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 毎夜毎夜ペプチドは泣き続けた。

 何をそんなに涙することがあるのだろうと僕は思ったが、普通の子供からしたらここは酷い環境なのかもしれないと、全く理解はできないがそういう観点を持つことも大事だと思った。


 ある時ペプチドは言った。


「なんで、なんでぼくがこんなめに。ぼくがなにをしたっていうんだ」


 知るかとは思ったが、僕はペプチドに寄り添うよう、話をうんうんと聞いてあげた。


 彼の問いに強いて答えるとしたら、奴隷として生まれてきたからだと言う他ない。生まれた時点で、そのような扱いを受けることは決定してしまったのだから。


 尤も天使様が言うには、自分の境遇は前世での行いが反映されているらしかった。よって結局は自分自身の責任といえるだろう。一体前世で何をしたら、奴隷として生まれざるを得なくなるのだろうか。


 またある時ペプチドは言った。


「ゆるさない。こんなにいじめてあのババア、ぜったいにゆるさない」


 ベリィ様に対する呪詛のような言葉を聞いて、僕は専ら引いてしまった。何をそんなに怒り狂う必要があるのだろうか。


 そもそも許さないとは何なのか。許さなかったところで何がどうなるでもなかった。いくら喚いても所詮奴隷の遠吠えに過ぎないのだ。それなのにネチネチネチネチ文句をぶうたれて気色が悪い。


 そんな風に生きないで、彼は痛みを受け入れるべきなのだ。痛みと友達になるべきなのだ。そうして自分の非を認め、ベリィ様の素晴らしさに気付き、圧倒的な下僕に成り下がるべきなのだ。


 尤もそんなことを僕が子供相手に説き伏せる訳もなく、専らペプチドの話を黙って聞くばかりであった。


 またペプチドはこうも言った。


「エムバペ、いつかぜったいにここからでていこうね」


 出て行ってたまるかボケが、と思う。

 そんな気はさらさらないし、そもそもこのような監視下に置かれて脱走できる訳もなかった。できもしないことをいけしゃあしゃあと話す、夢見がちな子供ならではの頭の悪い発言だと思った。


 しかしながら僕は彼の発言を否定するでもなく、こっくりと首を縦に動かした。幼い子供の到底不可能な米粒ばかりの希望まで打ち砕いてやる程僕は鬼じゃない。それくらい抱かせてやろうじゃないか。


 ペプチドはそういった願望を口にす時だけ、目をきらきらと輝かせた。


「ここからでてしあわせになるんだ」

「ママもエムバペもエムバペのママも、みんなでそとにでていっしょにくらすんだ」

「おおきないえにみんなですむんだ」

「ぼくたちはじゆうなんだ。すきにあそんでおいしいものをいっぱいたべるんだ」

「ぜったいにそうなるんだ。ぜったいに」


 絶対に、と強調するなと僕は思う。それに君の妄想に僕らまで巻き込まないでくれとも思った。


 彼のそれらの発言は現実逃避でしかなかった。事実こういったことを話す時の彼は様子がおかしかった。とろんとした目で、どこか遠くの方を見て不敵に笑うのだった。そういった姿を見ると、流石に僕も不憫に思った。

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