帰国
そして僕たちがヴァルスガルド王国へ帰る日がやってきた。シュットガルド侯爵家の馬車で、来た時と同じ港まで連れて来て貰ったのだけれど。おじいちゃんやリザリスさん、リスリラさんも見送りに来てくれた。
「本当に、色々とお世話になりました。この国での出来事は僕たちの一生の思い出です」
僕は、おじいちゃんやリザリスさんと握手をして別れの挨拶をする。
「まぁ、そんな悲しい事言わないで頂戴アベルさん。また何時でもいらして良いのよ。それに……」
そこまで言うと、リスリラさんが横目でリザリスさんを見る。
「何ですかお母様?」
「きっと、結婚式にはお二人も呼ぶ事になるでしょうから」
「なっ!?」
結婚式と聞いて赤くなるリザリスさん。
「そうだね。その時の席は端の方でお願いします」
僕たちも、二人の結婚式は楽しみにしている。けれど、目立つような席とかは勘弁してね。
「さあ、そろそろ出航するぞ。二人とも船に乗ってくれ」
船の上から声が掛けられる。
「「はい!」」
「では、皆さんお世話になりました」
「皆さんもお元気で!」
もう一度皆に挨拶をして、梯子を登って船に乗る。
船の上には気持ちの良い風が吹いていた。風になびく髪と風の匂いが心地良いな。僕たちは船のヘリまで寄って、岸壁で見送ってくれるリザリスさん達に手を振る。
「皆んな元気でねー!」「ありがとうございましたー!」
係留ロープが解かれ、船が岸壁を離れる。
久しぶりの船の揺れ。
ゆっくりと船が岸壁を離れると、帆が風を受け沖へと進み出す。僕たちは船の後ろの方へと回り、リザリスさん達に手を振る。リザリスさん達も、姿が小さくなるまで手を振ってくれていた。
「さて……」
甲板は、出航したばかりとあって船員さん達が忙しそうに動き回っていたけれど。僕たちは船上のマスト付近で話しをしている人物に近寄っていった。
「で? アルとゴドスさんは、こんな所で何をやっているのかな」
そこには、何故か旅姿のアルとゴドスさんが居たんだ。
「やあ! アベル。僕たちもヴァルスガルド王国へ行く事にしたんだ、向こうでもよろしく頼むよ!」
いや「よろしく頼む」じゃないよ!
「ゴドスさん?! どう言う事ですか?」
ゴドスさんは、僕たちに済まなさそうに手を合わせてから。
「王城にいると、アルに貴族どもが寄ってきて悪い影響を与えそうだったのでな。また暫く姿を消して、落ち着くまで様子を見ようとなったのだ」
「その為にヴァルスガルド王国へ行くんですか? と言うか、リザリスさんは知っているの? リザリスさんの所のシュットガルド侯爵領でも良かったんじゃ?」
ゴドスさんは軽く頷いて。
「リザリス嬢とリスリラ様には了解を貰っている。それと、王位を持つものが他の領地に長く居るのも、要らぬ噂を流す事になるのでな。ヴァルスガルド王国ではアスラ殿の世話になる事にするから、お主達に迷惑は掛けんよ」
いつの間にアスラさんまで連絡取っていたの? と思っていたら。連絡はまだで、向こうに着いてからお願いするんだって、大丈夫かな?
取り敢えず、今日から四日間は船の旅になる。もう戻る事もできないので、向こうにに着いてから考えるしかないでしょう。アスラさんの所がダメなら、ガングルさんの所にでも……??
そこまで考えてから、僕は何かを忘れている事に気がついた。
「あー!! グルガンさん! グルガンさんに声掛けるの忘れてた!」
僕のその叫びを聞いて、テツにぃも叫ぶ。
「あっ! そうだった! どうしよう?! もう戻れないよな?」
その時、そっと僕らの側に忍び寄り影。
「あーなーたーたーちー。 私の事忘れるなんて、良い御身分ね!」
そこには、立派な旅姿のグルガンさんの姿があった。
「まったく! 私が気が付いてなかったら、完全に置いて行ってたでしょう!」
後で聞いたら、グルガンさんはゴドスさんに防具の新調の仕事を受けていたみたいで、その時に帰国の話しも知ったらしい。きっと僕たちが声を掛けるのを忘れると思って、驚かせる為に黙って船に乗ってたんだって。
「皆さん、お元気そうで。帰りも船旅を楽しんで下さいね」
そう言って声を掛けてきたのは。
「あっ、ゴーン船長!」
「また帰りも、よろしくお願いします」
僕とテツにぃが、ゴーン船長に挨拶をして。他のメンバーを紹介する。
ゴーン船長も乗員リストで知っているのだろうけれど、それぞれに丁寧に挨拶をされていた。
それから僕たちは船室へと入って、皆でヴァルスガルド王国での予定を話した。
アルとゴドスさんは、アスラさんを頼ってヴァルスガルド王国で隣国同士の親睦を高めるそうだ。と言ってもアスラさんとも連絡が取れていないから、本当に着いてからの話なんだけどね。
それと、ロウさんも実は船に居たんだけど、ロウさんは船が苦手だったみたいで、船に乗った途端に船酔いでずっと船室で寝ているんだって。
「大丈夫なの?」と聞いたら、本人が「陸に上がれば大丈夫だから」と、どうしても下りるとは言わなかったらしい。
僕とテツにぃは、グルガンさんと一緒に、まずガングルさんのお店に行く事。そして、出来ればヴァルスガルド王国のラージダンジョンにもう一度入って、六十層を見てみたい。それが終われば、次はグルガンさんの願い通り、ゴウタウンまで一緒に帰る事になる。




