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 そういえば、と僕は思い出す。


「だけどペプチドの母親は許してくれないだろうね。あの処刑の日、みんなの前に立たされた時に、お母さんに掴み掛かる彼女の姿を僕は見たよ」


「ああ……」


 母は苦々しい顔をする。


「そりゃ息子が処刑されるんだもの。ああなっても仕方がないわよね……」


 重い沈黙が室内に流れる。


「その後彼女とは?」


 僕が尋ねると、母はまたも複雑そうな表情を浮かべた。


「彼女は……、チャチャは……」


 母は話すのを躊躇っていたが、やがて意を決したように喋り始めた。


「あれからチャチャは、おかしくなってしまったの。無理もないわよね。一気に3人の息子を失ってしまったんだもの」


 あちゃー、と僕は思う。母親からすると、確かにそれは辛い事実であろう。


「彼女は抜け殻のようになってしまったわ。何もせずに、ただただ虚ろな目でぼんやりとしているの。私がいくら話しかけても、全く何の反応もない。

 時折彼女はぶつぶつと独り言を言ったわ。また、急に奇声を発したり、笑い出したりもした。彼女がそんなだから、使用人達はほとほと困り果ててしまった。どんなに痛め付けても、彼女は泣き叫ぶばかりで、命令を全く聞かなかった。意思の疎通がまるでとれないの。奴隷であるのに何の労働力にもならない。

 ある日私が部屋に戻ると、彼女はいなくなっていた。使用人に聞いてみると、あんなのいても邪魔なだけだから、外界に放り出したと言っていた。今頃どこかで野垂れ死んでいるだろうな。使用人はニヤリと笑ってそう言ったわ」


 あれまー、と僕は思う。ペプチドの母親には悪いことをしてしまった。まあ、仕方がないことなのだけど。


「そんな……」


 僕が気にしている風を装っていると、母は「大丈夫」と強く言った。


「あなたはただ人として正しいことをしただけだから。何も間違っていない。何も悪くない」


 そうだそうだ、と思いながらも、ここで呵責の念を吐露したらいい感じになりそうなので、そうすることにした。


「僕、なんてことをしてしまったんだろう。ペプチド達を死に追いやり、彼らの母親までおかしくさせてしまった。母さんも彼女とは友達だったんでしょう? ごめんね、悲しいよね。全部僕がいけないんだ。僕がペプチド達に反抗しなければ、こんなことにならずに済んだのに。嗚呼、僕はなんてことを……」


 母は「そんなことない」と言って仕切りに首を振った。


「あなたは何も悪くないの。何度も言うけど、あなたは人として正しいことをしただけなの。チャチャのことは本当に残念だと思う。だけどそれはもう仕方のないこと。責任なら母親の私も背負うから、どうか気に病んだりしないでね、エムバペ」


 母はそう言って僕を抱きしめた。サラサラの髪が僕の頬に触れる。心配してもらわなくても、僕が病むことはどう頑張ってもないだろう。


「嗚呼、エムバペ。私の可愛いエムバペ。あなたさえいたら、私はいいの。これからは2人で、支え合って生きていきましょうね」


 僕にとっては母がいようがいまいがどうでもよかった。いや、鬱陶しいので、できたらいない方がいいだろう。


 僕は否定も肯定もせずに、黙って母に抱かれていた。やがて僕は母の腕の中で眠りに就いた。

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