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AT『アベルとテツの』冒険譚 if 異世界転生したおっさんが普通に生きる  作者: カジキカジキ


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リザリスの記憶

 あれから数日。リザリスさんとアルはずっと一緒にいて、散歩をしたり穏やか(おだやか)に過ごしていたのだけれど。何故か昨日「二人と手合わせがしたい!」と言い出して、今日は稽古場に来たんだけど。


 稽古場には、辺境伯とアル、リザリスさん、ロウさんが集まっていた。他にも辺境伯領の騎士の人が訓練をしているので、こっちをチラホラ見ては上司の人に怒られている。


「さあ! どちらからでもどうぞ!」


 訓練用の槍を模した棒を持ち。とても生き生きした顔のリザリスさん、それは出会った頃に話に聞いたリザリスさんのままだと感じた。


「じゃあ僕から」


 僕は木剣を取り、リザリスさんの前に立つ。


「ハッ!」


 いきなり先制してきたリザリスさん。


 カン! カン! カン!


 リズミカルに打ち合う音、それでも気を抜くと一発決められそうな鋭さを持っている。けれど、以前のリザリスさんとはちょっと違う感じがする。


 一度、大きく剣を振って間合いを取る。


 リザリスさんも、自分の手元をみて首を捻っている。


「どうしたんですか? 今度は僕から行きますよ!」


「ハアッ!」


 ガン! ガン! カーン!


 強めに2合打ち合い、ブレたところでリザリスさんの槍を弾き飛ばすと、リザリスさんは驚いた顔をして僕を見る。


「次は俺とやりますか?」


 続いて、テツにぃが槍を持ってリザリスさんの前に立った。リザリスさんはハッとした顔で槍を拾い、テツにぃの前に構えた。


 ・

 ・

 ・


「お二人の強さは本物ですね」


 何度もリザリスさんと打ち合っている内に、アルやロウさんが入ってきて、しまいには訓練していた騎士の人達も混じって何度も手合わせをしてた。その全てに僕とテツにぃは勝ったんだけどね。


 アルは、ロウさんにはギリギリ勝てたけれど、騎士団長には負けてしまって悔しそうにしていたよ。騎士団長さん、もの凄く強かったもんね。


「私は、まだまだ修行が必要です」


 リザリスさんは少ししょんぼりして項垂れ(うなだれ)てしまった、この辺は昔の記憶のせいで少し幼くなっているのかな。


「リザリスさんも免許皆伝なんだから。勘を取り戻せば、僕たちと変わらないくらいの強さを持ってますよ」


「私が……免許皆伝?」


 リザリスさんは、言っている意味が分かっていないようだったので、アルがリザリスさんのマジックバックから赤い柄のグレイブを取り出してみせた。


「これ! お祖母様のグレイブ!? 何でここにあるの?」


「こればリズ姉のグレイブだよ」


そう言って、グレイブをリザリスさんに手渡す。

 

「私が免許皆伝になったら、お祖母様から譲って貰うと約束していたグレイブ! 見間違える訳がない」


 グッとグレイブを握り締める。


「私……私、どうしちゃってるの? 私の記憶のアルは八才なのに、今のアルは十六才だと言うし。ここは辺境伯領で、いつの間に王都からここへ来ていたのかも覚えていない」


 記憶の自分と、今の自分のズレに戸惑うリザリスさん。


 ・

 ・

 ・

 

 リザリスさんの記憶が昔に戻っているとアルに聞いてから、テツにぃとも相談して考えた事なんだけど。


 昔の記憶に繋がる話や体験があれば、少しは思い出すのではないかと考えて、アルの年を教えたり。グレイブを見せてみたんだけど……余計に混乱させてしまったみたいだね。


◀▶︎ ◀︎▶︎ ◀︎▶︎ ◀︎▶


 久しぶりに強い人と模擬戦が出来ると思ってウキウキしていたら、思った以上に強い人たちで手加減までされてしまった。あんなに強い剣はお祖母様以来だし、アルが予想以上に強くなっていた事にも驚いた。


 私自身も、今日の手合わせの最中に何だか体の動きと頭の中の動きが噛み合わず戸惑ってしまう事が何度かあった。攻撃しようと考えた時の思考に、体の動きの方が先に行くのだ。守りの時にも、頭より先に手が動いていた事もあった。それを不思議に思っていたのだけれど。


 しまいには、私が免許皆伝だと言ってお祖母様のグレイブを渡されたのにも驚いた。


 確かに、十二才だと思っていた私だけれど、この体つきは既に大人のものだし、何より胸が育っている。十二才の私はもっとツルペタだったはず……。


 アルが十六才だと私は二十才、飛んでしまっている時間は八年……いったい私に何があったのだろう。

 

◀▶︎ ◀︎▶︎ ◀︎▶︎ ◀︎▶


「ちょっと急ぎすぎたかな?」


 アルの部屋に集まって、テツにぃと一緒に今日の事を話していた僕たちは反省していた。


 一番戸惑っているのはリザリスさんのはずなのに、僕たちが慌ててもどうにもならないのも分かっているのに。あんな風に無理やり思い出させようとするのは間違っていたよね。


 明日からは、またゆっくり過ごそう。そう話して今日は終わった筈だったのだけれど……。


 翌日、僕たちの部屋の前には。ダンジョンに入る時の姿でグレイブを手に持ったリザリスさんが待ち構えていたんだ。


「アベル! テツ! ダンジョンに行くぞ!」


 いや、僕たち朝食もまだだし、急にダンジョンって言われても。


「まぁまぁまぁ。どうしたんですか、急に?」


 テツにぃが、今にもダンジョンに飛んでいきそうな雰囲気のリザリスさんに手を振って抑えながら聞く。


「昨日ずっと考えていたんだが、さっぱり分からないのでね。ずっと悩むより、こんな時はダンジョンに入って思い切りグレイブを振った方がスッキリするのだ! と言うわけで、お二人にはついてきて頂きたい!」


 と言う事で、僕たちは慌てて朝食を食べると、準備を済ませた。アルも行くと言ったけど、リザリスさんが「今日は別々が良い」と言うので、ションボリとしたアルに見送られて辺境伯が用意してくれた馬車でダンジョンへと向かった。

 

◀▶︎ ◀︎▶︎ ◀︎▶︎ ◀︎▶


「ハァッ!」


 ズパッ!


 ここは。前回、訓練で入ったダンジョンの十六層。複数で現れるゴブリンや、時々現れるホフゴブリンをリザリスさんは一人で黙々と倒している。


「この階層で、ここまで軽く魔物を倒せるとなると本当に私も強くなっていたのだな」


 ダンジョンに入る前に、自分の冒険者証のダンジョンレベルを見てビックリしていたリザリスさんだったけれど、魔物を相手している内に勘を取り戻してきたみたいだね。


 まだ記憶は戻っていないけど、体の動きはもう先日までのソレと変わらなくなっている。


「今のリザリスさんとだったら、僕らも苦戦すると思いますよ」


 そう言って昨日の手合わせのフォローをしようとすると。


「いま、リベンジしても良いのだが?」


 と、笑顔で返された。


「いや、ここではマズイでしょ。獲物もこれだし」


 と、テツにぃが長巻を上げると。


「テツも本当にマエタ流免許皆伝なのだな」


 と、その赤い柄をみて呟いていた。


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