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薔薇色の日々は物凄いスピードで駆け抜けていった。気付くと僕は15歳になっていた。
いつの間にか、僕はサディ様よりも背丈が大きくなっていた。それに日々の調教で鍛えられたことにより、肉体は大きくなり、むきむきマッチョメンと化していた。
馬と騎手のサイズバランスがいい感じになり、これでこそ僕は歴としたサディ様の馬になれたような気がした。
サディ様の調教は相変わらず素晴らしい。鞭でしばかれて僕は吹っ飛ぶ。サディ様を背中に乗せて、気が遠くなる程走る。様々な器具を用い、出涸らしになるまで追い詰められる。
夜はいつもの部屋で母と眠った。流石に同じベッドで寝ることはなくなった。しかしふとした時に、微笑みながら僕の方をじっと見てくる母の姿に気付くのだった。
母とはいろんなことを話した。その日あった調教について尋ねられ、僕がつらつらと事実を述べると、母は涙を流しながら僕を抱きしめた。
「辛かったね」
そんなことを耳元で言う母に、僕はハア?と思う。全然辛くない。いや、辛いけど辛くない。辛いのが気持ちいい。M男のジレンマ。
「大丈夫だよ」「お母さんがいるよ」
そんなことも母は言った。元から僕は大丈夫だし、そうじゃないとしても意味が分からなかった。母がいたところで事態は何も好転しないだろう。
母は聞いてもないのに自分のことも喋った。三兄弟がいる内は、彼女は辛い辛い毎日を送っていたようだった。彼らは女奴隷達に、それはそれは酷い乱暴を働いていたという。
詳細については母は言明しなかった。息子に言えるような話ではないことが容易に想像できる。
三兄弟が死んでからは、大分楽になったと母は言った。基本的に伯爵は忙しそうにしており、奴隷達に構うことはほとんどないという。
彼女達は館の雑用に駆り出されるだけの日々を送っているという。それは以前と比べると、とても幸福なことであるらしかった。虐められなかったら奴隷である意味がないのにな、と僕は思う。
天井から逆さ吊りにされて、僕はミノムシのようになっていた。なんてことのない日常。サディ様の鞭が飛んでくる。
「ばいーん!」
鋼のような僕の肉体を待ってしても、彼女の攻撃は骨の髄まで響いてくる。衝撃で僕は吹っ飛んだ。振り子運動によってぐわんと上昇し、僕の体は天井に打ち付けられる。
「ばいんみー!」
今日も僕は幸福だった。程よい痛みを全身に感じながら、再びサディ様に打ちのめされる為に、僕の体は下降を始める。
「喰らえ〜!」
サディ様は無邪気だった。僕が降りてくるのを待ち構え、タイミングよく鞭を振るった。
「ばんやややいーん!」
僕は再び天井に打ち付けられた。本当に素晴らしい。こんな何気ない日々が、いつまでも続いて欲しいと思う。
相変わらず鞭で打たれ、びたんびたんと天井に張り付けられていると、何やら館全体が騒がしい感じがした。
気のせいだろうか? いや、違う。ゴゴゴゴゴと何かが押し寄せてきているような、そんな物音が遠くの方から聞こえる。人の悲鳴のようなものも時折混じっていた。
一体それらは何の音なのだろうか。幻聴か。調教のし過ぎで僕はおかしくなってしまったのだろうか。
それとも僕達の調教が激しすぎて、館全体が悲鳴を上げているのだろうか。
次第に音は大きくなっていった。サディ様もそれに気付いたようで、鞭を振るうその手を止めた。ぶらんぶらんと、僕は虚しく揺れ動いた。
不意に部屋の扉が開かれた。そこに1人の使用人の姿が出現する。
「サディ様! お逃げください!」
使用人は必死の形相で言った。
「一体どうしたというの?」
サディ様が尋ねると、男は「隣国の騎士団が攻めてきました!」と大声で言った。なにぃ!?と僕は思う。そんなことがあるのだろうか。サディ様も「何ですって!?」と言って慌てふためいている。
「早く! 早くここから逃げるのです! うぎゃあああああ!」
突如として使用人は絶叫した。彼の背後には血飛沫が上がり、そのまま前のめりに倒れる。そうすると、鎧に身を包んだ騎士の姿が、部屋の入り口に現れた。




