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【第一部完】皇帝の隠し子は精霊の愛し子~発覚した時にはすでに隣国で第二王子の妻となっていました~  作者: 黒木メイ
第二部『ゼフィール王国編』

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姉妹で語る『謎』と『初々しい恋愛模様』

『精霊に愛された国』ベッティオル皇国の皇城にある図書館には『精霊』にまつわる手記がそれほど多くはないが、確かに残っていた。

 そして、その文献のすべてを記憶しているステファニア。

 かつて、かの国で暮らしていた時にはただただ生き延びるために蓄えていた知識。それがまさかこのような形で役立つ日が来るとはと、彼女は穏やかに笑う。


「お姉様……」


 リタはぎゅっと眉根に力を入れた。油断したら視界が膜を張ったように滲んでしまいそうだ。

(私が泣くのは違う)

 ステファニアの辛さはすべて彼女のものだ。皇女として生まれ育った彼女の辛さをリタは理解できない。それと同時に、彼女もまたリタの辛さを理解はできないだろう。

 リタの内心の葛藤に気づいてか、ステファニアは努めて明るい声を上げた。


「リタが知りたいのは『精霊と国の特性』についてだったわね」

「はい!」とリタも無駄に明るく返した。


 ステファニアは顎に手を当て、記憶を探るように宙に視線をやる。


「うーん……残念ながら答えになるような内容が書かれた文献は残っていなかったわ」

「そっかあ」とリタは肩を落とす。

「でも、リタの説をさらに後押しするような情報ならあるわよ」

「え?!」

 リタの目が輝く。ステファニアは「とはいえ、大した情報でないかもしれないけれど……」とあまり期待してほしくはなさそうな声色で続ける。

「まず、リタの立てた仮説についてだけど……私が知る情報と照らし合わせても、ボナパルト王国と木の大精霊。フェルノラ王国と火の大精霊。テラロカ王国と土の大精霊。ポセイドニア王国と水の大精霊。国の特性と精霊の力が見事にマッチしていると思うわ」

「だよね」とリタも何度も頷く。


「残るはベッティオル皇国とゼフィール王国だけれど……リタの仮説があっているとして、過去の手記や文献、それに現代で知り得たことを合わせると二国と結びつく大精霊は光と闇、そして風と……金」

「金?」

 初めて知る『金の大精霊』の存在にリタは首を傾げる。ステファニアは「ええ」と頷き返した。

「ベッティオル皇国が過去最大に富を得た時代。その際、契約を結んでいたのが『金の大精霊』だったそうよ。……ゼフィール王国の特産物は宝石や金属類。ただ取りつくしてしまったのか、今あの国では残念ながら新しい鉱脈は見つかっていないようだけれど」

「へえ……」


(ゼフィール王国と金の大精霊が結びついた。てことは……ってあれ……みんながいない?)


 最初は皆いたはずだ。ステファニアには見えないように姿を消して。

 しかし、それでも本契約を結んだリタには姿が見えるはず……なのに室内には揺らぐ空気の気配すら残っていない。

(どうして?)

 と気になりつつも、リタは話をつづけた。


「ってことは、ベッティオル皇国は風と光と闇のどれかっていうことだよね?」

「そうね……。あ、でも待って、確か金の大精霊が姿を現さなくなってから風の大精霊が現れたから……もしかしたら風は今回の説からは省いてもいいかもしれないわ」

「ああ! そういえば、ヴェルデは他の大精霊たちと比べてまだ若い大精霊って言っていたような気がする! それって、金の大精霊と世代交代したからってことだったんだ……」

「その線が濃厚そうね」

「ね。ってことは、残りの光か闇?」

「うーん……でも、ベッティオル皇国にはこれといってそれらしい特性も特産品もないような気がするわ」

「そうなの? 『精霊に愛された国』って言われていたくらいなのに……」

「もしかしたら……すべての特性を均等に持っているからこそ、突出した属性がない……っていうことなのかもしれないわね」

「器用貧乏な土地ってこと?」

 リタの言葉にステファニアはくすりと笑う。

「だからこそ、ベッティオル皇国には複数の属性の大精霊が居つき、皇族と契約までしてくれたのかも」

「な、るほど……」


 皇族と大精霊がどういう経緯で契約を結んだのかをある程度知っているリタとしては土地柄が関係しているかは関係ない気もしたが、それを口に出すことはできない。それよりも気になるのは――どうにも納得しきれない違和感。

(ベッティオル皇国には本当に特性がないのかな? それに、なんで皆いきなり消えたんだろう)

 まるで、その話から逃げるように。


 リタが物思いにふけっていると、ステファニアが「さて」と手を叩いた。


「リタ、堅苦しい話はここまでにしましょう」

「お姉様?」


 にっこり微笑むステファニアを見て、嫌な予感を覚えた。


「リタとアルフレード殿下の結婚式はいつになるのかしら?」

「うひぇっ?!」


 予期していなかった質問に変な声が漏れた。

 ステファニアにじっと見つめられ、リタは「え~と」と視線を泳がせた。


「い、いつになるんだろうねえ……」辛うじて出た言葉は他人事のようなもの。

 ステファニアの眉間にぐっと力が入る。

「あら……式を挙げない、っていうことはないんでしょう?」

「それはまあ」

「そうよね。第二王子夫妻の結婚式は皆が楽しみにしている行事でしょうし。王太子の式はすでに挙げ終わっているのだから、その点を気にする必要もない。……けれど、リタは迷っているのね。その理由はなにかしら?」

「そ、それはっ……」とリタは顔を真っ赤にし、眉尻を下げていく。


 とても説明しづらい。リタとアルフレードはすでに書類上は夫婦となっている。一緒に暮らしているのだから事実上も夫婦だ。なのに、結婚式の準備に取り掛かっていない理由。それはリタにある。いや、ある意味アルフレードに……ともいえる。

 アルフレードが「式を挙げるのはリタの気持ちが固まってからにしよう」と言ったのだ。

 ちなみに、気持ちが固まったらというのは、アルフレードが以前リタにした「本物の夫婦になりたい」という告白に対しての返事だ。

 アルフレードの気持ちを受け入れるのか否か。それはリタの自由。リタの答えがどうであろうとアルフレードのリタへの気持ちは変わらない。

 と、かなり彼は譲歩してくれているのだが……恋愛初心者のリタにとっては迷宮入りの謎に出くわした気分だ。しかも、アルフレードがいくら待つと言ってくれはいても、彼の立場的にそれはどうなのだろうという常識はリタも持ち合わせている。なにより、返事はいつまでも待つと言ってくれはいるものの、アプローチはガンガンしてくるのだ。正直、心臓がもたない。


「お姉様はその……アレッサンドロお兄様のことをどう思っているの?」

「どう? とは?」


 ステファニアが瞬きを繰り返す。


「え、っとだからそのステファニアお姉様はその、アレッサンドロお兄様のこと好き? 二人はラ、ラブラブなの?!」


 勢いに任せて聞いたリタに、今度はステファニアの顔がリタと同じくらい真っ赤に染まった。まるで熟れたトマトのような姉妹がここに誕生する。


「ど、どうなのかしら……私としては仲良くやっているつもりだけれども……」

「そ、そうなんだ。で? お兄様のことが?」

「そ、それはっその……た、たいへん好ましく思っているといいますか。私には勿体ないくらいの人で、え、ええ。そ、それよりも、リタはどうなのかしら?」

「わ、私?!」

「ええ。それをわざわざ聞いてくるってことは、式を挙げない理由もなにか関係しているのでしょう?」

「そ……その、私、恋愛したことがないからそういうのがよくわからなくて……」

「つまり、アルフレード殿下への気持ちをはっきりさせてから式を挙げたいのね」

「う、うん。そういう感じ!」

「今更……とはいえ、そうよね。二人が婚姻を急いだのは理由があったものね」


 ステファニアは頬に手を当て、小首を傾げたままじっとリタを見つめる。


「ねえリタ。あなたたち……」

 ステファニアに真剣な顔で見つめられ、リタは「な、なに?」と問い返した。

「まさかとは思っていたけれど……()()なのね」

「まだ?」

 きょとん顔のリタの反応に、ステファニアは口に手を当てる。

「本当にまだだったなんて……アルフレード殿下ってば……それだけリタを大切にしているということかしら。あの様子からして、リタに気持ちがあるのは間違いないものね。そう考えると……とんでもない(理性が強い)方だわ。……もしかして、リタ。口づけもまだだったりするのかしら?」


 心底心配そうな目で見られ、リタは慌てて首を横に振った。

「それは一度だけ! アルに解毒剤を飲ませる時に……」

(その後、アルが意識を戻した時にそういう雰囲気になった気がするけど、結局しなかったから……)


 と考えていると、ふとステファニアが先ほど口にした『まだ』が何なのかを理解した。

 脳内で何かが沸騰したかのような感覚に陥る。

 アンナから習った時はただの知識としてしか頭に入ってこなかったが、今は違う。

 今のリタはアルフレードの唇の感触も、彼に抱きしめられた時の温度も知っている。その先を想像してしまったことも……ないとはいえない。


 リタの不審な様子を見て、ステファニアは何かを考えているようだった。

 しばらくして、口を開く。


「それならリタ、今度恋愛小説を貸してあげるわ。それを読めばリタも……いえ、本よりもオペラ鑑賞に行くのがいいかしら」

(お姉様とオペラ鑑賞!)

 リタの目が輝いた。理由はともあれ、大好きな姉とのお出かけは楽しみだ。

 王太子妃であるステファニアは多忙なため、普段は城以外で会えていない。彼女にとっても良い息抜きになるだろう。そう考えてリタは「ぜひ!」と言おうとした。その瞬間、コンコンと扉がノックされる。


「その話、乗った! 俺たちも一緒に行こう!」


 突然現れたアレッサンドロ。しっかり話は聞かれていたらしい。

(ア、アルも……いつからいたの?!)

 アレッサンドロの後ろにはアルフレードもいる。とはいえ、大柄なアレッサンドロに隠れていて、表情までは見えない。リタは急いで冷めきった紅茶に口をつけた。己の熱を冷まそうと必死だったのだ。


(……ん? 俺たちも一緒に行こうってオペラの話?!)


 冷静な頭で考えたらとんでもない提案をされたことに気づく。

 さすがに王太子夫妻と第二王子夫妻が揃ってのオペラ鑑賞に行くのは、現実的ではないだろう。お忍びで行ったとして、バレたら絶対街中が大変なことになる。

(いや……ブルーノが全面協力してくれるのなら可能?)


 なにより、ステファニアが乗り気だ。

「いいですわね。四人でオペラ鑑賞(デート!)」

「だろう!」

 王太子夫妻は和気あいあいと話している。あの様子を見るにもう確定事項のようだ。

 リタは苦笑しつつも、お似合いの二人をじっと見守っていた。


「リタ」

「アル」


 いつのまにか、アルフレードがリタの近くにいた。驚いて顔を上げる。彼の顔は微かに赤く、どこか気まずげだ。

「帰ろう。迎えにきた」

 リタは慌てて立ち上がる。そして、仲良し夫婦に挨拶をして、下城した。

 アルフレードのエスコートで帰っていくリタの背中を、ステファニアは夫とともに城の窓から見守っていた。


「どこからどう見ても……なのだけれどね。リタが鈍すぎるのか。それとも、アルフレード殿下が慎重すぎるのか。どちらかしら」

「まあまあ、いいじゃないか。俺たちは生暖かい目で見守っていてやろう。あいつらはあいつららしく仲を深めていけばいい。なに、あいつらはすでに夫婦なんだ。邪魔をするやつもいない。……いたとしてもアルフがなんとかするだろうし、リタも黙ってやられるやつじゃないしな」

「それはそう、なんですけれど……あまりにも初々しいといいますか、もどかしくて」

「まあ、それは仕方ない。アルフにとってはリタが初恋でおそらく最後の恋だ。であれば慎重になるのも致し方ない。それに、あれでも最近は頑張っているようだぞ?」

「そうなのですか?」

「ああ」

 なにかを思い出してにやけ顔のアレッサンドロ。しかし、すぐにステファニアに視線を戻して、彼女の腰を引き寄せた。

「それよりも、やっと時間が取れたんだ」

「え、ええ。お疲れ様」

「ステファニアも……」

 お疲れ様と言いながら、アレッサンドロはステファニアの顔を覗き込んだ。それに対し、ステファニアは目を閉じ、応える。忙しい二人は憩いの時間を存分に味わったのだった。

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