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僕は足を縄で縛られ、天井から逆さ吊りにされた。サディ様が鞭でぴしゃんと僕の胴体を打つ。やはりそれは素晴らしい威力で、僕は弧を描きながら天井に激突した。
「びたーん!」
そうして僕は下降して、振り子時計のようにぶらんぶらんと大きく揺れる。よきところで再びサディ様の鞭が飛んできて、僕はまたも天井に張り付くことになった。
「微炭酸!」
それからも僕は乙女心のように大きく揺れながら、サディ様の鞭をお見舞いされることになった。僕は部屋の中を縦横無尽に飛び回り、硬い天井に全身を打ち付けるのだった。
サディ様は成長過程にあった。彼女の鞭は徐々に勢いを増し、やがて僕の体を天井にめり込ませる程になった。
そうなると部屋の片隅に待機していた使用人が飛んできては、つっかえ棒のようなものでロープを手繰り寄せ、僕の体を天井から引っこ抜いた。そうして僕は再びサディ様の一撃を喰らうことができるようになるのだ。
引っこ抜かれて、叩かれて、めり込まさせられて。僕は新種のピクミンにでもなったような心持ちだった。そしてそれはとても素晴らしいことである。
サディ様の鞭を喰らう度に、天井にめり込む度に、使用人に引っこ抜かれる度に、僕は多幸感に包まれるのだった。
「ほんとにもうサディったら、なんて可愛らしいのかしら」
「お母様だって、とっても美しいわ」
「ウフフフフ」
「アハハハハ」
サディ様とベリィ様が優雅に笑い合っている。なんて品のあるお二人なのだろうと、僕は改めて思った。
そこはベリィ様の部屋、お二人は午後のティータイムと洒落込んでいる。僕は彼女達が座るテーブルの傍らに、犬のように座り込んでいた。
サディ様はベリィ様と会話しながら、気紛れにポットのお湯を僕にかける。
「ううぉちゃ〜〜!」
熱々の熱湯を注がれて、僕は床を転げ回る。それを見てサディ様が「ウフフ」と笑う。ベリィ様も「あらあら」といって微笑する。部屋の隅にいた使用人がやってきて、濡れた床をサッと拭いていった。
紅茶を飲み終えると、サディ様は嬉しそうにベリィ様に切り出した。
「そうだ、お母様。最近私の鞭が凄いのよ。見て見て」
そう言うと彼女は立ち上がり、傍に置いていた鞭を手に取った。そうして僕に向けて一発、どぎついのをお見舞いした。
「とれびあ〜〜ん!」
僕は喘ぎ声を上げながら、交通事故にあったみたいにふっ飛んだ。ごろごろと床を転がり、やがて静止する。
「素晴らしいわ、サディ。流石は私の娘だわ」
「えへへ」
ベリィ様に褒められて、サディ様はとても嬉しそうだ。
「日々調教していけば、これからも威力はどんどん上がっていくことでしょう」
そう言うとベリィ様は立ち上がり、よろよろと起き上がっている僕の前までやってきた。
「こんな具合にね」
ベリィ様が鞭を振るう。僕の全身をとてつもない衝撃が襲った。
「とれびのいずみ〜〜!!」
僕の体が宙を舞う。先程のサディ様の鞭の、3倍くらいの距離を僕は吹き飛んだ。ぼん、ぼん、と地面をバウンドし、ごろごろと後転してやがて止まる。
なんて凄まじい鞭なのだろう。僕はびくんびくんと全身を震わせながら、ベリィ様万歳!と思った。
「凄いわお母様! あんなに青太郎が吹き飛ぶなんて! 私もあんなに青太郎を吹き飛ばしてみたいわ!」
そう言うとサディ様は無邪気に駆けてきて、床に伸びている僕に追撃を喰らわせる。
「とりびあのいずみ〜〜!!」
再び僕はふっ飛ぶのだが、やはり先程のベリィ様の鞭よりは遥かに及ばない。
「全然駄目ね。ええい! もう一丁!」
ごろごろと床に転がる僕を、さらにサディ様は追いかけて鞭打った。
「ぎんののう!!」
部屋の中をあっちへこっちへと、ぼんぼことおもちゃのように吹っ飛ばされて、僕は最高だと思う。ころころと転がった先にベリィ様が待ち構えていた。
「いい、サディ。こうするのよ」
またも強烈な一撃が僕を襲った。それはまるで雷に打たれたような衝撃である。僕の全身を、快感という名の電流が駆け走る。
「きんののう!! めろんぱんいれになっておりま〜す!!」
僕は叫んだ。血反吐を吐きながら叫んだ。もしかしたら今、自分の体は光り輝いているのかもしれない。全身を慣性に預けるしかない空中で、僕はそんなことを思った。




