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第7話 - レッドウルフの出現とタリア

レッドウルフは、突如としてエルフ王国に姿を現した。その異変を、リサとルシア――正体を隠した私、ルナ・フォルカとドッペル・リーガーは、確かに目撃していた。


この想定外の事態により、私たちは計画をわずかに変更せざるを得なくなった。当初は情報収集を優先する予定だったが、出現した魔物たちの殲滅を無視することはできない。


(これまで王国周辺では確認されていなかった魔物たちが、なぜ今になって現れた?……誰かが意図的に解き放ったと考えるべきね)


私――リサとしての思考は一瞬、複雑に絡み合ったが、問題はない。すでに冒険者たちは走り出し、王国に現れたレッドウルフを止めようと動いていた。だが、このような騒動は、エルフ王国での調査を困難にする。それを理解した私は、隣に立つルシアへと声をかけた。


「ルシア。私が特別なカードを一枚使って、王国周辺の状況を確認するわ。あなたは冒険者たちを支援して、目の前のレッドウルフを抑えてちょうだい。……あなたの力は強い。だからこそ、使い方には気をつけて」


「わかりました、リサ姉ちゃん。初めての任務だけど……どうか、無理はしないで」


「心配してるの?あなたの姉を、他の種族ごときに負けると思ってるのかしら」


「い、いえ……! そ、そんなことありません、リサ姉ちゃん。ごめんなさい……」


その反応を見て、私は理解した。ドッペル・リーガーは、ただ私を案じているだけだ。


怯えと、許しを請うような感情が、その瞳にははっきりと映っている。それも無理はない。私は――三日月迷宮における、最後の大魔導士なのだから。


私とルシアは、双子の姉妹として振る舞うため、完璧な偽装を施している。だが、魔物絡みの問題が起きた以上、信頼を得るためにも動く必要があった。これが、最初の一歩だ。


「大丈夫よ。あなたが自分の立場と目的を理解しているなら、それでいい。不安を抱くこと自体は悪くないわ。……ただ、今回の魔物の出現は少し妙ね。予定通り、計画を進めましょう」


「はい。最善を尽くします、リサ姉ちゃん」


「ええ。任せたわ、ルシア」


ルシアは一度だけ頷き、冒険者たちに追い詰められつつあるレッドウルフへと駆け出していった。周囲の住民や来訪者たちは逃げ惑っているが、私は逆に、被害を受けた区域へと歩を進める。


「待って、リサ! 何をしているの!? 早く逃げて!」


背後から、焦りを帯びた声が飛んできた。私は振り返らない。その声の主が誰なのか、すでに分かっていたから。


「キーマさん、でしょう?無謀なことはしません。あなたは引き続き、住民の救助と避難誘導に集中してください」


「なっ……!?リサ、あなたは何をするつもりなんです?レッドウルフは冒険者たちが倒せます。だから、あなたも――妹さんも、ここを離れて」


「大丈夫です、キーマさん。妹も、そう簡単に侮れる存在ではありません。私はただ、この周辺の対応をお願いしたいだけです」


そう言い残し、私はキーマの視界から静かに姿を消した。彼女は、私とルシアの正体を知らない。

だが、その直感は告げている。


――私たちは、普通のエルフではない、と。


キーマは私たちを信じ、冒険者ギルドの仲間と共に負傷者の治療と救助にあたった。戦闘に参加していない冒険者たちも、避難支援に回っている。


……被害者のことは、心配していない。彼女たちなら、必ず救ってくれる。


私は立ち止まり、周囲を見渡した。人気はない。壊れた建物、散らばる血痕――。


もしこれが、桃崎灯花として生きていた世界なら、私は恐怖と混乱に飲み込まれていただろう。


(けれど今の私は、ルナ・フォルカ。この程度の惨状で、心が揺らぐことはない)


殺戮も、破壊も、死も――

この世界では、ありふれた光景だ。それは、危険な行為においても精神を安定させるよう設計された、ルナ・フォルカというキャラクターの特性でもある。


……今は、目の前の問題を片付けるべきだ。


「さて……ここで能力を使いましょうか」


私は右手を前に差し出す。次の瞬間、三日月迷宮の《コレクティングカード》が一枚、空中に現れた。


【グレート・アーケイン・センス】


カードは淡く輝き、やがて消える。その力が、私の身体へと流れ込んでくる。


このカードは、周囲の魔力やスキルの波動を感知する能力を持つ。本来の探知範囲は二百メートルほどだが――私は《アルヴァシア・ファンタジー》時代に、徹底的に強化していた。


(今では、半径一万キロ以上を探知できる。……大魔導士仲間たちには、感謝しないと)


しばらくして、私は異質な魔力を感知した。しかも、近い。


――やはり、誰かが関与している。私は即座に、その存在へと向かった。


【テレポーテーション】


短い詠唱と共に、私は空間から消えた。


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黒いローブに身を包んだ人物が、細い路地へと足を踏み入れる。その身から放たれる魔力は、明らかに異常だった。だが、その人物は足を止め、息を呑む。白いローブ、白いフードの人物――


私が、目の前に現れていた。嵐のような魔力が、場を支配する。


「……やはり。あなたの魔力、他のエルフとは質が違うわね」


「だ、誰だ……!」


警戒心は理解している。私は静かにフードを外し、顔を見せた。


「私はリサ。エルフ王国の外から来た者よ。……説明してもらえるかしら、タリアさん?」


その名を告げた瞬間、相手は観念したようにフードを外した。肩までの短い金髪。黒い目隠し。


――エルフ王国で噂されていた、あの人物。


「……そこまで知っているのね。ええ、あなたの言う通りよ。私の名前は、タリア」


こうして、王国の指名手配犯は、私――ルナ・フォルカの前に姿を現した。


この出会いが、どの未来へと繋がるのか。それは、まだ誰にも分からない。

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