覚醒
「アルは私の側を離れるな」
私達はラージダンジョンの十層に移動したはずが、全く知らない場所へと飛ばされ戸惑っていた。かなり広いフロアで異常な圧力を感じる。アベルとテツが居ない事にもすぐには気が付かなかったほど。
「待たせたわね」
警戒していた筈なのに、目の前にいきなり人? が現れた。白と黒の道化師のような姿をした男。
「誰だキサマ!」
私は咄嗟にアルを庇うように前に出て、グレイブを構える。
「私はジョーカー。貴女には用は無いの、私が用があるのはそっちの子」
そう言って、その男。ジョーカーはアルに近寄ろうとした。
「近寄るな!」
アルを後ろに下げ、ジョーカーを止めようとグレイブを向ける。
「うるさいわね」
パチン!
「!?」
何だ?! 体が動かない! 声も出ない!
体を動かそうとするが、ピクリとも動いてくれない。悠々と私の前を素通りし、アルにゆっくりと近寄っていたジョーカーの顔がアルの目の前で止まる。
「あなた、ドラコーンの末裔だね?」
アルはジョーカーの目をキッと見据えてハッキリと答えた。
「そうだ。私はドラコーン王国、第二十三代国王の第一王子ガルバルド・アルス・ドラコーンだ」
「ほうほう、なるほどねえ……面白いねえ」
ジョーカーがアルから顔を離し、数歩下がる。
「あなた、今から全力で戦いなさい」
パチン!
ジョーカーが指を鳴らすと、黒いモヤが現れ。グルグルと丸く集まり固まる……。
「「!!」」
動けない体が震えている……。
アルは驚き固まったままだ。
「どうしたの? 手加減なんて不要だよ。全力を出さないとあなたも、あなたの横で固まっている女の方も食べられちゃうわよ」
ジョーカーの顔が、楽しそうに笑う。
目の前には、ほんの僅かな最上位の冒険者パーティしか辿り着いていないと言われる六十層……その六十層のボスと噂されていたアースドラゴンが現れていた。
「ヴルル……ゴゥッ、ガァアアアア!!」
低い体躯、と言ってもアルの頭の位置くらいに大きな顔と鋭い牙が見える口があり。その背中には岩石を纏い、岩石が無い部分にも硬そうな鱗と長い尻尾を持つ。四つ足で動き、その足にも鋭い爪。口からはストーンブレスを吐くと言われる最強のドラゴン種の魔物。
◀▶︎ ◀︎▶︎ ◀︎▶︎ ◀︎▶
血の気が引くようなアースドラゴンの咆哮に、思わず体が固くなる。
全力を出せと言われて……あの時の記憶が蘇る。全身が震え、冷たい汗が出る。
「これはオマケね」
パチン!
ザッ、ザザザッ! ドズッ! ドスッ! ドズッ!
ジョーカーと名乗る男が指を鳴らすと、僕の周りに無数の武器が現れ、ダンジョンの床に突き刺さった。
「幾らでも好きに使いなさい」
男がそう言ってリザリスの隣に並び、フワリと何かに腰掛けた姿勢で浮かんだ。
「さあ、見せてごらん。ドラコーンの末裔の血を」
「ゴガァアアアアアッ!」
再び、アースドラゴンが吠える!
・
・
・
ドガッ!
「ぅぐあ!」
思うように体が動かない、アースドラゴンの尻尾が振り回され跳ね飛ばされる。
動け! 動けよ僕の体!
何とか立ち上がり剣を振る。
ガンッ! ギィン!
アースドラゴンに剣を打ち込むけれど、その体躯に纏った岩石にはよほど硬い金属も混じっているのか、時には金属音が混じり、火花が飛び散る。岩石が無い部分を狙っても硬い鱗に弾かれ剣の刃が潰れる、すでに最初の剣は潰れ床に刺さった剣も何度も交換していた。
「その程度なのかしら?」
リザリスの隣で見ているジョーカーが呟く。リザリスも半ば諦めたような目で見ている。
「クソ!」
リズ姉! そんな顔で見ないで! そんな目をしないでよ! 僕は頭では分かっているつもりだけど、あの時の記憶が邪魔をして上手く力が出せない。新しい剣に持ち替えてアースドラゴンに向かった所で、振り回してきた尻尾に跳ね飛ばされる。
ドガアッ!
何度も床に叩き付けられ……血を流し、足もフラフラしながら立ち上がる。
動け! 動けよ!
体の底から湧き上がってくる力を感じるのに、昔の怖がっている記憶と入り混じる。リズ姉は、ずっと僕を見てくれていた、僕が立ち直ると信じてずっと待っていてくれたのに。弟の成人の義で、諦めてしまった僕の顔を見た時のリズ姉の姿を思い出す……。
「うぉおおおーーー!!」
悔しさの余り、湧き上がってくる力のままに剣を叩きつける! 僅かに鱗にキズが付く。勢いのまま、とにかく無茶苦茶に剣を振る!
「ガァアアアアー」
頭からの血が入ったのか、目の前が赤く染まって全てが真っ赤に見える。
「グガァアアアアーー!」
僕のものか、アースドラゴンのものか分からない咆哮が耳に届く。
ボロボロになった剣を捨て、床に刺さった新しい剣を掴む。
ドクンッ!!
掴んだ剣から僕の体に入り込む何か……体中を巡り、湧き上がっていた力を吸い取ると剣へと戻ってゆく。それまで無かった光で輝きだす剣。
僕は、その剣をしっかりと握ると。全力でアースドラゴンに叩き付けた!
「ハァッ!」
ザンッ!!
◀▶︎ ◀︎▶︎ ◀︎▶︎ ◀︎▶
「やっと出たね」
アルの力を吸って光輝く剣で倒されたアースドラゴン。その亡骸が黒いモヤへと変わるのをボンヤリと眺めていると……。
隣で戦いを眺めていたジョーカーが、椅子? から下り。力を使い果たした感じで床に座り崩れたアルの元に近寄る。
「この子の力は、初代ドラコーンの血統。薄れてしまっていたドラコーンの血が、隔世遺伝で濃く出てしまったのね。そのせいで力加減が分からずに、小さな頃は不自由を感じた事でしょう」
私も知っているあの事故は、そんな事から引き起こされたのか……。
「そうだ、私は弟にあんな事をするつもりは無かった、ちょっと握っただけだったんだ……」
アルが幼い時、弟王子が生まれた。アルも弟王子の誕生を喜んでいたのだが。アルが初めて弟王子と会った時、その小さな手でアルの指を掴まれた時は天にも登る気持ちだった。そして、アルがその手を握り返した時だ……。
「私は! 私は、そんなつもりじゃなかった!」
その事を目撃したのは、幸いにも身近な者ばかりだったのだが、それでも噂は広がり。
「弟殺し……」
実際には握った指が潰れただけで、すぐに白魔石で回復された。現在でも全く不自由なく生活しているのだが、王妃は弟王子にアルを二度と近寄らせる事は無かった。
「そう、不幸な事故だったのよ。隔世遺伝で授かったドラコーンの力が制御出来ずに起こった不幸な事故」
アルの体には、ドラコーンの血を表す赤い入れ墨が全身に現れていた。正に初代ドラコーンの肖像画そのままに。




