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6

 眼前にはたくさんの奴隷や使用人達がずらりと並んでいる。伯爵が僕の方に手を掲げた。


「彼こそが奴隷の鏡! 奴隷とは本来こうあるべきなのだ! 主人に忠誠を誓い、主人の為にその身を尽くす! 皆の者! 彼に盛大な拍手を!」


 クラップ音が怒涛のように押し寄せてくる。当たり前のことをしただけなのにな、と僕は思う。しかしこれだけの群衆の拍手を浴びると気持ちがいい。思わず僕はてへへと言って頭を掻いた。


 鳴り止まない拍手の中で、僕は聴衆の一部が慌ただしく動くのを見た。ペプチドの母親が、僕の母親に掴みかかっているのだ。

 ペプチドの母親は口を大きく開けて何やら叫んでいるようだったが、拍手の音でまるで聞こえない。僕に対する怒りを僕の母親にぶつけているようだが、彼女は何も関係がないだろう。


 母親達の周りから奴隷達が引いて行く。ペプチドの母親は僕の母親を引き倒して馬乗りになった。なんて女だ、と僕は思う。


 やがて異変に気付いた何人かの使用人がやって来て、彼女達を引き剥がした。それを見て僕はやれやれと思う。

 拍手が止むと、伯爵は再び口を開いた。


「それに引き換え、こいつらはどこまでも腐り果てている!」


 伯爵は大きく手を広げ、磔にされた3人のことを示した。


「奴隷が逃走を図っていい訳がないし、主人に反逆するなんてもっての他だ! このゴミ糞野郎が!」


 伯爵はそう叫ぶと、再びペプチドの顔面を殴りつけた。「みちばたっ!」と彼は鳴き声を上げる。伯爵は聴衆の方に向き直り、演説を再開させる。


「そんな糞共がどういった末路を辿るのか、お前達もしかと見届けるがいい! それでは処刑を開始する!」


 伯爵が声高らかに言った。周りの使用人達が動き出し、用意されていた3本の松明に火を灯す。火のついた松明をそれぞれ使用人が待ち、各自ペプチド達の傍らについた。


「いやああああ〜! やめてぇええええ〜!」


 彼らの母親が、見苦しい程に取り乱している。使用人に頭を地面に押さえつけられながら、ジタバタと必死に踠いて叫ぶのである。


「点火!」


 伯爵が声を上げると、使用人達は三兄弟の足元の薪に火を移した。徐々に炎は大きくなり、彼らの足元から蝕むように焼いていった。


「うぎゃああああああああ!」


 3人の絶叫が轟いた。それを見る彼らの母親も同じように叫び、目から大量の涙を溢した。悶え苦しむ3人を見て、それはさぞ気持ちいいだろうな、と僕は思う。


「ごべぇええええんっ! ごめんよ母さああああん! 助けられなくてえええええ! うぎゃああああ!」


 炎に包まれながらソイは叫んだ。律儀な奴だなあ、と僕は思う。


「だから俺はやめようって言ったんだあああああ! こんなことやらなければよかったあああ! うぎゃあああ!」


 アミドは後悔して叫ぶ。しかしながらもう遅い。彼の体は火だるまになっているのだ。


「なんでだよおおおおお! なんでなんだよおおおおおエムバペぇえええええ! うぎゃあああああ!」


 丸焦げになりながらペプチドが叫んだ。やれやれ、死ぬ間際になってもまた同じようなことを言ってやがる。僕はほとほと呆れてしまった。


 三兄弟の断末魔の叫びと、彼らの母親の甲高い悲鳴が、常に現場に響き渡っていた。全くもって騒々しい。僕はそれを不快に思いながら、炎の中で焼けていく3人の肉体を眺めた。


 やがてペプチド達の声がしなくなった。めらめらと燃え上がる炎の中に見える、彼らの黒いシルエットは微動だにしない。遂に召されたのだろうか。火炙りという、辛く苦しい死に方ができて、彼らにとっても幸福なことだろうと思う。


 次第に炎の勢いは弱まっていき、真っ黒焦げの彼らの焼死体が大衆の眼前に晒される。

 奴隷達は言葉を失い、反逆した同胞達の無惨な姿を、ただただその目に焼き付けた。ううー、ううー、という、ペプチド達の母親が呻く声だけが辺りに響いた。

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