ダンジョンの暴走
「誰だ貴様は!!」
ロウさんが一番にジョーカーの前に出る、こう言う時の動きは流石に騎士だ。
「貴方はだあれ? ねぇドラコーンの坊や、お願いがあるんだけど」
ジョーカーはロウさんの威嚇に全く怯む事なく、私の元に歩いてきた。ロウさんは動けないでいるから、またジョーカーに動きを止められているのだろう。
「お前は……」
「私のこと覚えてる?」
シュットガルドのラージダンジョンで、六十層まで飛ばされて無理矢理アースドラゴンと戦わされたんだ、忘れる訳がない。
「ジョーカー」
「覚えてくれててありがとう。またいきなり現れてしまってごめんなさいね。どうしても貴方達に助けて欲しい事が出来ちゃって」
ジョーカーは、僕やリザリス。アベル、テツさんの前を進みながら話し、あの時のように指を鳴らした。
パチン!
一瞬の浮遊感の後に景色が変わる。
先程より広い空間。だけど、押しよせる圧力は先日の六十層以上に感じる。ふと見るとロウさんやキリギスさんの顔は青ざめ額に脂汗が浮いている。
「アル」
アベルとテツさんが、僕とリザリスを守るように横に並ぶ。
「ここは、貴方達がいたダンジョンの近くに出来た新しいダンジョンの一層よ」
何故か疲れた感じでジョーカーが話し始めた。
「本来スモールダンジョンとして産まれる筈だったんだけど、何故かダンジョンクリスタルが暴走を始めちゃって、異常事態になってしまったのよ」
「異常事態? そうなると、ダンジョンはどうなるんだ?」
「最初はダンジョンランクに合わない魔物の発生ね、ここはスモールダンジョンの予定だったから、十層以降の魔物、オーガやトロルが出てくるわ。そして時間と共に発生する階層が深まってキングオーガ、ワイバーン、アースドラゴン……」
「「!!!」」
「最初に入って来ていた人達がいたでしょう? その人達はホフゴブリンの群れにやられちゃってたわ。その後にきた貴方達に似た格好の人達はトロルだったから、その時で三十層位の魔物よね。今はもうちょっと深い所の魔物が出ていると思うけれど……」
入ってすぐの階層でそんな魔物が出てきたら、慌ててしまってマトモに対処できる訳がない。
「お前が、自分で対処は出来ないのか?」
ジョーカーは、先程よりも弱々しい態度で。
「この世に産まれてしまったダンジョンに対しては、私たちの力は通用しないの。私たちに出来るのは産まれる前のダンジョンに対してのみ、それと精々ダンジョン溢れを抑える程度よ」
「お前達がダンジョンを生み出しているのか?!」
「その辺は内緒……それより、貴方たちをこのダンジョンまで飛ばすのに力を使い過ぎてしまったの。それにダンジョン溢れを抑えるので精一杯なの、少し休ませて貰うから……お願い……このダンジョンの最下層に行って、ダンジョンクリスタルを壊して……ドラコーンの坊や、貴方の力とその剣なら出来るわ……おねが……い」
それだけ言うと、ジョーカーは消えてしまった。
「最下層か」
一緒に話を聞いていたアベルとテツさんも厳しい顔をしている。調査隊を探して冒険者達がダンジョンに入ったのは十日以上前だ、その時にトロルが出ていたという事は、今はもっと上位の魔物が出ているはず。
「スモールダンジョンと言っていたけれど、最下層が十層とも限らない。幸い荷物は全てマジックバックにある、準備はほとんど出来ていたから本番が早まっただけだと思えばいい」
「辺境伯は、戻らない僕たちを心配するだろうけどね」
「そこは、地上に連絡する方法がない以上仕方がない。無事に帰って顔を見せるまでだ」
「「「!!!!」」」
急激にダンジョン内の気温が下がり、黒いモヤが集まり始める。
「魔物が発生するぞ!」
テツさんがそう叫ぶと、黒いモヤが固まって魔物の姿を形作る。それが一体二体ではなく、見渡す限り無数に見える。
「グォー!」「ゴガァ」「グルルルルル」「ガウッ」
『出来るだけボス級の魔物は倒してちょうだい! 他は相手しなくても良いわ』
姿のないジョーカーの声が聞こえて来たが、ボス級だけと言っても何体いるんだ? ホフゴブリンの姿がチラホラ見える。既に十層クラスか!
ザシュ! シュパッ! ザン!
マップの無いダンジョンを階段を探しながら進むだけでも大変だと言うのに、これだけの数の魔物を相手しながらだと消耗も激しくなる。
「ハァッ ハァッ」
やっと二層に入り、付近の魔物を倒したタイミングだった。
『お疲れさま、このエリアをセーフエリアにしたから暫く休んでちょうだい』
また見えないジョーカーからの声が聞こえた。
「暫くとは、どのくらいだ?」
『……貴方達の時間で、五刻ほどね』
「五刻か、助かる」
他の皆もその場に座り込んでしまっていたが。
「食事にしよう、その後で交代で仮眠を取るんだ」
テツさんがそう提案し、食事の準備を始める。アベルも疲れていそうだったが、リザリスと一緒に動いて食事の準備をしてくれた。
少しして、出来上がった温かいスープを食べると急激に眠気が襲って来た。最初は交代して眠る予定だったが、ジョーカーがセーフエリアは絶対に安全だと言うので、テツさんも限界だったのか、その言葉を信じて皆眠ってしまった。
『皆起きてちょうだい、セーフエリアがそろそろ限界なの』
ジョーカーの声が聞こえて皆が慌てて起きる。本当にぐっすりと眠ってしまっていたが、おかげで疲れもだいぶ取れていた。戦いに備えて水を飲み、頭を覚ます。




