17.フローラの聖女力
フローラはぐっと息を呑み込み、それから意を決して口を開いた。
「私、すぐいらないこと考えるしっ、人の気持ちを逆なでするってよく言われるし……っ、ぶきっちょで、何やっても満足にできなくて……!」
「なにをおっしゃって――」
「私、駄目な人間だからっ」
フローラだから言っているということは、つまり、フローラ以外の人には言わない、ということだ。
たとえばレオンハルトも、『気になる人』にはこんなことは言わないだろう。
だって、言う必要なんかないから。普通の人は、フローラみたいに失敗などしないのだ。
「ちゃんとできないから……、レオンハルト様の『気になる人』みたいにちゃんとした人じゃないから、私……!」
せっかくうまくいっていると思ったノミの市も、結局こんなことになってしまった。
力の使い方を間違えて、人々の暴動を招き、こうしてレオンハルトに迷惑をかけている。
こんなんじゃ、レオンハルトの『気になる人』になんて勝てっこない。――勝ち負け以前の問題だ。
結局、自分は何をやっても失敗するようにできているのだ。
「私、駄目なんです。レオンハルト様の『気になる人』みたいなちゃんとした人にはなれないです、ごめんなさい」
ハッと驚いた顔をして、レオンハルトが椅子から立ち上がった。
「それは違う、フローラ様」
そして、こちらに近づいてくる。
「俺が言いたいのはそういうことじゃない、あなたは駄目じゃない。あなたを責めたいわけじゃないんです。ただ力があるのだから、それをちゃんと自覚してもらいたいだけで――」
フローラは、思わず立ち上がった。
もうこれ以上、レオンハルトの言葉を聞ける状態ではなかった。
「ごめんなさい、もうしません。もう二度とノミの市にも出ないし、アクセサリーも作りません。それじゃっ!」
「ちょっ、フローラ様!」
レオンハルトの呼び止める声が聞こえたが、フローラは無視して幕屋から飛び出した。
レオンハルトが追ってくるのが目の端で見え、フローラは小さく呟いた。
『来ないで』
ふわり、と清浄な白い光の香りがした。
「がッ……!?」
レオンハルトのうめき声が聞こえた。振り返ると、彼は幕屋を出たところで動きを止めていた。まるで何かで体中を縛られているように、目だけがフローラを追っている。
「フ……、なにを……!!」
きっと、女神ヴァルシアがレオンハルトの動きを止めてくれたのだろう。
(ありがとうございます、ヴァルシア様)
フローラはヴァルシアに感謝し、レオンハルトには答えることもなく、そのまま駆け出してノミの市の雑踏に紛れ込んだ。
涙で視界が歪むなか、とにかく売り場に戻る。
そうして戻った売り場には、もう誰もいなかった。それどころか並べてあったはずの商品もなくなっていたし、つり銭専用に用意していた小銭もなかった。
その様子が惨めで仕方なくて、仮面のなかでじんわりと涙が溢れてくる。
フローラは仮面をずらして涙を拭うと、意を決して売り場の片付けをした。
もう売るものもないし、誰もいないし。今日は撤収だ。
そしてもう、ここには二度と来ないだろう。
余計なことは、もうしない。
これからは、聖女としての勤めを果たすだけの日々を送ろう。――それが、失敗のない、他人に迷惑をかけない、唯一の生き方だ。
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