13
僕は反射的に、前足にしていた右手で、落下するグレイブをキャッチした。
その時ふと思った。僕はなぜグレイブを口に咥えていたのだろうか、と。
理由は明白だった。サディ様の馬として戦うことを余儀なくされたので、僕は自然とそうしたのだった。
四足の方が速いということもあり、そのままの流れで、僕はグレイブを口で扱い続けた。
しかしこうしてグレイブを手に取った瞬間、僕の脳に雷が落ちた。
絶対にこっちの方がいい! 使いやすい!
僕は手に取ったグレイブを瞬時に振るった。敵の騎士の攻撃をガードし、その上で相手の剣が弾かれて飛んでいった。
「何ぃ!?」
その騎士が驚きの声を上げる。僕は四足から二足に変態する。天高く上げたグレイブを、思い切り振り下ろす。
僕の袈裟斬りが一閃し、その騎士は馬ごと斜めに切り裂かれた。馬と人間が真っ二つ、計4つのパーツに分かれ、その断面からどばどばと血が迸る。
急激な展開に、残りの騎士達の動きがぴたりと止まった。中々動き出さない彼らに、僕は「どうしたどうした?」と言ってやる。
「怖気付いちゃったのかい? 9人の侍ならぬ9人の騎士さんよ。もっと僕を楽しませてくれよ」
「くっ」「調子に乗るなよ」「ぶっ殺す」
各々の騎士が口々に言い放った。そうして彼らは僕目掛けて突進してくる。
「さぁさぁ! 宴はまだまだ続くよぉおおおお!」
僕はそう叫ぶと、グレイブを持つ手を強く握った。
1人、また1人と、僕は敵の騎士を倒していった。
「ば、馬鹿な……」
1人の騎士が、呆然と漏らす声が聞こえてくる。
「これまで本当の実力を隠していたというのか? 一体、何の為に……」
それはごもっともな疑問だった。現に僕は本当に死にかけていて、そうなるまで自分を追い込む必要はまるでなかった。
全ては現場の閃きなのだよ、騎士Aくん。僕はそんなことを考える余裕まであった。
「ぐはぁあああ!」
10人のうちの最後の騎士が大吐血した。腹を深く抉られた彼は、落馬して地面をごろごろと転がった。
「ま、まさか剣十時がやられるなんて……」
リーダー格の男が狼狽えている。僕は彼に向かってグレイブを向けると、「チェックメイト」とかっこつけた。
「フ、フフフフフ、ハーハッハー!」
気でもふれてしまったのだろうか。突如として高笑いを上げた男に、僕は哀れみの目を向けた。
「なるほどなるほど」と、一転して男は仕切りに頷いている。何も分かってはいないだろうに、鬱陶しいなと僕は思った。彼はさらに口を開く。
「確かにお前は強い。今まで本気を出していなかったなんて恐れ入った。だがしかし、お前は俺には勝てない」
「御託はいいからさっさと始めるぞ」
彼の無駄な喋りに付き合ってやるつもりは毛頭なかった。早く奴を倒して、僕は伯爵を追いかけなければならないのだ。
僕はグレイブを両手で握り、二本足で駆け出した。その最中、僕はぐらっとふらつき、危うく転倒しかける。それを見た騎士が、「フフフ」と不敵に笑った。
「お前が俺に勝てない理由その1、お前は既にダメージを負いすぎている。倒れていないのが不思議なくらいだ」
確かにそれはそうだった。意識は朦朧とし、視界は霞んできている。しかしそれは意志の力でどうにでもなった。
「ううぉおおおお!」
僕は自分を奮い立たせた。意識は明瞭とし、視界はクリアになる。
自分のコンディションにしろ、伯爵のことにしろ、早急な決着が求められた。
僕は再び相手に向かって走り出す。リーダー格の騎士は、さも余裕そうに、僕がやってくるのを待ち構えていた。
僕のグレイブと、敵の大剣がぶつかり合う。ガキン!と大きな音が鳴り、辺りに火花が散った。
「ぐっ」
思わず僕は唸る。やはり彼のパワーはとてつもなかった。対面時、口で振るったグレイブでは到底敵わなかったが、僕の両手をもってしても、彼の力の方がやや上回っているようだった。
「お前が俺に勝てない理由その2、仮にお前が万全の状態だったとしても、それでも俺の方が強いよ」
眼前の騎士は、やはり余裕そうにそう言うのだった。