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11.ジャラジャラカップルのその後

 それから一週間ほど経ったある日の午後のこと。

 今日は街の大聖堂で祈祷をした。その帰りに、いつも通り聖女騎士団に馬車で大神殿まで送ってもらっているのだが……。


 フローラは、向かいの席に座ったレオンハルトの顔を盗み見た。

 渋い青い瞳は、今窓の外を見つめている。なんとなく眺めているというよりは、流れていく景色に注意を向けているような、そんな視線だ。

 その緊張感を持った横顔が、どうしようもなく格好いい。


 あのノミの市から一週間が経過しようとしていたが、レオンハルトの様子はノミの市以前と変わらないものだった。


 魔女ローゼの正体に気づいているようなそぶりを見せることもなく、ノミの市にこんな魔女がいた――というような話題すら出してくることもなく。


 ノミの市で、少し距離が縮まったような気がしたのに……、ローゼからフローラに戻ってしまったらこれである。こうして馬車に二人きりで乗り合わせている時でも特に何か話しかけてくることもない。それが、少し寂しい。


 フローラなど、ふと気がついたらレオンハルトのことを考えているというのに。


(……いっそのこと、レオンハルト様には言っちゃおうかな)


 ローゼはフローラなのだ、と。

 と、レオンハルトの視線がこちらを向いた。


「……俺の顔に、何かついてますか?」


「あ」


 見ていることがバレてしまった。恥ずかしい。


「ごめんなさい、なんでもないです」


 フローラは赤くなって、慌てて俯いた。

 それからまた馬車内は轍の音しかしなくなる。


 ……ローゼがフローラだということを告白するのは、悪い案じゃないような気がした。だって、レオンハルトと二人っきりの秘密が持てるのだ。


 きっと、ローゼとしてノミの市に出たことを、レオンハルトは怒らない……と、思う。だって、ノミの市では褒めてくれたではないか、『人は見かけによらないものだ。見直した』と。


 フローラは意を決して口を開いた。


「あの」

「フローラ様」


 レオンハルトの声と、フローラの声が見事に重なる。


「あっ、すみません」


 フローラは恐縮して縮こまった。


「こちらこそすみません、お先にどうぞ」


 そんなことを言われても、先に話していいのか悪いのか……。

 しばらく押し黙っていたら、レオンハルトが口を開いた。


「……フローラ様は、結婚式は取り扱っていらっしゃいますか?」


「へ?」


 間抜けな声が出た。


「け、結婚式……?」


「ええ、そうです」


 頷くレオンハルトに、フローラは目を瞬かせる。


「えっと……レオンハルト様、ご結婚なさるのですか……?」


「いえ、俺ではありません。知人の結婚式があって……、できたら聖女様に祝福していただけたら、と。俺の伝手を頼ってきたんです」


「そうですか」


 フローラはほっと胸をなで下ろした。

 よかった、レオンハルトじゃない。……いや、レオンハルトが結婚するのだとしても、別に構わないはずだが……。


「結婚式のご依頼でしたら、大神殿のほうに申し込んでいただけましたらいたしますよ」


「そうか……、そうですよね、やっぱり。聖女様に直接依頼することはできませんよね……」


「私は大神殿の所属ですから。あ、でもその知人の方のお名前を教えていただけましたら、私が紹介状を書きます」


「それは助かります。……聖女様に依頼してきたのは、オットー・クライスです」


「オットー・クライス……、オットーさん?」


 その名には聞き覚えがあった。ノミの市でアクセサリーを売った『オットーさんのお嬢さん』の、パパさんだ。


「あの、もしかして、ですが。もしかしてそのオットーさんて、ノヴァリスの商売とか賭場を取り仕切ってる方ですか?」


「ええ、そうです。ご存じでしたか」


 ……どうやら、あの『オットーさんのお嬢さん』のパパさんのようである。そのパパさんが結婚式の祝福の依頼をしてきた、ということは……。


「え、じゃあ……!」


 フローラは思わず立ち上がりそうになるが、馬車のなかなのでそれは踏みとどまる。


「オットーさんのお嬢さん、ご結婚なさるのですか!」


「ああ、ソフィアさんのこともご存じでしたか」


 ソフィア。あのお嬢さん、名前はソフィアというのか。

 レオンハルトは穏やかに頷いた。


「オットーのやつ、ずいぶん結婚を反対していたんですがね……、なんの気まぐれか、とうとうランディのことを認めたんです。認めたからには娘たちにできる限りのことはしてやりたいと、聖女様に祝福をしていただきたい、と……」


 ランディ、というのはあの彼氏のことだろう。


「すごい、すごい! 気まぐれじゃないですよ、あの二人がちゃんとオットーさんに自分たちの気持ちを伝えたからオットーさんも分かってくれたんですよ」


 フローラは心の底から嬉しかった。あのカップルが夢を叶えたのだ。ランディなど、一時はほとんど諦めていたのに。


「よかったぁ……。あ! もちろん紹介状書きます!」


「ありがとうございます、オットーも喜ぶでしょう」


 やったぁ、やったぁ! と満面の笑顔でいたら、レオンハルトがクスッと笑った。


「……まるで自分のことみたいに喜ぶんですね、フローラ様」


「そうですね」


 フローラははにかむ。……レオンハルトに、ソフィア&ランディカップルとの馴れ初めを説明するためには、まず自分がローゼであることを明かさなくてはならない。


「あの、私……」


「フローラ様、結婚式がお好きなんですか?」


「え?」


 言いかけたその口を、フローラは疑問の形にした。




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