてよ!」

「は? 雪が作ったものに不味いものなんて無いだろ? 早いということは美味い証拠だろうが」

 なんか正しいような違うような理屈だなぁ。

「そんな食べ方じゃ健康にも良くないって」

「俺の四次元腹はこの程度で壊れる程ヤワではない」

 どこの青い狸だよ! 

「確かに、ちょっと下品かもしれないわねぇ」母さんが味方してくれた。

「今年から氷君も最上級生なのだから、あまり変なことばかりしてたら下級生に示しがつかないのじゃないかしら?」

「たかが食べ方一つでそれは無いって」

「そうでもないわよ? お見合いの席で食べ方が下品過ぎるってことで破談になることだってあるのだから。変な癖は直せるなら直したほうがいいと思うわ」

「うーん。まぁ俺の場合雪が嫁に来てくれるから問題ないな」

「あら? それ名案かも雪ちゃんとずっと居られるもの♪」

 ぶっ! 思わず飲んでいたコンソメスープを吐き出しそうになったじゃんか!

「二人とも何馬鹿なこといってんの! 氷兄は兄弟だよ? 結婚なんて出来る訳ない。更に僕が男と? 無理無理、絶対無理!」

「雪姉ちゃん、美人だし人気でそうだけどねぇ」

 冬耶は黙ってような……

「むぅ。それなら一緒に兄妹でも結婚出来る国で暮らそうぜ! 雪と一緒なら何処でも楽しそうだし」

「あら、それならママもそこで暮らしたいわ」

 いくら今が春だからって、お花畑過ぎじゃないか?

 ああ、この二人は一年中変態だった。

「そうしたら僕はどうなるの?」

「冬君も一緒に来ればいいわ。隆彦さんには単身赴任してもらってお金を送ってもらいましょ」

「だったら、僕も良いよ」

 良いのか! 弟よ二人の悪影響を受けちゃ駄目だ。

 そして、父さんの扱いが可哀想すぎだろ……

「ピンポーン」その時、玄関のチャイムが鳴った。

「はいはーい。ちょっと待ってくださいねぇ」母さんが玄関に向けてパタパタ歩いていった。

 はっ! これがパタパ○ママか! 

 はいどうでもいいです、すいません。ちょっと今の話題から逃げたかっただけなのです。


 

 どうやら来たのは宅急便だったみたいで、母さんが荷物を受け取り、そこそこ大きめの紙のケースを持って戻ってきた。

 目が異様に輝いているのは何故だろう?

「じゃーん。これなーんだ♪」

「探偵の秘密道具?」

 嫌な予感がするし、マトモに取り合わない方が良い。

「ああ、だったら俺は仕込み銃ってところにするわ」

 さすが氷兄、変態だけあっていいノリだ。 

「うーん。僕はどうしようかなぁ? オーパーツの一つで、7つ集めると合体ロボに変身するのがいいな」

 おおっ、すごい発想、やるな冬耶!

 あれ? 母さんが頬を膨らませて不満そうですよ?

「三人共外れなので、罰として小遣い半額ね!」

「それはねーよ(氷兄)。ちょっと待ってよママ!(僕)。お母さん酷い……(冬耶)」

「だったら真面目に答えるように!」

 くー。仕方ないなぁ。

「どうせ、母さんが通販で買った怪しいモノなんだろ?」

 僕より先に、氷兄がヤレヤレという風に答える。

 まぁ、普段ならそうなるのだけど、先程の目の輝きは僕に関係する時に良く見せるアレだ。

 絶対僕に関連するモノの気がする。

 となると、なんだ?

 洋服? でもこないだ買ったのは今着てるし、春物は充分だよなぁ。

 じーっと紙のケースを観察すると、嫌なマークに気付いてしまった。

「それってまさか!」

「えっ? 雪姉ちゃんもう判ったのすごい!」

「あら、雪ちゃんは判ったのね。氷君が気付かないのが意外だわ」

 母さんが駄目な子を見るような目で氷兄を見る。

「ちょっと母さんどういう意味だよ。俺だって本気を出せば――ってその箱のマークって、俺の学校のマークじゃねーか」

 そう、氷兄の言う通り、氷兄の通っている星桜学園せいおうがくえんのマークだ。

 ちなみに、僕が今年入学する学校でもある。

「鈍いわねぇ。この時期に来る学校のマーク入りのケースといったら決まってるでしょ? 数年前を思い出してみなさいな。まだボケてないわよね」

「酷い言われようだなぁ。うーむ、ああ、あれか! そうか、そうだよな」

 急に氷兄が喜びだした。

 気付いたか……氷兄だけには気付いて欲しくなかったのに……

 はぁ……又厄介事が増えたよ。

「ということで、雪ちゃん。これどうぞ♪」

 母さんから紙のケースを渡される。

「あ、り、が、と――」

 要らないと言いたいけど、渋々受け取る。

 ああ、どうせ次なんて言われるか判るなぁ。

「それじゃ、雪ちゃんいつこの制服着てくれるのかしら?」

 うわ、本当予想通りだ。

 母さんがすごいわくわくしてる。

「うーん。入学式?」可愛く言ってみる。

「えーーーーーーーー!!」母さんだけじゃなくて、氷兄からも叫ばれた。

「学校に行く為に着るのだから、休みの間に着てもなんの意味もないでしょ?」

「大有りだな!」

「大有りよ!」

「な、なんで?」二人のすごい剣幕にちょっとたじろぐ。

「俺が見たいからに決まっているだろうが!」

「あっそ。却下」

 はい氷兄沈没。後は母さんだけど、母さんは手強いんだよなぁ。

「それなら雪ちゃんに聞くけど。その制服初めてでちゃんと着れるのかしら? 男子の制服と違って女子の制服は結構複雑に出来てるのよ? 練習しといた方が良いと思うのよねぇ」

 く……これだよ。

「複雑って言うけどさ、所詮は服なんだし着れ無い訳ないって」

「あらそう? 確か中学の制服もネクタイが結べないって隆彦さんに泣きを入れてなかったかしらねぇ?」

 良く覚えてるなぁ。

「そんな昔のことは忘れたよ。僕は前だけ向いて歩いてるんだから」

「はいはい。それに、サイズがちゃんと合ってるかどうかも確かめる必要があるのだから、着て確かめないと駄目よ」

「ううう……」

 正論だ。このままでは・・・・・・ってアレ? 気付いてしまった。

「だったらさ、別にママ達に見せる必要は無いし。後で着て調べてもいいよね」

「ええーーーーーーーー!! ずるい」

「そうだズルイぞ雪」

「僕も雪姉ちゃんの制服姿みたいかも」

 ああ、冬耶がどんどん悪の道に染まっていく。

 僕がなんとかしなければいけない! 変な使命感が宿った瞬間だった。


※ 誤字、脱字、修正点などがあれば指摘ください。

評価、コメントも是非にです。

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