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1.自己評価が低いのに愛されている聖女

 祈祷が終わり、フローラ・ヴィンターフェルトは組んだ手を下ろす。

 女神ヴァルシアの存在をすぐそこに感じる、至福の時間であった。


「それでは皆様に、女神ヴァルシア様のご加護がありますように……」


 振り返ったフローラのよく通る澄んだ声が、小聖堂に響きわたる。

 30人ほどの礼拝者たちに満足げな視線を向けられたフローラは現実にかえって、紅潮した頬に微笑みを張り付かせた。内心はガチガチに緊張している。


 その視線の圧力にストレスを受けたフローラの脳みそは高速回転を始め、一つのことをくるくるくるくると考え始める。


(別に間違いはなかったよね。大丈夫、大丈夫……だよね?)


 いまいち自信がないが、祈祷の聖句は間違えていないから、大丈夫なはずである。


 と、そんなふうに脳みそが勝手に考えるのに任せながら、表面上はぼーっと神官が礼拝を取り仕切るのを眺めていた。


 そして、小聖堂での礼拝が、神官の挨拶で締め繰られる。


 するとさっそく、めいっぱい小聖堂に詰め込んだ礼拝者たちが、聖壇脇にいるフローラに話しかけようと押し寄せてきた。


「聖女様! ありがとうございました!」


「今日のご祈祷も可愛かったです!」


「お疲れさまです、聖女様!」


「笑顔こっちにくださーい!」


 目を輝かせた礼拝者たちに囲まれて思い思いのことを叫ばれて、フローラはたじたじになった。


「あの、えっと……に、にこっ」


 とりあえずリクエスト通りに微笑みを顔に貼り付けてみれば、はわ~ん……とした薔薇色の空気が充満し、礼拝者たちが胸を押さえ始める。


「か、可愛い……」「お声がたまんないわ」「溶ける~」「うちの娘に欲しい……」


(ひー、タスケテ……)


 作り笑顔を張り付かせつつ冷や汗をかくフローラ。


 そのストレスが、またフローラの脳みそを自動的に動かし始めた。


 ……フローラは、自分の声に自信がない。22歳の女性にしては特徴的な声をしているらしく、よく「可愛い声ですね」と言われる。


 可愛い声だなんて、なりたくてなったわけではない。それどころか妙に舌っ足らずで、22歳という年齢に似合わない幼い感じがして苦手だ。

 長い銀髪でまるで老婆みたいに見えるから、さらに声と合っていないことになっている。


 自分に聖女は向いていないとつくづく思う。

 要領は悪いし、人見知りだし、変な声だし、礼拝者さんたちへの対応も悪いし。女神様はなんで私なんかを選んだのだろう。


 とはいえ、女神ヴァルシアへの祈祷自体は好きだ。祈祷をすると、本当にすぐそこに女神がいるのを感じるから。

 普通の人間は女神の存在を直に感じることはないのだと聞いて、びっくりしたことがある。

 存在を感じない女神に祈ったり願ったりするのは、フローラにとってはよく理解できない、不思議な感覚だ。

 だがそちらのほうがよほど凄いことだということは理解している。見えない・感じないものを信じるのは大変だろう。


 だからこそ、フローラを通してヴァルシア様のご威光を伝えるのだ――というのが、聖女に選出されたときに大神官から賜った言葉だった。そういうものなのか、とフローラは呑気に受け入れたが、まさかそれがこんな緊張の毎日になるとは思わなかった。


 と、そんなことをつるつるつるつると脳内で高速回転させているフローラの前で、礼拝者たちの雰囲気がガラッと変わった。


 薔薇色の雰囲気から立ち直って、まだまだ聖女とお話ししようと瞳をキラキラさせていた礼拝者たちが、一様に気まずそうに視線を外して押し黙ってしまったのだ。


 小聖堂の入り口から、ある人物が入ってきたのが原因だ。


 フローラが求めていた救いが来たのである。


 礼拝者たちはさーっと左右に分かれて、その人物を通した。


「フローラ様」


 群衆を割ってきた男が、真っ直ぐにフローラを見つめて低い声で呼んだ。


「はいっ」


 フローラは勢いよく答えた。

 返事は素早く、笑顔で、そして元気な方が印象がよくなるだろう……そんな考えからだが、声が裏返っていた。これでは元気がいいというより挙動不審だ。


 礼拝者たちを割ってフローラの元まで来たのは、聖女の警護を請け負っているノヴァリス聖護騎士団の団長、レオンハルト・グリューバーであった。


 27歳という彼は、豪奢な金髪と渋みのある青い瞳、そして逞しい身体付きの、いかにも騎士といった風情の美丈夫である。

 レオンハルトは軽く頷くように会釈した。


「……お迎えにあがりました」


「ありがとうございます。毎回迎えに来て下さって、嬉しいですっ、とても」


「これも仕事ですから」


「はい」


 フローラの返事のあと、妙な空白が起こる。


 ああっ、会話が切れてしまった。


 レオンハルトは聖護騎士団の騎士団長だから、仲良くなっておくに越したことはないのに……。そのためには雑談が一番効果的だ、とフローラも心得てはいるのに。


 そう、雑談である。一般的に、女子は雑談が得意だといわれている。その線でいけば、フローラだって雑談ができるはずなのだが。

 それなのにフローラは苦手である。すぐに会話を切ってしまう。


(私って駄目な聖女だぁ……ていうか女として欠陥があるんだ……女子トークが苦手だなんて、私も女なのにぃ……)


「フローラ様!」


 落ち込むフローラの前に、遅れてもう一人の騎士がやって来た。コンラート・シュタイナーだ。少し長めな情熱的な真っ赤な髪と爽やかな水色の瞳という派手な容姿の25歳の男で、この人もやっぱりけっこうな美丈夫である。


 フローラは少し心が落ち着いた。この人はお喋りだから、こっちが喋らなくてもどんどん会話してくれるのだ。ただ相づちを打っていればいいだけだから、気が楽である。


 ただ、彼には問題があった。


 フローラを上げ上げに上げまくるのだ。



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