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【第一部完】皇帝の隠し子は精霊の愛し子~発覚した時にはすでに隣国で第二王子の妻となっていました~  作者: 黒木メイ
第一部『ベッティオル皇国編』

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リタは敵陣へ正面から乗り込み、怒りの鉄槌を下す

 皇城へとネロの力で戻ったリタたちは、正面突破を試みた。

 相手はリタをおびき寄せるため、森に火まで放ったのだ。ならば、その期待に真正面から応えてやろうと。

「ど、どうぞ中へ」

 リタを先頭に謁見の間に足を踏み入れる。皇帝は玉座に座しており、両脇には彼の臣下たちがそろってリタへ厳しい目を向けている。気にせず、リタは足を進める。やがて、人々はぎょっと目を見開いた。


 ずるずるずるずる、という音と微かなうめき声とともにリタは前進していく。

 引きずられている者たちが口を開こうとするたび、最後尾にいるアルフレードが天然の鞭(余った蔓で作ったもの)をふるう。そのたびに悲鳴なのか、歓喜なのかわからない声が上がる。異様な光景にアドルフォを始めとする皇帝側の連中は唖然としていた。


 アドルフォはアルフレードを見て、目を吊り上げた。


「どうして生きている!」


 その一言でリタは理解した。やはり、あの矢はリタたちを捕まえるつもりではなく、アルフレードを殺すつもりで用意されたものだったのだと。アルフレードがリタを庇おうとしてくれたのはわかるが、残念ながら彼の運動神経はよいとはいえない。リタの方がいいくらいだ。それなのに、すべての矢はアルフレードの背中のみに刺さっていた。

 逃亡者を捕まえる過程で起きた『不幸な事故』として、アルフレードの命を奪うつもりだったのだろう。


 リタは腰に手を当て、仁王立ちで告げる。

「どうしてって決まっているでしょ。私が治したのよ」

 続けてアルフレードも口を開く。

「おかげさまで、死の淵には一度たちましたが、こうして全快しました」


 アルフレードの笑みに見惚れる者多数。アドルフォは忌々しげに顔をしかめたが、なにも言わない。臣下たちの前だからだろう。代わりに、アルフレードからリタへと視線を変えた。


「さすがリタだ。ところでリタ。……やはり君が精霊の愛し子だったんだね」

「……何のこと」

「隠さずともいいじゃないか。君が人外の力を操っているのは明白。でなければ、説明がつかない。逃亡の際、いきなり私の前から消えたことも。本来数日かかる移動を瞬時にこなしたことも。君の異様な腕力も。ああ、もしかしたら君の薬師としての能力もその一端なのかな?」


 重症者だったとは思えないほど元気になっているアルフレードを一瞥し、アドルフォは笑みを深める。リタを見つめる目にはどろりとした執着の色が宿っている。リタがその視線から逃れるように顔を背けると、今度は臣下たちへ顔を向けた。


「皆もわかっただろう? 彼女は私の隣に立つにふさわしい人間だ。ボナパルト王国へやるなどありえない。彼女は皇国にこそ必要な存在。私は、皇国の繁栄のためにも彼女を皇后として迎え入れるつもりだ。異論はないな?」


 アドルフォの問いに応えるように、臣下たちは頭を下げる。そして、リタへと期待の目を向けた。だが、その視線を遮るように、アルフレードが前に立つ。


「聞き捨てなりませんね。ご存じのとおり、彼女は私の妻です。重婚は皇国でも禁止されているはずですが?」

「離縁すればいいだけの話だ。彼女は精霊の愛し子。本来、精霊の愛し子は『精霊に愛された国』のもの。分不相応だったと潔く認め、身を引くのが筋ではないかな? それとも、皇国を敵に回すつもりか?」

「その通りだ」とカレルを筆頭に臣下たちが声を上げる。それでもアルフレードは狼狽えない。


「皇国を敵に回すつもりはありませんが、そもそも精霊の愛し子をモノとして扱うことに納得しかねますね。もちろん、彼女が()()を望むのであれば一考するのもやぶさかではありませんが……」

 視線を向けられたリタは望むわけがないだろうと憤慨する。

「私はアルと離縁するつもりも、あなたと結婚するつもりも、ましてや皇国のために力をふるうつもりもありません!」

 アドルフォは「おや」と首を傾げ、嫌な笑みを浮かべる。

「まだ理解していないのかな?」

 リタはそれに対し、冷たい視線を返す。

「脅しですか? そんなの私には通じませんよ。このとおりね!」

 リタが右手を振り上げると、拘束された商人と黒装束たちがぶん!と宙に飛び、床にびたん!と落ちる。ぷっぴぃの力のおかげで今リタの筋力は常人以上になっている。

 小柄な美少女が大の大人、しかも数人を片手で振り回す光景に皆驚く。その中でもアドルフォは目を輝かせていた。

「素晴らしい! その力があればいろんなことができるぞ。たとえば……」

「いえ、あなたのために使うつもりは一ミリもありませんけど」

 リタがそう一刀両断すると、アドルフォは不満げに口を閉じる。

「私はただこの人たちを飼い主の元に送り届けにきただけです。ああ、それと責任をとってもらおうと思いまして」

「責任?」

「はい」

 アルフレードがリタの隣に立ち、告げる。

「アドルフォ皇帝陛下には今回の件だけではなく、今まで行った犯罪のすべての責任をとってもらいます」

 アドルフォは鼻で笑った。

「犯罪者はおまえたちだろう。私の命を、地位を狙う不届き者め。共犯者たちはすでに牢屋の中だ。これ以上お前らに何ができるというんだ。責任を取るのは私ではない、おまえたちだ。全員まとめて処刑してやる。……だが、リタがこの国のため、私のために働くというのなら命だけは許してやろう。さあ、どうするリタ?」

「……どうするもこうするも、答えは決まってる。絶対に嫌! っていうか、どの口が言ってるのよ。私たちが犯罪者なら、あんたこそ大犯罪者じゃない! 罪のない人々の命を奪い、親をも手にかけ、アルの命を狙い、私を捕まえるためだけにこいつらに森に火を放つよう指示したくせに!」


 こいつらともう一度蔓を引き寄せ、突き出す。が、アドルフォは首をひねった。

「何を言っている。私はそいつらなんか知らないぞ」

「はあ?」

「なっ。俺たちはその嬢ちゃんのいうとおり、命令に従っただけ、ぐあっ!」

 商人らしき人物が黒装束のものに体当たりをされ転がる。

 やれやれとアドルフォは首を振った。

「とんだ言いがかりだ。どうやら、その者たちも私の地位を脅かす連中のようだな。リタ。そいつらをこちらに寄越せ」

「……何をするつもりよ」

「決まっているだろう。不敬罪で処刑だ」

 青ざめる商人と黒装束。商人は喚くが、黒装束はあきらめたように目を閉じ、唇を嚙んでいる。


「本当に最低っ。そうやって今までも簡単に人の命を奪ってきたんでしょうね。いったい、人をなんだと思ってるのよ!」


 リタの言葉に臣下たちが動揺しているが、アドルフォの表情は変わらない。むしろ、余裕そうだ。


「私は何もしていないよ。それも、彼の入れ知恵か? それとも、ステファニア? ……もしそうなら、さすがに実の妹とはいえ、庇えないな」

 アドルフォが愉快そうに口角を上げる。

 ――こいつ! お姉様を人質に!

『リタ! 連れてきたわよ!』

 ネロの声が響くと同時に、後ろの扉が開かれる。


「お姉様!」

「リタ!」


 現れたのは捕らえられていた人々。リタはステファニアに駆け寄る。弱弱しい姿になっているが、幸い傷はないようだ。安堵するが、決していい扱いはされていなかったであろう姉を想って、リタの目に涙が込み上げてくる。


「ごめんなさいお姉様。逃げてしまって」

「いいえ。あなたが無事でよかった。……助けにきてくれてありがとうリタ」

「ううん」


 ぎゅっと抱き合う二人。そして、彼女らを見守るアレッサンドロと、ルミナス辺境伯夫妻をはじめとする人々。

 アドルフォの余裕が崩れる。

「ど、どうやってここに……」

「私が連れてきたのよ」

 アドルフォの前に現れた一匹の黒猫。

「ネコ? まさか……おまえが精霊?」

「ええ、そうよ」

「つまり、リタの命令か」

 アドルフォはチッと舌打ちをする。かなり苛立っているようだが、臣下たちの前ということもあってどうにか自分を律しようとしているらしい。

 しかし、リタはそんな余裕を与えようとはしなかった。


「アレッサンドロ王太子殿下」

 リタは預かっていたパズルボックスを彼に手渡す。

 アレッサンドロはアドルフォの前に立った。

「アドルフォ皇帝。これが何かわかるか?」

「……さあ、私には見当もつきませんが。このような場でいったいなにをしようと……」

「この中に、あなたが犯した罪の証拠が入っている」

「は? なにをいって」


 鼻で笑い飛ばそうとしたアドルフォを無視して、アレッサンドロが一つ一つ読み上げる。

 そのたびにアドルフォの、臣下たちの顔色が変わっていく。最後には皆信じられないという顔でアドルフォを見ていた。

 最後まで黙って聞いていたアドルフォは、本当は掴みかかってでもその証拠品を奪いたかったのだろう。けれど、それをネロが影縫いで止め、彼の声が誰にも届かないようにヴェルデが力を使っていた。


「大国を治める皇帝がこのような罪を犯すとはな。貴様には皇帝としての器がなかったようだ」

「なにを!」

「私には貴様の処遇を決める権限はない。それを承知で、ボナパルト王国の王太子として言わせてもらおう。貴様が治める国とは今後一切交流しない! もちろん、この内容は他国にも速やかに伝達する」

 臣下たちの青ざめた顔が真っ白になる。

「そ、その証拠品は全て偽物だ! だいたい他国の者がソレを持っていること自体おかしいだろう!」

「だ、そうだが?」

 と、アレッサンドロが振り向けば、その先にいるのはマルコ。マルコは震えながら一歩前に出る。

「そ、その証拠類を集めたのはぼ、僕です。ほ、本物かは見てもらったらわかると思います! そ、その中には僕がアドルフォから命令されて作った毒薬も入っています。偽物ならそんな自分の不利になるものは入れない!」

 普段は兄弟に隠れて言葉を発さないマルコの必死な訴えに、臣下たちは揺らぐ。アドルフォに向けられていた信用は、ガラガラと音を立てて崩れていく。その音を、アドルフォも感じ取った。


「ち、ちがうちがうちがうちがう! 私ではない私はなにもしてない」

 マルコの隣に、ステファニアが立つ。

「そう、それがアドルフォ兄様の常とう手段でしょう? 命令をするだけで自分はなにもしない。なにもせず、人の命を奪っていく。罪悪感もなく母に、私に、毒を盛り、父をも殺した。自分に不要な人間はなおのこと。そして、その地位を手に入れてなお、貪欲にボナパルト王国の第二王子の命を奪おうとし、リタを手に入れようとした。アレッサンドロも言ったけれど、誰よりも人の命を軽んじる兄様は皇帝の器ではない」

「うっうるさい! おまえらになにがわかるというんだ、おまえらに私のなにがっ」


 リタは限界だった。これ以上聞いていられないと、アドルフォの前に立つ。アルフレードは止めようとしたが、彼の四肢をネロが拘束をするのを見てやめる。


「リ、リタ。君ならわかってくれるだろう」


 期待を込めた目を向けられ、リタのこめかみがピクリと動く。


「わかる……わけないだろうがああああっ!」

 拳を振りかぶり、思いっきりアドルフォの頬を殴った。

 誰かに殴られたことなどないアドルフォは茫然とリタを見る。


「甘ったれんじゃないわよ! あんたこそ、人の気持ちに寄り添ったことなんて一度もないでしょうが!  さっきから自分のことばっかり。お姉様がどんな気持ちで今まで生きてきたのか!」


 そう言ってもう一度殴る。


「アルに勝てるところがないからって殺そうとするなんて、器がちっさすぎる!」


 さらに一発。


「それに聞いたわよ! ステファニアお姉様の命を人質に、マルコ皇子に毒薬を作らせていたんですって!」

 これはおまけの情報と、家臣たちに聞かせるように一発殴る。


「しまいには、私をおびき寄せるためだけに森に火を放つし、人妻(腹違いの妹)の私に手を出そうとするしで……気持ち悪いんだよこの変態がっ!」


 最後にアドルフォの股間を力の限り蹴り上げようとして、アルフレードに後ろから抱きしめられ、強制的に止められた。

 リタの足は空を切る。しかし、アドルフォはその衝撃を覚悟していたようで、すでに意識を失っていた。


 リタは舌打ちをした後、自分を落ち着かせるためふーっと息を吐いた。

 怯えた様子で身を寄せる臣下をじろっと見やる。


「あんたたち。こんな男をまだ皇帝にしておく気?」


 皆ぶんぶんと横に首を振る。


「あ、そう。じゃあ、次の皇帝は誰にするの?」

「それは……もちろん、愛し子であるリタ様が」

「絶対いや」

「で、ですが、愛し子が皇帝になるのがしきたりで」

「そんなの昔の偉い人が勝手に作ったきまりでしょ」

「リタ」

 ぷっぴぃがトコトコとリタに近づく。皆突然現れたマイクロブタに釘付けだ。

「なにぷっぴぃ?」

「なんなら、リタが愛し子っていう記憶だけ、こいつらから消そうか?」

「え? そんなことできるの?」

「もちろん! なんていったってアタシは偉大な光の大精霊ぷっぴぃ様なんだから」


 ドヤ顔のぷっぴぃ。


「うーん……なら、お願いしてもいい?」

「もちろん!」

 そう言うやいなやぷっぴぃは掻き消えた。代わりに、朝の光のような白いドレスを身にまとった美少女が現れる。美少女は空に浮いており、その体を金色の光が覆っている。

「も、もしかしてぷっぴぃ?」

「そうだよ! さすがにこの人数の精神をいじるのは本来の姿じゃないとダメだからね」

 ぷっぴぃの姿はリタ以外には見えないようで、空中に話しかけているリタに周りは戸惑っている。


「じゃあ、いくよ!」


 眩しい光にリタは目を閉じた。光が消えた時にはこの場にいるほとんどの人の中から、リタが愛し子である記憶は消し飛んでいた。この場でその記憶が残っているのはリタが大切だと思う人たちのみ。


 アドルフォは捕まった。彼の犯罪に手を貸していた者たちや……マルコも。


 だが、問題はまだ残っている

 トップを失った者たちが次は誰を皇帝にするべきかと頭を寄せ合い話し合っている。ステファニアを女帝とする案や、とりあえず公爵家から代理を立て、ステファニアの子供を次の皇帝とする案など様々だ。


 皆が期待をこめてステファニアを見やる。彼女は心得ていたかのように笑みを浮かべた。


「私に心当たりがあります」


 その言葉と同時に、激しい足音が謁見の間の外から聞こえてくる。開いた扉から駆け込んできたのは武双した男女。


「ステファニア無事か?!」


 いつでも戦闘態勢に入れるような顔つきのクラウディオとヴィオレッタ。


「私は彼らを次の皇帝と皇后に推薦します」


 ステファニアはそう言って二人を示した。クラウディオは「は?」となり、ヴィオレッタは親から聞いていたのか、すぐさま姿勢を正した。

 動揺する者たちにステファニアは説明する。


「クラウディオお兄様への評価は私も知っております。その全てが誤っているとは思いませんが、お兄様には十分皇帝となる素質があると、私は思っております。ただし、条件付きで。その条件というのが、ヴィオレッタ様を皇后とすること。彼女はお兄様を制することができる唯一の方。そして、お兄様の弱点をカバーできるだけの学もおありです。彼女の支えがあればお兄様は良い皇帝となるでしょう。皆さま、いかがでしょう?」


 すでにルミナス辺境伯やヴィオレッタはそのつもりだと言わんばかりに、クラウディオの横に並ぶ。臣下たちは思わず顔を見合わせた。

 クラウディオが皇太子争いから早々に脱落したのは、一つは『精霊の儀』に失敗したこと。もう一つは、気性の粗さと短絡的思考。だが、それはルミナス辺境伯の娘ヴィオレッタがカバーしてくれるという。彼女はアドルフォの皇后候補になり得た女性だが、辺境を守る騎士でありたいという本人の意思により辞退していた。今回は本人も辺境伯もその意思がある。しかも、見る限り二人はすでにいい仲の模様。世継ぎの心配もない。であれば、答えは一つだと皆頷き合った。


 理解していないのはクラウディオただ一人。

「え? え? お、俺とヴィオレッタが結婚?」

 気になるのはそこかとリタはツッコミたかったが、それはヴィオレッタの役目。

「ええそうよ。なに、嫌なの?」

「い、いや。だ、だが、おまえはそれでいいのか? 騎士として辺境を守りたいと言っていたじゃないか」

「おまえ?」

「ヴ、ヴィオレッタ」

「ええ。でも、気が変わったの。私はルミナスの民だけではなく、この国を守りたい。クラウディオとともにね。……クラウディオの方こそどうなの? 私が妻となるのは嫌?」

「嫌なものか!」

「そう、なら決定ね。私たち、良き皇帝、皇后になりましょうね」

「ふふ」とほほ笑んだヴィオレッタにクラウディオが顔を真っ赤にして「ああ」と頷く。

 その素直な反応に臣下たちは目を見開き、思わず「おおおお」と拍手していた。


 一件落着した翌日。リタたちは早々に帰国することとなった。

 ステファニアは残ってクラウディオの手伝いをするつもりだったのだが、それを彼は却下した。

「もうおまえは他国の人間なのだからその必要はない。……落ち着いたらまた連絡する」

 とクラウディオはそう言った。

 アドルフォにも以前似たようなことを言われたが、その言葉に含まれた温度感は全く違った。

 ステファニアに身内が実刑を受ける様を見せたくない。関わらせたくもないという彼の気持ちはステファニアにも伝わった。


 ただ、兄たちにどのような裁きが下されるかだけは内々に教えてくれた。

 アドルフォは後日公開処刑され、マルコは生涯離宮に幽閉される。

 ただし、マルコの生活自体は今までとさほど変わらない。離宮内で薬草を育て、薬の研究をする。今度は人のために、罪を償うために働くのだ。

 それを聞いたステファニアは憂いもなく国を出る気になれた。


「ここが?」

「ええ。ここがお父様の墓よ」


 リタとステファニアは並んでダニエーレの墓を見つめる。先に口を開いたのはリタ。すうっと息を吸い込むと一気にまくしたてる。


「このクソ野郎! お母さんを幸せにする甲斐性がないなら手を出すな! それと、お姉様に聞いたわよ。私が生きてるって知って罪滅ぼしをしようとしたんですって?! いらないわよ! ただの自己満足にお姉様を巻き込むな!」


 次いで、ステファニアもリタの真似をするように口を開く。

「お父様! あなたは父親としても一人の人間としても最低な人です。皇帝としては尊敬できるところもあると思っていましたが、最後の最後で国民をも見捨てたあなたには幻滅しました! ですが! お父様のおかげでこうしてリタと出会えたことだけは感謝しています」


 そう言い切ったステファニアの目からは涙がこぼれる。リタは咄嗟に抱き付いた。ステファニアもリタを抱きしめ返す。


 姉妹の絆を深める二人を離れたところで見守る夫たち。

「なあ、アルフ」

「ん?」

「妻は怒らせないように気を付けような」

「ああ」

 彼らの小さなつぶやきは、彼女たちには届かず消えた。

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