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12.『気になる人』がいる?

 レオンハルトは笑顔で続ける。


「フローラ様も年頃の女性ですし、そういった憧れがあるのかと……」


 だがすぐ、レオンハルトが顔色を変えて頭を下げた。


「すみません、出過ぎたことを言いました」


「え?」


「聖女様は……結婚は禁止されていらっしゃるのですよね」


「あ、ええ」


 フローラは頷く。


「女神ヴァルシア様に選出されて大神殿に所属したのち三年は聖女専任期間として大神殿に所属することになっています。その間は恋愛も結婚も禁止となっています。三年経ったらその次の三年も聖女を続けるかどうか自分で決めて、改めて大神殿と契約をすることになっています」


 ペラペラと流れるようにシステムを解説すれば、レオンハルトは気まずそうな顔で頷いた。


「そうですよね、すみません」


「?」


 何故謝られるのか、よく分からない。もしかして『自由がない』とでも思われたのだろうか。

 でもフローラは、その契約内容を自分には関係のないことだと捉えていた。だいたい、自分が誰かを好きになったり、結婚したりするところなんて想像できない。そんな未来が、少なくとも3年以内に来ることはないだろう。


「あの、私、それについては納得してますので……」


「そうですか、まあ、ご本人がいいなら、それでいいんでしょうね」


「あ、でも、確かに羨ましいとは思います」


 フローラは正直に言う。

 あのカップルの悩みは真剣だったし、真剣だからこそ、こうしてオットーさんも彼らに向き合ってくれたのだ。

 そこまで真剣に向き合える人生があるって、素晴らしいことだと思う。


「そういうの……、なんていうか、いいなって思います。特に結婚なんて、相手あってのものですし。ちゃんと人生を謳歌してるんだなぁって」


「そうですね……」


 どこかホッとしたようにレオンハルトは頷く。


「レオンハルト様は、そういうご予定はないのですか?」


 何の気もなしに話題の一つとして思いついたことを聞けば、レオンハルトはつと視線を逸らし、また窓の外に目をやる。


 ――妙な空白の間が、馬車内に降りた。

 レオンハルトは黙っている。


(……え?)


 フローラはサーッと血の気が引くのを感じた。


(これって、聞いたらいけないことだったの!? 私、やっちゃった!?)


 他人に結婚の予定があるかどうか聞くのは、してはいけないことだったのか。そんなことも知らなかった、世間知らずな自分が恥ずかしい。


 だがレオンハルトだって同じようなことをフローラに聞いたではないか……なんで他人に聞くのはよくて自分が聞かれるのは駄目なんだ。


 いや、こういうのは聞き方の問題なのかもしれない。つまり、レオンハルトは喋るのがうまいから普通に聞けるが、自分は喋るのが下手だから聞いたら変な空気になるのだ。思えば、そういうことは今までにも何回もあった……。ということは、きっと今回もそうなのだ。


「……俺は」


 やっとレオンハルトが口を開いたとき、フローラは無言だがドキドキがピークで、冷や汗をかいていた。


「気になる人はいるんですが、その人は……俺なんかには高嶺の花でして。でも年季があけたら、その時にはチャンスがあるかな、と思っております」


「そうなんですか!」


 つい語尾が強くなってしまい、フローラは心を落ち着かせながら言葉を続ける。


「その人の心があなたに向くよう、私もお祈りしております」


 機械的に答えてから、フローラははっとする。


 え? レオンハルト、気になる人がいるって言わなかったか?


 レオンハルトは薄く微笑むと、


「ありがとうございます、フローラ様」


 と会釈した。


 ――レオンハルトの心には、そういう人がいる。


 一体誰なんだろう? レオンハルトからして高嶺の花ということは、どこかの貴族のお嬢様だろうか。

 考えてみれば、フローラはレオンハルトの交友関係のことはまったく知らない。レオンハルトとの付き合いは、護衛してもらったり、こうして大神殿への送り迎えをしてもらったりするくらいだから。


 ていうか、まだレオンハルトの片思いなのだから、それならフローラにも可能性はある……とそこまで考えて、フローラははたとした。

 なんだ、可能性って。別に、レオンハルトが誰のことが好きだろうと関係ないではないか。


 ……ごほん。

 レオンハルトが少し顔を赤らめて咳払いした。


「……すみません、俺の話ばかりして。フローラ様のお話はなんですか?」


「え?」


「先ほどなにか言いかけていらっしゃったので……」


「ああ」


 そういえば、そうだった。

 自分が魔女ローゼだと、彼に打ち明けようと思っていたのだった。


 だが、もうそれも遠い過去のような気分になっていた。

 だって、レオンハルトは片思い中の人がいて、それはフローラの知らない誰かなのだから……。


「もういいんです」


「ですが」


「いえ、本当に。なんかもう、そういう感じじゃないので」


 フローラは言うと、窓の外に視線をやる。馬車はそろそろ大神殿に着く頃合いであった。


「そうですか……」


 レオンハルトの呟きが、轍の音に染みていく。


 フローラはそわそわドキドキする心を落ち着かせようと、深呼吸した。


 ああ、アクセサリーが作りたい。

 この前のノミの市の帰りに、勢いで次のノミの市の参加も申し込んできたのだ。だから、次のノミの市で売るアクセサリーを作らなくちゃいけないのだ。


 落ち着くためにも、アクセサリーを作ろう。いっぱい作ろう。

 早く夜にならないかなぁ……。




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