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彼女との出会いは突然だった。
その日僕達はいつも通りベリィ様の調教を受けていた。僕とペプチドはローテーブルの前で正座すると、羊皮紙に『私は薄汚い子豚です』とか『私はイジュメール家の奴隷です』とか『イジュメール家万歳』とか延々と書かされた。
筆を止めたり、字を間違えたり、字が汚かったりすると、その度に僕達はベリィ様に鞭でしばかれた。
「いやんそーぷ!」
何度目か分からない打擲に僕が喘いでいると、後ろからバタンと扉の閉まる音が聞こえた。振り返ると、僕は思わず息を呑んだ。
それは正に生き写しであった。ベリィ様がそのまま生まれ直したかのような絶世の美幼女がそこに立っていたのだ。
「お母様、ここにいらしたのね」
そう言って幼女はてくてくと前に進んだ。彼女は赤いドレスに身を包んでいる。体は一回り僕達より大きいが、1つ2つ程しか年は変わらないだろう。
「あらサディ、勝手に館を歩き回ってはいけません」
ベリィ様が幼女に咎めるように言った。サディ様というのか、可愛いな、と僕は思った。
「だって退屈なんだもの」
サディ様はそう言うと、ちらと僕達に視線を向けた。
「あら、小さな奴隷さん達、こんにちわ」
小さいのは貴方もだけどね、と思いながらも、僕は「こんにちわ」と返した。
「こんな奴隷達に挨拶なんてする必要ないわ」
そう言いながらベリィ様は僕とペプチドをぺしんぺしんと鞭で打った。「ぴぎゃあ!」「ふぃよるど!」と僕達は声を上げた。
「いいえ、私は奴隷相手にでも挨拶はするわ。だって豚とか虫にだって挨拶はするもの」
「ああ、そうかい、可愛いサディ。お前は本当に優しいね」
「うふっ、お母様ったら」
なんて品のあるやりとりだと、僕は微笑ましく彼女達を眺めた。
「それとお母様。お母様ばかり奴隷をいじめてずるいじゃありませんか」
「ずるいも何も、これは調教、奴隷の教育です。好きでやってる訳じゃありません」
「とにかく、私にも奴隷をいじめさせてください」
そう言ってサディ様は僕達の後ろに立った。ベリィ様はやれやれといった感じで、娘の行動を眺めている。
「2人共、立ち上がってこっちを向きなさい」
僕達は彼女の指示に従った。向かい合う僕らとサディ様。彼女は値踏みするように僕達を眺めた。
「ふーん。あなた、目が青いのね」
彼女にそう言われ、僕は素直に「はい」と答えた。サディ様はじっと僕の目を見つめる。僕はドキドキとしてしまう。嗚呼、そんなに見つめないで。
「目糞青太郎」
「はい?」
「あなたの名前は目糞青太郎よ」
なんて素晴らしいネーミングセンスだと思い、僕は「分かりました。ありがとうございます」と言った。
続いてサディ様はペプチドを凝視する。
「ふーん。茶色い髪、茶色い目……」
サディ様は指を顎に当てて思案しているようだった。真剣に考えるその姿は美しかった。
「うんこ次郎。あなたの名前はうんこ次郎ね」
余りにも直球過ぎて僕はくらくらとしてしまう。素晴らしい。素晴らし過ぎるよサディ様。