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僕は懸命にグレイブを振った。しかしどの攻撃も、敵の騎士はいとも簡単に防いでいった。
「くっ」
僕が動きを止めると、男は「おやおや?」と、わざとらしく言った。
「もう終わりかい? ならばこちらからいくぞ」
男の嵐のような剣撃が、怒涛の如く押し寄せてくる。僕は必死にそれを防いでいたが、その力に押されてじりじりと後退していった。
悔しいが男の言うことは本当だった。パワー、スピード、スキル、どれをとってみても彼の剣は僕よりも上回っていた。
このままではまずい、と僕は思う。必死にグレイブを振るいながら考えてみるのだが、この状況を打ち破る為の策は思い浮かばない。
「ウオラァ!」
男が掛け声を上げながら放った一撃は、とてつもなく強力だった。僕はグレイブを払いのけられてしまう。
「しまった!」
思わず僕は声を上げた。男が追撃の剣を振りかぶっている。彼の被る銀の兜が怪しく光った。
男の大剣が僕の頭上に振ってくるのが、とてもゆっくりと見える。今度こそ終わった、と僕は思う。結局僕はメス豚だった。といってもそれは当然のことで、というのは先程も考えたことだ。
男の大剣が眼前に迫っている。頭を狙うなんて野蛮な奴だと僕は思う。相手が余程憎くないと、顔面を切り裂いてやろうなんて思わないだろう。
しかしよくよく考えてみると、僕は一騎士団を壊滅してしまっていた。奴は仲間や部下を悉く殺されたのだ。そう思われても仕方がないだろう。
まもなく男の大剣が僕の顔面に届く。青い瞳とブロンドの髪をもった端正な顔が、その刃を食い込まされて歪み、脳漿や血液を飛び散らせる。
それはなんてむごいのだろうと思うが、それはどれだけ気持ちいいのだろうとも思う。もうこの際、それを味わえるだけいいのではないか……。
しかし相手は男だった。そして伯爵を助けられずにサディ様は悲しむ。そんなのいい訳がなかった。たが男の剣は、今にも僕の顔面に……。
その刹那、僕は天啓を授かった。
僕の武器はグレイブだけではなかった。来る日も来る日も調教で鍛えられた武器が、僕の顔面にもあるじゃないか!
僕は瞬時に顔を横に傾ける。大きく口を開き、男の大剣を迎え入れた。剣が口内に入った瞬間に、僕はがっちりと歯を閉じた。
男の大剣の重厚さを歯で感じる。唇の両端を裂かれながらも、僕は思い切りそれを噛み締めた。鍛え抜かれた顎の力が、男の攻撃を見事に止めてみせた。
「なっ、何ぃいいい!?」
男は慌てふためいている。僕はそのまま思い切り歯に力を入れ、男の剣を噛み砕いた。
「お、俺の名刀ジェロムレバンナがぁあああ!!」
男はさらに驚愕する。僕はそのまま相手の剣を板チョコでも食べるように、バリバリと齧りとっていった。
「う、うわぁあああああ!!」
男はやはり絶叫した。彼の大剣はボキリと折れ、最早使い物にならなくなった。
「ち、ちくしょう!」
男はそう言うと馬を走らせた。完全に僕からの逃亡を図っている。武器を失った騎士程脆弱なものはない。僕はグレイブを口に咥えると、四つ足で彼を追いかけた。
「さあ! フィナーレといこうじゃないか!」
僕はそう叫んで飛び上がる。
「や、やめろ!! 来るなぁああああ!!」
男は見苦しい程に喚き散らしている。僕は思い切りグレイブを振るった。男の頭が胴体から離れ、首の断面から血がピューピューと噴き出る。
頭のない胴体は、やがて馬からずり落ちていった。
僕はフゥ、と一息ついた。恐ろしく強い相手だったが、なんとか打ち勝つことができた。
しかしまだ終わりではない。早く伯爵に追いついて、彼を助け出さなくては。
僕はそう思うと、すぐさま走り出した。