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 順調に僕は回復していった。あれだけ酷く傷付けられた身体も、3週間もすればすっかり元通りに治っていった。

 これでまた薔薇色の日々を送ることができる。とある朝、僕はるんるん気分でサディ様に言った。


「サディ様、こんな糞奴隷のお世話をしてくださって本当にありがとうございます。お陰様でもう僕は充分元気です。これからは今まで通り、この愚かなメス豚をビシバシと調教してください。よろしくお願いします」


 僕のその発言に、サディ様は目をぱちくりとさせて、「あら」と言った。


「何を言ってるの青太郎? イジュメール家を命懸けで守ってくれた英雄に、そんな真似ができる訳ないじゃない」


 なんだってぇ!?と僕は思う。それは違う。あらぬ方向に話がいっている。正せねば。


「いやいや、できますよ。何をしたって所詮僕は薄汚い糞奴隷に過ぎないのですから。この前のことは気になさらず、いつも通り僕のことをめっためたにしごいてください」


 焦って早口で喋る僕を見て、サディ様はくすくすと笑い出す。


「本当にもう、青太郎ったら。おっかしー。そんなこと言ったら、まるで調教されたくて仕方ないみたいじゃない」


「はい! そうなんです! 僕は調教されたくて仕方ないんです!」


 僕はここぞとばかりに必死で訴えた。しかしサディ様はまるで相手にせず、アハアハと笑い声を上げている。


「もう、青太郎ったら。冗談はよして。そんな人間がいる筈ないじゃない」


「本当なんです! サディ様!」


「はいはい、わかったわかった」


 サディ様に軽くあしらわれて、僕は絶望する。なぜ分かってくれないのだろうか。


「それよりも青太郎、元気になったのならこれに着替えて」


 サディ様はそう言うと、傍らにいた使用人の方に手を向けた。その男は銀の鎧を抱えていた。


 僕は呆然としてサディ様に尋ねる。


「こ、これは一体……?」


「見たら分かるでしょ、鎧よ。あなたはこれから、イジュメール家のナイトになるの」


 なんだってぇ!?と、やはり僕は思う。そんなもの、全くなりたくなかった。


「ぼ、僕が騎士に……?」


「そうよ。分かったらさっさと着替えて食堂に向かうわよ。兜は邪魔になるだろうから付けなくていいわ」


 僕は渋々彼女の言うことに従った。鉄の鎧はずしりと重く、身に付けるとまるで自分が重戦車にでもなったような心持ちがした。


 着替え終わると、サディ様は僕を見て、「よく似合ってるわ」と微笑んだ。


「そうですかね?」


「ええ、とっても」


 別に似合ってもな、と僕は思う。


「それではサディ様、食堂に向かいましょう」


 そう言って僕は四つん這いになる。鎧を身に付けたことによって、動きづらい上に負荷がかかっている。これは中々しんどいのではないか。僕は興奮して鼻息をフガフガと荒げた。


「あら、青太郎。あなたはナイトなのだから、馬になんてなる必要はないわ。むしろ乗る側よ」


 サディ様はそう言ってまたくすくすと笑う。僕はその言葉を聞いて愕然とした。世界から一切の色彩が失われたような感覚にとらわれる。サディ様の馬になれないなんて、そんなの生きている心地がしなかった。


 僕は抗わなければならなかった。なんとかして今日のサディ様の不可解な言動を改めさせねば。


「サディ様、やはり私は騎士なんかではありません。私はサディ様の馬であり、豚であり、犬であり、奴隷なのです。さあ、いつも通り、私の背中に跨ってください」


 僕がそう言うや否や、チッという舌打ちの音が聞こえた。


「だからあなたはナイトだって言っているでしょう? 頭でも沸いているのかしら?」


 冷たくそう言うサディ様に、僕はぞくぞくとする。これだよ、これ。これこそサディ様だ。


 氷の女王となった彼女に、僕が抗う術はなかった。僕はすぐさま立ち上がり、「失礼しました! 生意気言ってすみません!」と声を発した。

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