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「戦うしかないようだな」
その騎士は分かりきったことを言った。僕は「ああ」と答えて四肢に力を込める。
「言っておくが勝ち目はないぞ。俺達はこの隊最強の剣士である上に、お前はもう既に満身創痍のようだからな」
奴の言うことは嘘ではないだろう。彼らから漂う風格が、それを物語っている。
「やってみなきゃ分からないだろ?」
僕がそう言うと、男はフッと笑ったようだった。
「やってしまえ! 剣十士!」
男が大声を上げると、周りの騎士達が一斉に襲いかかってきた。それは怒涛の攻撃だった。騎士達が代わる代わる強烈な一撃を浴びせてくる。僕はそれをグレイブでなんとか凌いでいたが、こりゃたまらん!と思い、後ろに飛び上がって奴らから距離をとった。
不意に奥の方を見ると、先程喋っていたリーダー格の男が、伯爵の乗った馬の騎士に指示を出していた。
「お前は先に行け」
「いや、しかし……」
「いいから行け! ここで時間を食って、国王軍がやってきたら厄介だからな。尤もそんなことにはならないだろうが、念の為だ。分かったらさっさと行け。すぐに追い付く」
「分かりました!」
伯爵を乗せた馬が、ぱっからぱっからと先へ進み出す。
「あの野郎……」
僕が苛ついていると、「よそ見してていいのか?」と声が聞こえた。
次の瞬間、斜め前方から強力な剣撃が飛んできた。咄嗟に僕はグレイブでガードする。キン!と大きな音が鳴った。
「次はこっちだ」
背後から声が聞こえた。僕は反射的に体を飛び退かせる。僕の胴体はすんでのところで敵の剣から逃れた。
それからも、僕は続々と敵の攻撃を浴びた。あまりの彼らの勢いに、僕は防戦一方であった。リーダー格の男が離れたところから、試すようにこちらを眺めていた。
僕は焦っていた。さっさとこいつらを始末して、伯爵に追いつかねば。しかし状況は悪くなる一方だった。蓄積されたダメージが、僕の身体を蝕む。
僕は先程の槍兵相手にとった作戦を試みることにした。高く飛び、敵に太陽の光を直視させるのだ。
しかし彼らの行動はバラバラで、それぞれ距離も離れている。一度に何人も倒すことはできないだろう。
とりあえず数を減らさなければ始まらない。僕は天高く飛び上がった。近くにいた騎士が追撃しようと僕を見上げ、その目を眩ませる。
しめた!と思い、僕はそいつ目掛けてグレイブを振るった。しかしその太刀は、他の騎士が間に入り、防がれてしまった。
なんて手強い奴らだ。僕が辟易としていると、何やら頭が朦朧としてきた。血を流しすぎたのだろうか。
そんな中着地したので、僕はふらっとよれてしまった。その隙を見逃さず、敵の1人が僕を斬りつけた。胴体の右側面を、スパッと切り裂かれる。
気持ちいい!と思うと同時に、ヤバい、とも僕は思った。胴体から血が噴き出ている。
僕は回避の為後方へ飛んだ。今が好機とばかりに、他の騎士が追撃してくる。
ガンガンギギンと、グレイブで相手の剣を凌ぐ。もう僕はいっぱいいっぱいだった。ふらふらな上に、グレイブを振る力も弱まってきている。このまま敵は僕を押し切って、この身を八つ裂きにするだろう。
嗚呼、すみませんサディ様、と僕は思う。伯爵も助けられないし、慈悲でおっしゃってくれた自分の命に関しても守ることができない。
僕は本当にどうしようもない奴隷だった。ただのメス豚に過ぎなかった。
尤もそれは当然のことだった。元より僕はメス豚であり、何をどれだけ頑張ろうが、それは決して変わらない。
敵の剣が激しく振り下ろされ、僕はそれをグレイブで受け止める。そのあまりの衝撃に、僕は咥えていた柄を、ぽろっと離してしまった。
地面へと落ちていくグレイブ。次の攻撃を繰り出そうとする騎士。それらの現象が、全てスローモーショーンのように見えた。




