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僕は何度も何度も男に立ち向かった。しかし全ての攻撃は彼に抑えられ、何発もの恐ろしい蹴りを体に叩き込まれることになった。
「ぐふぅ!」
「大丈夫!? 青太郎!」
サディ様の問いかけに、僕は「はい!」と返事する。どんだけ痛めつけられようが、僕にとってはなんてことではない。というか痛ければ痛い程気持ちがいい。ダメージはむしろ歓迎すべきだった。
しかし身体はそうはいかない。徐々に動きが鈍くなり、全身の機能が低下していることが分かる。
眼前の騎士は余裕そうに僕を見ている。銀の鎧兜が鈍く光る。その見た目通り、彼の強さは化け物じみていた。
状況は絶望的だった。僕は弱ってきているし、サディ様もスペアと変えながら、鞭で支援攻撃を続けてくれていたが、それもいずれ尽きるだろう。
彼女の協力がなかったら、僕はとっくに切り捨てられている。それがなくなることは、この戦いの終わりを意味していた。
なんとかしなければ。僕は切実にそう思う。しかしいくら考えても名案は浮かんでこないし、何をやっても眼前の騎士には通じないような気がした。
「そっちが来ないならこっちから行くぞ」
騎士が乗る馬が、ぱっからぱっからと駆け出した。男はサディ様の鞭の嵐を、片手でいとも簡単に払いのけながら、こちらに向かってやってくる。
男の強烈な突きが、僕の額目がけて飛んできた。僕は咥えていた槍で払いのけるのだが、そのあまりの威力に、先端の穂が折れてしまった。
男はさらに追撃の手を加えてくる。僕も懸命に槍を振るったが、相手の攻撃はすさまじく、押されっぱなしになってしまう。そして一発、彼の攻撃を肩に喰らってしまった。
肩から血がぷしゅーと噴き出る。「青太郎!」とサディ様が心配そうに叫ぶのが聞こえた。
一旦僕は男から離れて距離をとる。幸い傷は浅いようだった。
どうしたものか。このままだとじわじわと追い詰められ、殺されてしまうのは目に見えていた。
肩からはどくどくと血が流れている。傷の痛みは心地良かったが、やはり男相手に嬲られて死ぬのは嫌だった。
サディ様とベリィ様を背中に乗せて逃亡しようか。しかしあの男から逃げ切れるとは思えない。どうしようもなく、僕は頭を抱えた。
ふと前足のようにしていた右手に何かが当たった。そこには先程折られてしまった大槍の穂が転がっていた。
せいぜい飛び道具として投げ付けるくらいしか使い道はなさそうだが、持っていて損はないだろう。僕は男にバレないよう、穂の切れ端を手中に収めた。
その時、部屋の入り口から1人の騎士が駆け込んできた。彼は後ろに誰かを乗せている。よくよく見ると、それは僕の母親だった。
「ウィルフリードさん!」
母を乗せてやってきた騎士は大声で叫んだ。その名前を、僕は何やら聞いたことがあるような気がした。
「なんだ?」
僕から目を離さずに、眼前の騎士が答えた。
「ファイザさんがいました!」
「何ぃ!?」
男は凄い勢いで、新たに現れた騎士の方を振り向いた。先程まで冷徹に僕を攻撃していた彼が、一転して酷く取り乱している様子だった。
「ウィル? もしかしてウィルなの!?」
母が今にも泣き出しそうに声を上げた。
「な、なんてことだ……」
ウィルフリードと呼ばれるその騎士は、両手を頭にやって、冠っていた兜を脱いだ。
男は金髪で青い目をしていた。まるで僕と一緒だった。そういえばウィルフリードとは、母が言っていた父の名前だと僕は思い出す。
「ウィル!」
「ファイザ!」
2人はお互いの名を呼び合った。母はぼろぼろと涙を流している。
「嗚呼! なんて素晴らしいんだ! 神よ! 感謝します!」
僕の父らしき男が天に向かって叫んだ。彼も酷く興奮しているようだった。
「ウィル! ウィル〜〜!」
「ファイザ! 嗚呼、ファイザ!」
ウィルフリードは母の名を叫ぶと、すぐに僕の方へ向き直った。
「少しだけ待っていてくれファイザ! 今すぐこいつを片付けて、君を抱きしめにいくから!」
キザな台詞だな、と僕は思った。




