ドラコーン王国の旅3
「何と! ヴァルスガルド王国にはそのような御仁がいるのか!」
宝箱から出た金貨を元手に、ギルドで少し良いお店を聞いて晩ごはんを食べていたのだけれど。お酒を飲んだリザリスさんは僕たちの師匠の話を聞いて凄く興奮していた。
「豪斬のアスラ殿か……私も一度手合わせをして頂きたいものだ」
リザリスさんはウンウンと首を振り、がぶがぶとエールを飲んでいる。エールの飲み方はガングルさんにも負けていない、ドラゴニア族もお酒には強いと言っていたけれど相当だね。
「ゴドスさんもかなりの腕前ですよね?」
リザリスさんにゴドスさんの事を聞くと、渋い顔をしてジロリと睨まれた。
「ゴドス卿は、我が国の剣術指南役で騎士団の特別剣術顧問だ。そう簡単に手合わせなど頼める相手ではない」
「「へー」」
剣闘大会でのアスラさんとの決勝戦は凄かったものね。と漏らしたら、またリザリスさんから根掘り葉掘り聞かれた。リザリスさんは……うん剣術オタクだね。
最後は素手で殴り合っていたと言う話は、それはそれで頷いていたからアリなのかな?
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次の日、二日酔いで起き上がれないリザリスさんを置いて、僕たちとアルの三人でダンジョンに入る事にした。
リザリスさん……。
「リザリスさんはゆっくり休んでて、僕たちだけでも大丈夫だから」
リザリスさんは布団の中から腕だけ出して返事をしていたよ。
昨日と同じダンジョンに入る。昨日は後半ほとんどリザリスさんだけが魔物の相手をしていたから、今日はアルの腕前を見たいと思う。
「アルのレベルは二十二だったっけ?」
「そうだ……」
アルは、旅の途中までは楽しく話も出来ていたのだけど、ダンジョンに入ると途端に緊張するようになった。
アントやラビットまでなら特に問題なく倒している。いや、ちょっと力が入り過ぎている感じ? 魔物が弱すぎてちょっとよく分からない。
五層まで下りて、コボルトやゴブリンが出始めるとアルの緊張がさらに強くなる。
固くなりすぎて魔物の動きに付いていけない、剣を振るのも思い切りがないと言うか、何か怯えている感じがする。
何とかコボルトを倒し終えたアルに声を掛ける。
「ねえアル、剣を振るのは嫌い?」
聞かれて、アルの体がビクッとする。
「な、なんで?」
「何だか、剣を振るのを怖がっている気がするから」
「誰だって剣は怖いんじゃないか?」
うん、何か誤魔化してる。
「そうではなくて。アルは、剣を思い切り振るのを怖がっている? と言うか力を出すのを怖がっているのかな?」
アルの動きが止まった……。
「煩い、誰も僕の事なんか分かってないくせに、剣を振る? 簡単じゃないか!」
そう言ってアルは先に進み、見つけた魔物を次々と倒し出す。
「ほらっ!」
ザン!
「ほらっ!」
バシッ!
「ほらっ!」
バシャッ!
それは……剣で切っていると言うよりは、鈍器で殴りつけているような、とにかく力で全て押し通している感じで、刃筋や腕の振りなんて全然関係なかった。
立ち止まったアルが僕らを見る。
「ほら! 大丈夫だろ? 僕だってやれるんだ! どうだい見ただろう?」
アルの言葉は。僕らではなく、ここに居ない誰かに向けて言っているようだった。
興奮してしまったアルは。魔物を見つけると無茶苦茶に剣を振り回すので危なかしくて、とにかく落ち着かせて僕らはダンジョンを出た。
アルは何を怯えているのだろう? リザリスさんに聞いたら分かるかな……。
宿屋に戻ると、リザリスさんは食堂にいて食事を取っていた。アルはリザリスさんを見ようともせず、黙ったまま部屋へと入って行った。
僕らは部屋へと入らず、食堂にいるリザリスさんの前に座る。リザリスさんも何か察したのか手早く残りを食べ終わると、水を持って席に戻ってきた。
「何かあったのですか?」
そう聞いてきたリザリスさんに、僕らは今日のダンジョンでの出来事を話したんだ。
話を聞いたリザリスさんは、暫く黙っていたのだけれど。アルが入っていった部屋の方を見た後に、深く息を吐いてから話し始めた。
アルには四っ違いの弟がいるそうだ。アルが四歳の時に弟が生まれ、アルが初めて弟と会った時。ある事故が起こった。その事故はアルの心に深く残り、今もアルの心を傷つけているのだと言う。
そして、その事故からアルは力を使う事を怖がるようになり、以前のような明るさも無くなった。リザリスさんも幼い頃はアルと遊んだりしていたそうなのだが。事故の後は両親からもアルとの距離を置くように言われ、二人は接する機会も減り、今のような関係になってしまったと言う。
関係を戻すことは出来ないのかと聞くと、アルの気持ちもあるが、リザリスさんの家の関係もあり簡単ではないと言う。
「それに何より。いつまでも昔の事をウジウジと悩んで怖がっているアイツの事を、私が一番嫌っているのだ……」




