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16

 目覚めると見知らぬ天井が眼前にあった。それはほんのりと黄色く、ヤニに塗れたのか、オナラでも充満したのかと思う。


 起きあがろうと体に力を入れると、全身のあちこちが痛み出した。うひゃあ、と快感を感じながら、そういえば死んでもおかしくないくらい全身を傷付けられたんだったと思い出す。


 確認すると、僕の全身は包帯だらけだった。頭部や口元もぐるぐるである。

 周りを見ると、広大な部屋のあちこちに、黄色い家具が点在している。その趣味の悪さから、ここはきっとスゴクの部屋だった所だろうと予測された。


 僕は傍らで眠る少女の存在にすぐに気付いた。椅子に座ったまま、上半身をベッドに突っ伏している。横を向いて目を瞑るそのお顔は美しく、彼女は紛れもなく僕の女王、サディ様だった。


 彼女の壮麗さに見惚れていると、やがてその目がぱちくりと開いた。サディ様は僕が覚醒しているのを認めると、凄い勢いでバッと起き上がった。


「青太郎!」


 彼女は目をきらきらと輝かせながら、僕の胸に飛び込んできた。


「おあふふふ」


 全身の痛みの心地よさと、サディ様に抱きつかれているという喜びで、僕は気味の悪い声を発してしまった。


「あら、ごめんなさい。全身傷だらけなのにね」


 そう言うと、サディ様はどこか気恥ずかしそうに僕から離れた。その様子を見て、僕はなんとなく違和感を覚える。なんだかサディ様じゃないみたいだ。


「今すぐ医者やお父様達を呼んでくるから」


 サディ様はそう言って部屋から出て行った。僕はサディ様が座っていた椅子を眺める。

 彼女はずっとここで僕の意識が戻るのを待っていたのだろうか。それは喜ばしいことではあったが、やはりサディ様らしくはなかった。いくら専属奴隷とはいえ、奴隷は奴隷であり、何も付きっきりになる必要はないように思えた。


 先程感じた違和感を、僕は再び覚える。サディ様は一体どうしてしまったのだろうか。僕はもやもやとした思いを抱え、彼女が帰ってくるのを待った。




 サディ様は伯爵とベリィ様、それから医者らしき男を引き連れて戻ってきた。


「おお、青太郎!」


 伯爵は僕を見るなり声を弾ませた。


「いやー、目を覚ましてくれて良かったよ。君は命の恩人だ。本当にありがとう」


 僕は「いえいえ」と返事した。実際伯爵が捕まったところで殺されることはなかったようなので、そう言うのは至極当然だった。


「今回は本当にありがとう、青太郎。あなたがいなかったら、このイジュメール家は終わっていたわ」


 ベリィ様にお礼を言われるのは新鮮だった。尤もそれは彼女には似合わない。いつものように、冷酷で尊大でいて欲しかった。


「本当にありがとう、青太郎。お父様を助けてくれて、イジュメール家を救ってくれて、本当に、本当にありがとう」


 サディ様は目に涙を浮かべて言った。彼女にもベリィ様と同じことが言えた。そんなに真摯にお礼を言う必要はまるでないのだ。いつものように冷たい目で僕を見て、よくやったわ、とでもおっしゃってくれればそれでいいのだ。




 僕はあれから3日程眠り続けていたらしかった。医者の問診を受けた後、僕は気を失ってからのことを伯爵に聞かされた。


 伯爵は僕を馬に乗せてひた走った。全身から血を流す僕を、一刻も早く医者に連れていく必要があった。


 途中自国の騎士団と伯爵は遭遇する。そこで伯爵が今までの経緯を説明すると、彼らは僕に応急手当てを施してくれたそうだ。

 それが無かったら確実に死んでいただろう。僕を見た医者は、静かにそう言ったそうだ。


 イジュメール家のその後についても僕は聞かされた。その被害は甚大だった。大量の使用人が殺され、ほとんどの奴隷が逃亡したという。


 生き残った使用人は僅か十数人程であった。それも隣国が攻めてきた際に隠れていた者や、逃走した者がほとんどであろうので、質は相当悪いだろう。


 奴隷に関して、当初敷地に残っていたのは僕と母くらいであった。監獄はもぬけの殻になり、館に生息していた女奴隷やマッチョ奴隷達は漏れなく逃げ出した。


 国王軍の捜索により、数人の奴隷は確保することができたらしい。しかしそのほとんどは今もなお逃亡しており、戻ってくることはなさそうだった。

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