アルの想い2
「リズ姉……リザリスには、僕の隣に居て欲しいと思っています。今だけでなく、これからも、ガルバルド・アルス・ドラコーンの生涯の「待った!」」
突然ドルドラ卿が言葉を遮った。
「その先を聞いて良いのは儂ではない、最初に言うべき相手は儂ではなかろう?」
気がつくと、僕の後ろにはお茶を持ってきたリズ姉が立っていた。緊張しすぎて、ノックの音にも気が付かなかったらしい。
少し体を震わせ、緊張して立っているリズ姉。
僕は席を立ち、リズ姉の前に並ぶと、マジックバックからある物を取り出した。
そして、リザリスの前に片膝立ちになり、取り出したアースドラゴンの魔石を胸の前に上げる。
僕の喉も緊張でカラカラになっている。ゴクリと唾を飲み、やっとの思いで言葉を紡ぎ出す。
「太陽の神がその輝きを隠そうとも、私は貴女の光を見つけ出すでしょう。月の女神が夜の帳に身を潜めても、貴女の柔らかな輝きが私を導いてくれるでしょう。時にはパンを分け合い、一杯のワインを二人で飲む日が続いても。幾久しく恒久の時を貴女と共にありたいと願う。リザリス・シュットガルド嬢、私の生涯の伴侶になって頂けませんか?」
リザリスの瞳からは綺麗な雫が溢れ、か細く「はい」と、聞き逃しそうなほど小さな声が聞こえた。
立ち上がって、魔石を手渡しリザリスを抱きしめる。
パチパチパチパチ
優しい瞳で二人を見守るドルドラ卿。
「ドラコーン王の伝記だな……ならば。『二人の婚約、この儂が見届け人となった。もし異議を申し立てる者があれば儂に言ってくるが良い、全員ぶっ飛ばしてやる』どうだ?」
「お祖父様、今ここには二人以外誰もおりません。異議する者も居ませんよ」
「良いのだ、これも様式美というものさ」
ドルドラ卿が近寄って、リザリスの持つ魔石をジッと見る。
「これは、アースドラゴンの魔石か?」
魔石を持つリズ姉の体がビクッとする。
「そうです。以前、ジョーカーに飛ばされた六十層で倒した、アースドラゴンの赤の特大魔石です」
「こんな物を貰う女性は、初代ドラコーン王の王妃リスティ以外では初めてでは無いのか?」
「そうなの? リズ姉?」
ドルドラ卿と二人で魔石をツンツンしながらリズ姉にたずねる。
「二人とも気軽に魔石を触り過ぎだ! これは私が貰った物だからな。気安く触るのではない! それからアル! 今後はリズ姉呼びは禁止だ! ちゃんとリザリスと呼んで欲しい」
そう言うと、魔石を僕に渡してマジックバックに戻させた。
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ウリスラ様とのお茶会の席でも、先ほどの魔石を披露させられ。プロポーズの再現までリクエストされたが、流石にそれは断った! リザリスまで残念がるのはどう言う事だ?
ウリスラ様からも祝福の言葉を掛けられて、しっかり孫娘を守るようにと釘をさされた。
リザリスは昔から仕えているメイド達に囲まれて、キャイキャイと騒いでいる。そしてスーダン! あの場に居たものとして黙っているのが務めであろう、何をやっているのだ! それは私か?! やめろ! 片膝ついて何を始めるのだ!
「本当に、貴方がリザリスと縁付くとはね。小さな頃はリズ姉、リズ姉と後ろをついて回っていたものね。貴方が顔を見せなくなった時は、リズも凄く落ち込んでいたものよ」
メイド達が気になってしまい、危うくウリスラ様の言葉を聞き逃してしまう所だった。昔の話をされても、僕はもう卑屈になったりしない。
「僕はリザリスを必ず幸せにします。そのためにも王都へ戻らなければならない」
僕のその言葉に、ウリスラ様は優しい瞳で頷き。
「リザリスをよろしくお願い致しますね。ガルバルド・アルス・ドラコーン王子」
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「シャーナンド領へようこそ、ガルバルド王子。ドルドラ卿、リザリス嬢も変わらずお綺麗ですが、本日は一段と輝いて見えますな」
出迎えてくれたのは、このシャーナンド領の領主。シャーナンド伯爵だ、シュットガルド領とは友好的でドルドラ卿とは父親が釣り仲間らしい。
「わざわざ済まないな、シャーナンド伯爵。親父殿は息災か?」
シャーナンド伯爵は屋敷の方をチラと見ると。
「最近は足腰が弱り、外出も余りしなくなっております。しかし、昨日ドルドラ卿がいらっしゃると聞いてからは、今か今かと待ち構えておりますよ」
「そうかそうか、では親父殿の顔でも拝みに参るか」
そう言うと笑いながら伯爵と共に屋敷へと入っていった。僕とリザリスは、恐縮する執事に案内されて中へと進んだ。
応接室に入ると、既にドルドラ卿とシャーナンド伯爵の父親が昔話に花を咲かせていた。
「なんのなんの、儂はこんなに大きなナマズを釣り上げておったぞ!」
応接室のテーブルには、釣り上げた魚の魚拓が並べられている。
「久しく会わぬ内に、大物を釣り上げておったか!」
ドルドラ卿のその言葉も終わらないうちに。
「お主も、ど偉い大物を連れて参ったな」
ドルドラ卿がスッと姿勢を正し座り直す。
「すまぬな、お主と儂の間に政を持ち込んでしまった」
「構わぬよ、かわいいリザリス嬢のためだ、儂の名前くらいナンボでも使ってくれ」
隣のシャーナンド伯爵も、僕の顔を見て黙って頷いてくれた。
「お客様をお連れしました」
ちょうどその時、執事に案内されたアベルとテツ、グルガンさんが部屋へと入ってきた。
ドルドラ卿が立ち上がり、三人を案内する。
「こちらの三人は、隣国から使者で来られたアベル殿とテツ殿、それからグルガン殿だ」
ガルバルド王子とリザリスは、アベル達とこの国を旅をして回り、辺境伯領でのダンジョンの暴走を止めた事。シュットガルド領では新しい作物の種を持ち込んで試作に入っている事などを話した。
それと。辺境伯領で手に入れた新しいお茶を出して貰ったところ、シャーナンド伯爵の奥様が特に気に入り是非とも辺境伯領へも協力したいと申し出てくれた。
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翌朝。朝食が終わると、すぐに次の街へ向かって出発となった。
「すまぬな、本当はゆっくりお主と話しがしたかったのだが……」
グッと強く手を握り合う二人。
「よいよい。次はオウルストであろう? しっかり構えて向かわんとな。まあ、これだけ土産があればあ奴も無下にはしまいて」
全てが通じ合う二人、長く沈黙の時間が続くが、それも心地よい時間なのだろう……。僕にもこの様な友が出来るだろうか。




