ダンジョンの暴走8
「それでは、新しくできたダンジョンは完全に消滅が確認されたのですね?」
俺とアベルは、目が覚めた日の昼前になって辺境伯の部屋へと呼ばれ。昨日までに辺境伯側で確認できた事を聞き、俺たちはダンジョンで起こった事を話した。アルはリザリスさんがまだ具合が悪いと言う事で、部屋から出てこないそうだ。
新しいダンジョンは、ダンジョンの入り口があった大岩が消えて更地になり。ダンジョンポータルも無くなってしまったそうだ。冒険者ギルドにある資料の中でも、数少ないダンジョン消滅の事例にも当て嵌まるので、間違いないだろうとの事。
俺たちは。訓練で入ったダンジョンの三十層で、ジョーカーと言うイレギュラーな存在によって新しいダンジョンへ飛ばされた事。新しいダンジョンでは暴走が起っており、十層のボス部屋に四十層ボスのキングオーガがいた事。その他にもボス級の魔物が一層から発生し、スタンピートの直前の状態だった事などを説明した。
辺境伯は、スタンピートと聞いて一瞬顔を青くしたが、すでに解決した事だと思い出し、ホッとしていた。
それでも、本当にギリギリの状態だったのだと思う。
途中のボス級の魔物を倒した魔石はかなりの数になり、キングオーガの大魔石まであるので辺境伯は買取をどうするか悩んでいた。
「十層のボス部屋にキングオーガ……」
この席にはギルドマスターも呼ばれ。ギルドの資料を調べたが、スタンピートの情報やその他の事例でも、ダンジョンレベルを超えた魔物の出現の情報は見つからなかったそうだ。
「とにかく、皆は我々が依頼した仕事を達成してくれた事になるので報酬を用意した。受け取ってくれ」
どさっと置かれた革袋。
「これは二人の分だ。王子やリザリス嬢へは別で用意してある」
そう聞いて、俺たちは遠慮せずに革袋をマジックバックに入れた。
「それから」
隣にいた冒険者ギルドのギルドマスターが続いて話す。
「お二人の冒険者ランクをBに上げますので、時間のある時に冒険者ギルドまでお越し下さい」
「えっ?! Bになるんですか?」
思いがけない事だったので思わず声がでた。
「ダンジョンの異常を止めた実績と、辺境伯の依頼の達成で、信用出来る冒険者と言う評価をさせて頂きました」
どうやら今回の件の実績が認められ。俺たちの冒険者ランクがBになると言う事だった。
その後、辺境伯と一緒に昼食を食べてから俺たちはリザリスさんの部屋を訪れた。
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アルとお昼ご飯を食べ終わり、お茶を飲みながら話しをしているとお客様がやってきた。メイドが対応して、アルが頷き入室を促す。
「やあアル、リザリスさん。おはようございます」
見知らぬ二人の青年が部屋に入って来ると、アルと私に気軽に話しかけてくる。この二人と面識があっただろうか?
私がぼんやりしていると、二人がすぐ横までやってきて。
「リザリスさん、体調は如何ですか? どこか痛んだり苦しかったりしませんか?」
そうか、この二人が私が気を失って倒れた所を助けてくれた御仁なのだな。それでアルも気軽に話しをしているのか。それならば……。
私は椅子から立ち上がり。
「お二人には助けて頂きありがとうございました。本当に何とお礼を言ったらよいか」
と言って片足を引き、膝を曲げて挨拶をする。
「?」
突然の挨拶に驚いたのか、二人はキョトンとした顔で私とアルの顔を見ていた。
「ちょっと、二人には後で説明するよ。リズ姉が思った通り、二人がリズ姉を助けてくれたんだよ。改めて僕からもお礼を言うね。リズ姉を助けてくれてありがとう」
それから、少しお茶をしながら話しをさせて貰ったが。二人は隣国から来た冒険者との事、結構な腕前らしいので、私の体調が戻ったら手合わせをお願いしたいものだ。
「ふぅ」
私がちょっと息を吐くと、二人は気を使ってくれたのか席を立ち、また挨拶に来てくれると言って帰られた。アルもそこまで送ってくると出て行ったので、何気に窓の外をみる。
窓の外は、青空にキレイな雲が浮かんでいた。
「今日は良い天気だな、あとでアルと庭をお散歩しよう」
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パタン
部屋を出て少し歩き、リザリスさんの部屋に声が届かないくらい離れたところで……。
「「リザリスさんどうしたの?!」」
僕とテツにぃは同時にアルに問いかけた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
アルが。案内してくれていたメイドさんに目線を送ると、メイドさんは空いている部屋の鍵を開けて中に通してくれた。メイドさんはそのまま外で待っててくれるようだ。
アルは、部屋の中を少し見回してから。
「リズ姉の様子に気が付いたのは、僕もお昼前に顔を見に行った時なんだ」
アルがリザリスさんの部屋に入ると、リザリスさんは元気な顔でアルに挨拶をしたらしい。その時の様子が、まるで小さな頃に僕と遊んでくれていたリズ姉のようだったと言う。
それから話しをしていると。リザリスさんの話が昔の事ばかりだと気がつき、さらに話していると……。
「アルは、八才だと思っていたが急に大人らしくなったな」
その言葉で、リザリスさんの記憶が、アルと弟王子の事故の前まで戻っていると気が付いたそうだ。
これが。ずっとこのままなのか、少しづつでも記憶が戻って来るのか分からないけれど。リザリスさんの体調が戻ったら、おじいちゃんのいるシュットガルド領まで行って相談しようと思っているとの事。
そこまで話すと、アルは「リズ姉が心配するといけないから」と言ってリザリスさんの部屋へと戻って行った。
僕たちも、メイドさんに案内されてお互いの部屋の前まで戻ると。テツにぃから、話しがあると呼ばれて部屋へ一緒に入る。
「アベルは何か感じなかったか?」
「……何が?」
テツにぃの言っている意味が一瞬分からなかったんだけど、リザリスさんのあの症状に、何か思い当たる事が無いかと聞きたかったみたい。
「僕にも分からない、あんな風に忘れてしまう事があるんだね」
そう言うと、テツにぃは僕の顔をジッと見てからフッと笑い「こう言う事か」と呟いた。
「えっ!? 何々? 何なのテツにぃ!」
僕が分からずテツにぃに迫ると。
「分かったわかった! ほらアベル、久しぶりにコレしてやるよ!」
と言って鞄からブラシを取り出す。
「もー、ゴマかされないんだからね!」
と言いつつ、テツにぃの横に座って背中を向ける。
「おっ! 今日はブラシの滑りがいいな」
「朝、メイドさんからもタオルで拭いて、ブラシもして貰ってたからね」
僕は知っている。朝のメイドさん、とても良い笑顔で僕の髪や耳をといてくれていた事を。
アベルさんは知らない、今も私が隙間からコッソリ覗いている事を、フフフ……。




