ダンジョンの暴走5
『さあ、起きて。セーフエリアが消えるわよ』
ジョーカーの声を目覚まし代わりに皆が起き上がり始めた。水分を補給して、出発の準備を済ませる。
「皆んな大丈夫か? 今日には九層を超えて十層まで進む予定だからな」
テツさんの「十層」と言う言葉を聞いて、全員の意識がハッキリする。
「そうだ」
昨日の事を思い出して、冒険者証のレベルを確認する。またレベルが二上がって、三十七になっていた。
ロウとキリギスさんも冒険者証を確認して少しニヤっとしている。
「さあ、皆んな行くぞ!」
テツさんの声に、僕らはもう一度気合を入れ直して九層の探索を始めた。
「ハッ!」
ザシュッ!
「うりょ!」
ザン!
次々と現れるホフゴブリンや、ウルフの上位種のワーグを倒しながら進む。皆、レベルアップで身体が動くのか、危なげなく倒している。
「しっ」
急にキリギスさんが皆を止めた。
「トロルが二体だ」
先に見える大木の陰からトロルが現れた。トロル二体は初めてだ。
「ロウさんとアル、リザリスさんで右を。俺とアベル、キリギスさんは左をやる」
上手く距離をとって離れ、トロルをそれぞれに誘い出して戦う。トロルはこっちの人数が少ないと思ったのか、悠々と近寄ってきた。
「フンッ」
ガァン!
トロルの攻撃をロイの盾が受ける。トロルは基本的に武器を持たないので、ハイオーガと比べると戦い易い。それでも力は強いので、あの腕が掠っただけでも大怪我になりそうだ!
ロウが盾で防ぎながら、僕とリザリスで攻撃を加える。
「ハッ!」
ザグッ!
「ハアッ!」
ザンッ!
上手くトロルを倒した所で、フッとアベルの方を見ると。そっちは既に倒した後だった。もうちょっと……。
それから暫くして、ついに十層への階段に辿り着いた。
「取り敢えず十層に下りて様子を見よう」
十層の状態が普段通りであればゆっくり休めるけれど、何か異変があれば十分に休めないままボス戦と言う事になる。
十層は、何と言うか全然空気が違っていた。何度も到達した事があるフロアだが感じる空気が全然違う。魔物の気配は無さそうだけど、長く居たいとは思わない。
「キリギスさん、どう思いますか?」
テツさんが、キリギスさんに魔物が居そうか聞いている。アベルも魔物の気配は感じないけど、気持ち悪がっていた。
キリギスさんも魔物の気配は感じないと言うので、取り敢えず少しだけ休憩を取ってボス部屋に挑む事にして、水と食べ物を摂る。横になったりはしないが、座っていられるだけでもありがたい。
「そろそろいいか?」
テツさんの声かけで、最後の休憩を終えてボス部屋に入る。
部屋の中は、かなり広い空間になっていた。先日見た五十層のボス部屋より天井が低い。これでボスがワイバーンなら逆に戦い易いかも、と思ったが。部屋の奥に見えるのはハイオーガより二倍くらい大きく見えるキングオーガだった。
キングオーガは悠々と巨大な大剣を手に、立ち構えている。聞いていた取り巻きがいないと思ったら。
「ヴォオーーーーーーーーーーー!」
部屋中を響かせる叫び声と共に、オーガとホフゴブリン六匹を呼び出した。
「行くぞ!」
「「「「おう!」」」」
僕たちは、それぞれの武器を手に気合を入れて。テツさんの声と共に奥へと進んだ。
「ガァー!」
「ハッ!」「セイッ!」「ハァッ!」
ザンッ! ザシュ!
「ガァ!」「ゴガァアーーー!」
ガァン!
キングオーガより先に取り巻きから倒して行く。そして最後のホフゴブリンになった所で、黒いモヤに変わらない程度に切り付けて動けないようにし、隅に蹴り飛ばして転がしておく。
これでキングオーガは追加の取り巻きを呼ばないはず!
キングオーガをロウが大楯で抑えながら、僕とテツさんが左右から牽制。アベルが背後に回り込み攻撃の隙を狙う。
「ヴォオーーーーーーーーーーー!」
再び大きな声で叫ぶキングオーガ。
「何故!?」
転がしていたホフゴブリンを見ると、黒いモヤが噴き出ていた。
「クソッ、弱らせ過ぎた?!」
再度呼び出されたオーガとホフゴブリンの群れ。
「焦るなアル! もう一度、同じ事をやるだけだ!」
そう思っていたけれど、今度はキングオーガも戦闘に参加してきた! 大きな大剣を振り回して、時には味方のホフゴブリンに当たっているが関係なしに戦闘に入ってくる!
「ロウさんとアルはそのままキングオーガの相手をして! オーガはアベルが倒せ! リザリスさんホフゴブリンを二匹行けますか?!」
呼びかけられたリザリスは、既に一匹目のホフゴブリンを黒いモヤに変えていて「任された!」と頼もしい返事をした。
「ガァン!!」
キングオーガからのプレッシャーが凄い! 大剣はロウが大楯で受けてくれているけれど、その衝撃はかなりのものだろう、一発受ける毎にロウの顔が苦しそうになっている。
キングオーガが剣を振り下ろしたタイミングで、僕が力を込めた剣を振る。腕に傷をつける事は出来たが、まだ光っていない剣ではキングオーガの腕を切り落とすまではならなかった。
「ウガァ!」
取り巻きのオーガと、ホフゴブリンが倒され。テツさんとアベルが戻って来た。リザリスは弱らせたホフゴブリンを抑えている。
「俺たちがボスを抑えておくから、アルは力を貯めておけ!」
テツさんが入ると、ロウの防御と合わさってキングオーガの動きがより制限され、アベルの攻撃が通りやすくなる。
「ハッ!」
スパッ!
「セィ!」
ザシュッ!
「グォオーーーー!」
キングオーガが叫んだ?!
ホフゴブリンは残っていたので、キングオーガの苦し紛れの叫び声だったのか。
一瞬の隙だった。入れ墨が現れ、剣も光ってイケる! と思った瞬間。
甲高いリザリスの悲鳴が耳に飛び込んできた!
リザリスの足に飛びついているホフゴブリン、リザリスが止めを刺すか迷っている間に、キングオーガの大剣がリザリスに向かって投げられていた。
「ガァッ!」
ドスッ!
聞きたく無い音と共に倒れ込むリザリス!
「リザリス!!!」
「アル! キングオーガが先だ!」
リザリスの方へ向く僕を、テツさんが叫んで止める。キリギスさんが直ぐにリザリスへと駆け寄っていたのを横目に見て、僕は怒りに任せてキングオーガに剣を叩きつけていた。
「ガァアアーー!!」
ザンッ!




