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AT『アベルとテツの』冒険譚 if 異世界転生したおっさんが普通に生きる  作者: カジキカジキ


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リザリスの記憶2

 置いてけぼりにされた僕は、辺境伯の館をあてもなく歩いていた。この数日は、リザ姉と庭を散歩したりして過ごしていたので、この館の構造にも慣れてきていたつもりだったけど。


「あれ? ここどこ?」


 そう思っていた筈なのに、僕はどうやら迷子になってしまったようだ。メイド……は、さっき大丈夫だからと言って離れて貰ったんだった。


 日が入らないようにされた薄暗い廊下、途中に部屋はなく奥へとだけ続いている通路。引き返せば元の知っている場所に戻れるのだろうけれど、僕の好奇心は足を先へと向かわせた。


 廊下の突き当たりに一つだけある扉。開いているはずがないと思ってノブに手を掛けると。


 カチャ。


「開いてる?」


 そっと扉を押し開き中を覗くと、さらに薄暗い部屋の中の埃っぽさとカビの匂いが漂ってきた。ハンカチを口に当て、扉をさらに開いて中に入る。


「……」


 部屋の中は薄暗すぎて何が並んでいるのかよく分からなかったが、棚やテーブルには何かが沢山積んであるのは分かった。


 辛うじて光が漏れている窓に近寄り、窓を開け木戸を上げる。部屋の中に一気に光が入り、何かがゾワっと蠢いた(うごめいた)気がした。


「これ」


 近くのテーブルに積んであった荷物の一つを手に取る。


 特に価値も無さそうな普通の食器、欠けたティーセット。何処かでも見覚えのあるもの。


「これらは全て、この辺境に最初に入ってきた先人の持ち物だった物ですよ」


 声のした方を見ると、辺境伯が入り口に立っていた。僕は手に持った荷物をテーブルへと戻し。


「すみません、勝手に入ってしまって」


 辺境伯がゆっくりと部屋の中へ入ってくる。入り口にはさっきまでいたメイド。僕が先に進んだのを見て、辺境伯に伝えたのだろう。

 

「いえ、鍵を掛けていなかったのですから、こちらの責任です」


 並んでいる荷物を一つ一つ眺める辺境伯。


「なぜこんな物を集めているのか聞かないので?」


「アリアンテ男爵領でも教えて頂きました。先人に敬意と我々の今の幸せを当たり前と思わないように、先人が手放してしまった家財道具を集めているのだと」


「そうでしたな……ここに並んでいるものは、そうやって買い戻した物もありますが。もっと以前には、手放すと言う領民から、先代の辺境伯が買い取っていたとも聞いています。生活が豊かになり、買い戻せるようになった時に、儂の手元にあれば探すのにも困らないだろうと」


「ここにあるのはそうやって集まった品々なのです」


 辺境の開拓に赴いた(おもむいた)人々はどんな気持ちだったのだろうか、その一つ一つの品から当時の生活が感じられる。欠けたティーセットもその家族にとっては贅沢な品だったのだろう。豊かな生活を夢見て辺境に移り住み、苦しみ、家財を売ってまで耐えてドラコーン王国の発展に尽くしてくれた領民。


 僕は、その品々に敬意を表しながら部屋を後にした。


◀▶︎ ◀︎▶︎ ◀︎▶︎ ◀︎▶


 リズ姉たちが帰ったと聞いた僕は、急いでリズ姉がいる居間へと戻った。


 部屋に入ると、談笑しているリズ姉とアベル達。


「リズ姉!」


 声に気づいて笑顔で迎えてくれるリズ姉。


「アル。どこへ行っていたんだ? メイドに聞いても分からないと言っていたぞ」


 僕はちょっと返答に困り。


「あー、ちょっと迷子になってて」


「迷子ぉ?! アルもまだまだお子さまだなあ」


「「ははははははっ」」


 久しぶりに、嬉しい談笑に包まれた。


 リズ姉のダンジョン攻略も順調だったようで、結局二十層のボスを倒して帰ってきたそうだ。お土産だと言って、ボスの魔石をプレゼントされた。


 ボスの魔石と言えば、プロポーズにダンジョンボスの魔石を渡すと幸せになれるという話は本当かな……。


 リズ姉の体の動きは以前のキレを取り戻し、アレの後遺症も無いらしい。あるとすれば記憶の部分だけ。


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