メイプルロード 2
フードコートに二人仲良く? 入ると、ソースや醤油の焼ける香ばしい匂いが伝わってくる。その匂いは食欲を刺激し、空腹を促進させた。
しかし、時間が時間だけあってご飯を食べる人が多く、白い備え付けのテーブル席は沢山の人で混み合っている。
席を確保するのに難儀しそうなこともあり、席を確保するのは氷兄に任せ、その間に僕が食べものを買ってくることにした。
氷兄の持つ僕の洋服その他の紙袋は4つ、それを持ちながら食べ物を運ぶのは無理に近いので無難な判断だろう。
氷兄のリクエストを聞くと定番の焼きそばにお好み焼きと言われた。
僕はどうしようかな? キョロキョロとメニューと売店を見ながら選ぶ。
うん。チーズドックと、ジャガバターにしよう。
チーズドックは中々売ってないから、食べれる時に食べないとだめだよね。
注文カウンターには二人の若い男の店員さんが忙しなく働いていた。
列の長さとその速度から、大体待機時間は10分ぐらいだろうと推測された。
早速、列の最後尾に並び待つことにする。
僕が近付くと、周りの人におっ? という感じの顔をされる。
毎度のことながらそんなに珍しいかな……
但し、朝と違い何だか反応が違う気もする。
この服のせいだろうか?
そんなに変な格好はしてない筈だと思う。
だけど……選んだ人が母さんだし……信じていいんだよね?
今は嬉々として自分の物を物色しているであろう母さんのセンスに掛けるしかない。
皆が僕のことを見るからだろう、視線がだんだんと集まってきている。
とても、恥かしい……
赤くなった顔が見えないように少し俯いてしまう。
そのまま羞恥心に耐えていると列が流れ、やっと僕の番が来た。
背中からくる視線はまだ無くならないけど、後ろの人を待たせる訳にもいかず、注文を開始する。
「ええと、焼きそばとお好み焼き、チーズドックとジャガバタをく、クダサイ」
見られているのを意識してしまい、遂、声が上ずってしまった。
ううう。何やってるんだろ僕……
「焼きそば、お好み焼き、チーズとジャガバタね」店員のお兄さんがメモを書きながら乱暴な口調で聞き返す。
「はい、お願いします」今度は普通に言えてほっとした。
「全部で、1600円にな、り、ますぅ?」お兄さんは言ってる途中で僕を見た瞬間素っ頓狂な物言いになった。
そして、唖然とした表情を隠すようにコホンと咳払いして、僕から代金を受け取りレジの中にお金を仕舞う。
なんだろ今の? うーんやっぱり変なのかなぁこれ。着てる服を軽く見直す。
お兄さんはそんな僕の行動を気にする気配も無く、
「少々お待ち下さい」軽く礼をして、焼きそばとお好み焼きを後ろの厨房にオーダーして、その間にジャガバタを製作し始めた。
暖められたジャガイモの中にバターを落とし終わる頃には、焼きそばとお好み焼きも出来上がったみたいで、パックに入れられた二つと、今のジャガバタを白い紙容器の上に載せてトレーに配置していく、そして最後に保温気の中のチーズドック2本を添えて完成させた。
「お待たせしましたぁ」初めとは違いお兄さんは微笑まで浮べた完璧な接客作法で、僕の目の前に完成されたトレーを置く。
それを見ると違和感が沸く。
「あれ? 頼んだチーズドック1本ですよ?」
「ははは。それは君が可愛いから俺からのプレゼント」お兄さんはウィンクまでしている。
「え? でも悪いですし……」
「いいの、いいの、可愛い子は得する権利があるんだよ」
「でも……」
僕だけ特別扱いされるのも変だし、あまり揉めて時間を掛けても不味いよなぁ。
やっぱりお金を払って買ったほうがいいかも。
僕がお金を出そうとしたのをお兄さんが察知したようで手で止められる。
「男の顔を立てると思って素直に貰って。それでも納得できないなら、今ここで笑顔でも見せてくれればいいよ」
むむ。男の顔を立てろとなるとこれ以上言うのは逆に無礼かもしれない。
かといって無料というのも気が引ける。
となると笑顔を見せればいいなら簡単だし、相手も望んでるのだから構わないかな?
「それでは、お言葉に甘えさせてもらって、在り難く頂きます」
天使の笑顔というのだろうか? まぁそれは言い過ぎだとして、出来るだけ理想系を意識しながら首を少し傾げて花が咲き誇るように笑いかけた。
こんなのでいいのかな?
お兄さんは惚けたような顔になる。
「――うわっ良いものみたわぁ、なんていうのかなぁ。反則!」グーサインをだして喜びだした。
よく判らないけど、満足してくれているみたいだ。
一礼してトレーを受けとる際、「又来てねー」とまで言われてしまった。
世の中不思議が一杯です。
列を抜けて戻るときに、俺も笑顔するからチーズドッグ1本くれよと次の人に言われてる声が聞こえた。その後、オジさんなら青のり増量ぐらいだなぁ、そりゃねーよって笑いあっていた。
うーん。本当にこれで良かったのかなぁ?
まぁ本人満足そうだったし、珠には得しても罰は当たるまいと思うことにした。
トレーを両手で持ちながら氷兄の姿を探す。
軽く辺りを見回しただけで、拍子抜けする程簡単に見つけてしまった。
今日から、氷室タワーと呼ぼう。
頭一つ抜き出た長身と日焼けた肌は探すにはもってこいだ。
もし、僕だったら……同じことだったかもしれない……
自分で考えて落ち込んでしまう。
とりあえず、席の心配は無くなったことだし、深く考えるのはやめよう。
うん、そうしよう。
「氷兄良く取れたねぇ」氷兄の確保したテーブルまで歩き、トレーを置いた。
その際に、「ちっ、男連れかよ」「あんな彼女欲しいよなぁ」みたいな溜息が背後から聞こえてきたが、一体何を期待してるんでしょうね?
「ああ、ちょうど運が良く席が空いたんだ。椅子取り合戦の室ちゃんと言われた俺の手を持ってすれば楽な戦いだったぜ」
「初めて聞いたよそれ」笑いながら空いている僕の席に座る。
「ふふふ。真の漢たるもの秘めた技の一つや、二つ、五つや、百はもっているものなのだ」
「百って、欲張りすぎじゃない?」
氷兄は人指し指を左右に振る。
「チッチッチ。まだまだ漢道が判ってないね。雪君」
「別に判りたく無い気がするんだけど。だってそれ、又スク水がどうのとかいうあれでしょ?」
「その通り!!」
「ちょっと、氷兄声でかいって!」
この会話の内容を聞いてた近くの人に笑われてるんだけど……
「何恥かしがってるんだ。真実を語っているのだから、聞いてもらえばいいんだって」
「僕は構うの。大人しくしないと嫌いになるよ!」
「えっ?」その一言は効いたらしく氷兄は急に静になった。
上目使いをして、もう言いませんと訴えている。
お仕置きを受けている子供みたいでちょっと可愛い。
お陰でむっとした気持ちはすぐ無くなっていた。
「まぁ、冷めちゃうから早く食べようよ」
「もう、怒ってない?」
「怒ってないよ」軽く笑顔を見せると、氷兄は一気に元気になり焼きそばとお好み焼きのパックを空けだした。現金なものだ。
「はい、割り箸」
割り箸の束の中から僕の分と氷兄の分を取り出し、一膳を渡してあげる。
「サンキュ」貰うや否や凄い勢いで食べ始めた。
よっぽどお腹空いてたんだな。
それを見ると、僕のお腹もキューっと鳴り訴え掛けてくる。
よし、僕も食べことにしよ。
トレーの中の2本のチーズドックを見てにやけてしまう。
だけど、先にジャガバタから食べ始めた。
チーズドックは冷めても美味しいけど、ジャガバタの冷えたものは悲惨だしね。
味は可もなく不可もなしというところだった。
ジャガイモに十字の切れ目を入れてバターを落としただけの料理で、不味く作る方が難しいと思うけど。
次は残されたチーズドックを食べることにする。
氷兄はもう全部平らげていて、もの欲しそうに僕のチーズドックを見ていた。
「ひょっとして欲しいの?」
「正直に言うと、まだ腹八文目って感じで、少し物足りないんだよなぁ」
「ふーん。だったら1本いる?」
「くれるのか? だってそれ雪が買ってきたものだろ?」
僕は得意顔になる。
「えへへ。実は違うんだよねぇ。なんか可愛いから1本サービスしてあげるって言われて貰ったものなんだよ。この格好してちょっとラッキーだったかも」
「へぇそうか」
気のせいか氷兄が不機嫌そうに見える。
「だから欲しいなら1本あげるよ。この体じゃ多分食べれなそうだし」
「いや、やっぱりいい」
さっきと言ってることが違うじゃん!
「どうしたの急に? まぁ氷兄が要らないなら僕が頑張って食べるけど」
貰い物を粗末にするのは良くないしね。
「それだったら貰う」
「どっちだよ!」
「てかな、雪が鈍感なんだと思うぞ?」
「えっどういうこと?」
さっぱり意味不明。変態の氷兄に言われるのは何か癪だ。
「冷静に考えてみろって。そのチーズドックをあげた野郎は雪に食べて欲しかったのだろ? そんなモノを俺が食べるっていうのは俺もあまり嬉しくないし、上げた本人だって納得しないだろうってことだ」
「う……氷兄にしてはまともなこというなぁ。じゃーこうしたらいいじゃん。僕が買った方を氷兄にあげて、貰った方を僕が食べる。これで丸く収まるよね」
「ふむ、そういう考え方もあるな。だったら1本貰うことにする。本当は俺以外に貰ったものなど食って欲しくないのだがな」
「いやいやいや。さらりと変な言葉混ぜないでよ。でもとりあえず『僕の買った』分をあげるから、味を噛み締めて食べるように!」
氷兄に1本渡してあげる。
「おう、雪だと思って味わいながら食べることにする」
「言い方が気に入らないけど、さっさと食べちゃってね」
まったく、この男は……本当に頭に蛆でも沸いてるのじゃないだろうか?
でも相手の気持ちを考えれるのは年長者なんだなと関心する。
僕も気をつけないといけないなぁ。
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