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14.騒動になっていく

「よかったですね」


 フローラはにっこり笑う。女性の努力が報われて、本当に良かった。


「魔女さんのおかげよ、やりきれたのは」


「そんな、お姉さんの努力の成果ですよ」


「うんまあ、そうなんだけどね」


 女性ははにかみながら、首にかけたチェーンを服の中から引っ張り出した。


「これのおかげもあると思ってるわ」


 そう言って、女性が取り出したのは……この前フローラが売ってあげたペンダントである。


「ほら見て、これ。光が消えちゃったの」


「光が……」


「願いを叶えたから消えたんだと思うの。これってそういうお守りだったんでしょ?」


「いえ、そういうことでは……」


 不思議なことに、試験に合格した女性もまた、願い事が叶ったからアクセサリーの光が消えた――と思っている。


「試験勉強で根詰めてね、どんなに勉強しても不安で不安でたまらなかったの。そしたら優しい声が確かに聞こえたのよ、『あなたは十分頑張っている、自分を信じて、ちょっとでいいから休憩しましょう』って。誰かは名乗らなかったけど、私ピンと来たわ。この声は、ヴァルシア様だってね」


「やっぱりそうよね!」


 ソフィアが目を輝かせて女性に聞く。


「ヴァルシア様の声が聞こえて、光が消えたって、私たちと同じじゃない! つまりこのお守りの効果よ!」


「そんな効果、ありません……」


 フローラはそんなつもりで水晶を光らせたのではない。これは、ただのアクセサリーなのだ。


「その話、俺も混ぜてくれよ」


 と話に入ってきた男性がいた。

 男性はフローラに近づいてくると、フローラの手をとって包み込む。

 その目は、潤んでいた。


「……ありがとうな、魔女さん。女房がよ、無事にガキをひり出してよ……」


「あ」


 奥さんが妊娠していて苦しそうだから、とブレスレットを買っていってくれた男性だ。


「それがよ、ガキが二人も出て来てさ」


「……え、双子、ですか?」


「ああ。苦しかっただろうなぁ……」


「それは……おめでとうございます」


 フローラは心からの祝福を述べる。


「ありがとうな。女房が頑張ってくれたおかげだけどよ、魔女さんのブレスレットのおかげもあると思ってるぜ」


「……いえ、そんな……」


「俺の女房がさ、ヴァルシア様の声を聞いたっていうんだ」


「え……」


「大丈夫、あなたのお産を見守っていますよ……って」


 と、男性はポケットからブレスレットを取り出した。


「それで、お産が終わってほっと一息ついてたらよ、女房のブレスレットの光が消えてるのに気づいてよ」


「あ……」


 本当だ、ブレスレットの水晶の光が消えている。

 ……3人が、3人とも。ヴァルシア様の声を聞き、願いが叶い、水晶の光が消えている……。


「こんなことって……?」


 ここまで来てもフローラは、まだ信じられなかった。いや、現象としては分かるのだ、だがそれを自分が作ったことが信じられない。

 自分はただ、ビーズアクセサリーを作って、小さくて質の悪い水晶をヴァルシア様に祈って光らせただけなのに。


「あんたのおかげだよ。本当にありがとうな!」


 男性は感極まったようにくしゃっと笑う。


「このご恩は一生忘れないぜ!」


「……ありがとうございます」


 なんと返したらいいか分からず、フローラはもごもごとそんなことを言った。


「それでさ、これを直してほしいんだわ」


「え?」


 男性は、そっとブレスレットをフローラの手に握らせる。


「また光らせてくれよ。そしたらまた願いが叶うんだろ?」


「あ、それ私が一番だからね!」


 ソフィアが自分のブレスレットを慌てて外し、フローラに渡してくる。


「私の方が先に魔女さんの所に来たんだから」


「僕もお願いします」


 とランディもブレスレットを外しながら言う。


「じゃあ私は3番目ね、魔女さん」


 試験に合格した女性が首の後ろに手を回してペンダントを取りながら言った。


「なんだよなんだよ、俺が一番最初に言い出したんだろうがよ……」


 なんて言い合っているそこに、わらわらと人が押し寄せてくる。


「魔女さん、魔女さんのおかげで恋人ができたわ!」


「え……?」


「ずっと片思いしてた人と恋人になれたの! 『彼もあなたのことをずっと見ていますよ、思い切って告白してみたら?』って、すごく優しい女の人の声が聞こえて、それで告白してみたら成功して! このあいだここで買ったブレスレットのお陰だと思うのよね、だって願いが叶ったら光が消えたんですもの」


「魔女さん、美味しいタダ飯にありつけたんだよ! 腹減らして歩いてたらさ、すごく落ち込んでる奴がいてよ。黙って通り過ぎようとしたら、『彼を励ましてあげてみては?』って声が聞こえてきてさ。それで励ましたらそいつすごく喜んでくれて、しかもそいつなんと高級レストランのオーナーでよ! ステーキ食べ放題だったぜ! で、気がついたらブローチの光が消えてたってワケ。やっぱ関係あるよな?」


「魔女さん、お義理母様がね、私の料理を初めて褒めてくれたの! 『鍋で作る時は薄味にしておいて、テーブルで塩味を各人で調整するようにしてみては?』って声が聞こえてその通りにしたらうまくいったのよ! ていうかそんな簡単なことになんで今まで気がつかなかったのかしらね、私」


 ――来るわ、来るわ。


 次々と『声が聞こえた』『願いが叶った』『いいことが起きた』『そして光が消えた』と報告をしに人々が押し寄せてくる。


「え、え、え……」


 戸惑うフローラなどお構いなしに。彼らはブレスレットやペンダントをフローラに押しつけようとする。


「願いが叶ったら光が消えちゃった、だから光らせて!」


 と……。

 更に、そんな騒動を見ていた野次馬たちまで集まってきた。


「願いを叶えるお守りだってよ!」


「本物らしいぜ!」


「え、違……、私、そんなもの作ってな――」


「早いもの勝ちだ!」


 誰も彼もが目の色を変え、フローラに詰め寄ってくる……。





お読みいただきありがとうございます。

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