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「ウフフフフ」「アハハハハ」


 イジュメール一家の優雅な団欒が続く。僕は使用人が取り分けた料理を、ひたすらにもぐもぐと咀嚼した。


「青太郎」


 不意に伯爵に名前を呼ばれ、僕はドキリとして彼の方を向いた。


「騎士の件だが、どうやら引き受けてくれるみたいだな。ありがとう」


 僕はどぎまぎしながら、「ええ、まぁ、はい」と答えた。内心では、自分に拒否権はなかったのだけど、と思う。それから、それに対しての率直な疑問を口にした。


「しかし騎士といっても、私は何をすればいいのでしょうか?」


 僕が尋ねると、伯爵は「なんだサディ。まだ話していなかったのか?」と娘に言った。


「ええ、うっかりしていたわ。お父様から説明して」


 サディ様が悪びれずに答えると、伯爵は「まったく」と言った後、「可愛い娘だ」と付け加えた。


「とりあえず青太郎、君には当分の間、国王軍に混じってイジュメール家の敷地周辺のパトロールに参加してもらう。またいつ隣国の騎士団が襲ってきても不思議ではないからな。頼んだぞ」


「かしこまりました」


 僕は承りつつも、中々面倒臭いなと思う。というか本当に僕はこのまま騎士になってしまうのだろうか。折角命を張ってイジュメール家を救ったにも関わらず、サディ様からは離れ、調教を受けることもできない。何の為に頑張ったのか、まるで分からなかった。


「それと青太郎、君の活躍を話したところ、国王軍の団長がえらい興味を持ってくれてな。そのまま騎士団入り、なんてこともあるかもしれない」


「ちょっと!」と、サディ様が大きな声を出した。


「そんなの聞いてないわ! 青太郎は私達のナイトでしょ!」


「まあまあ、サディ」と、伯爵は宥めるように言った。


「何もまだ決まった訳ではないんだ。それに青太郎の強さなら、国王軍でも充分活躍できるだろう。ひょっとしたら次期団長も夢ではないかもしれない。そうなると我々も鼻が高いだろう」


「そんなのどうでもいいわよ!」


 サディ様は声を荒げた。それから彼女は僕の方を向き、「ねぇ、青太郎」と呼びかけた。


「国王軍なんて入らないわよね? ずっと私のナイトでいてくれるよね?」


 そもそも騎士になどなりたくないのだが、僕は「ええ、まあ」ととりあえず答えた。


「青太郎!」


 そう言ってサディ様は僕に抱きついた。鉄の鎧の上から、彼女の身体が覆い被さる。伯爵夫妻はやれやれといった感じで、その様子を眺めていた。




 それからは退屈な日々が続いた。毎朝鎧を着てパトロールに出かける。日が暮れる頃に館に戻る。その繰り返し。


 国王軍の面々は、僕に対して興味津々だった。例の事件の日について、僕は彼らに何度も説明しなければならなかった。


 その後の反応は人によって分かれた。僕にやたらと話しかけてくる者、僕を嘘つき呼ばわりする者、決闘を申し込んでくる者など、様々だった。


 僕にとって、それら全てがどうでもいいことだった。僕はひたすらに調教が受けたい。昔のようにサディ様にしばきまわされたい。ただそれだけだ。


 僕は国王軍の相手を適当にこなしていった。話しかけられればそれに付き合い、悪口を言われたらシカトし、闘いを挑まれたら仕方なく従った。


 4、5人程ボコボコにすると、喧嘩を売ってくる者はいなくなった。そうすると悪口も自然と止んだ。ひたすらに賞賛されるばかりである。


 無駄な争いがなくなるのはいいことだが、ただそれだけのことである。どう考えても、騎士として徘徊するだけの日々は色褪せていた。

 どんなにくだらなくて退屈な毎日だったとしても、ご褒美さえあれば素敵な日々へと様変わりするのだが、この生活にはそれがない。


 サディ様とは度々顔を合わせた。しかし以前のように、僕をボロ雑巾のように虐げてはくれない。そればかりか、やはり彼女の僕に対する姿勢はまるで変わってしまった。


 パトロール前、僕はサディ様の部屋に行き、彼女と共に朝食へ向かうのが常だった。その時は依然として、悪趣味なお姫様抱っこを要求された。


 朝食後、サディ様はしばしば玄関から僕をお見送りした。そんなことを彼女がする必要は全くなかった。


 パトロール後の晩餐の際も同様だった。僕は彼女を迎えに行き、お姫様抱っこをして食堂へと向かった。


 晩餐後、時にサディ様は僕を部屋に呼ぶことがあった。しかし期待していた調教とは程遠く、紅茶を振る舞われてお喋りするばかりである。

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