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 僕はペプチド達と共に縄で縛られた。使用人からしたら、まだ僕の言うことが本当かどうか分からないので、それは当然のことだった。現時点では僕も夜中に檻から抜け出た奴隷の1人にすぎない。しかしすぐに真実が明るみになるだろう。


 ペプチドは縛られてしばらくは大人しくしていたが、やがてしくしくと泣き出したり、突然笑い出したりした。僕はうるせえなと思いながら、隣でじっとしていた。ソイやアミドが目覚めることはなかった。


 やがて館内は騒々しくなっていった。あちこちでドタバタと使用人達が動き回っていることだろう。

 さっきの若い使用人が僕達のところに戻ってきた。彼はすぐに見てきた事を中年の使用人に報告する。


「さ、3人の死体を確認しました。スゴク様、トテモ様はベッドの上で血塗れになっていました。ナイフで何ヶ所も刺されています。メッチャ様は部屋の中程で倒れているのを見つけました。喉をぱっくりと切り裂かれています」


「な、なんてこった……」


 中年の使用人はがっくりと項垂れた。


「ほら、言ったでしょ?」


 僕の言葉は完全にスルーされる。ヒーヒッヒとペプチドが気味悪く笑っている。


「今使用人の何人かがハード様の所へ向かっています」


 若い使用人が報告を続ける。中年の使用人は「そうか」と、心ここにあらずといった感じで言った。


「こいつらどうします?」


 若い使用人に聞かれ、中年の使用人は僕達を見回した。


「とりあえずバラバラに監禁しとくか。それぞれから事情を聴取する」


「分かりました」




 そうして僕は元いた自分の奴隷部屋に戻された。何人もの使用人が立ち替わりで現れて、僕から事細かに事情を取り調べた。


 何度同じ話をすればいいのだろう。僕が辟易しているところに、イジュメール伯爵が部屋の中に入ってきた。


「ハード様!?」


 僕から話を聞いていた使用人が慌てふためく。彼はすぐに立ち上がると伯爵に敬礼した。


「彼かね? 糞奴隷共からサディやベリィを守ったというのは?」


 伯爵に尋ねられ、使用人は「は、はい!」と声を裏返して返事する。


「現場の状況や三兄弟の話、メッチャ様の部屋にいた女奴隷の話からしても間違いないでしょう」


「そうか」


 伯爵は縛られて横たわる僕の前に悠然と立った。


「まずは礼を言おう。妻や娘を救ってくれてありがとう」


 眼力のある目に真正面から相対し、僕は些か気後れする。「いえいえ」と、僕は小さくそう返した。伯爵はじっと僕のことを見続けている。


「彼のことをいつまで縛り付けておくつもりだ?」


「あっ、すみません」


 使用人がそそくさと僕の縄を解いた。僕自身は別に縛られたままでも一向に構わないのに、と思う。


 僕はむっくと起き上がると、その場に座り込む。相変わらず伯爵の鋭い目が、しっかりと僕のことを捉えている。


「君には感謝しかないのだが、それと同時に聞いておきたいこともある。なぜ娘達を救ってくれたのだ?」


 そう聞かれても僕は困った。サディ様を救うのに理由など必要なかった。「なぜ?」と僕は小さく口から溢した。


「君はサディの専属奴隷だったと聞く。娘に恨みを抱いていただろうし、あのにっくき三兄弟についていけば外の世界に出られたかもしれない。それに1番下の奴とは共に育った仲なのだろう? だから彼は君のことを助けに来た。それなのにそれを裏切るのはおかしな話だろう?」


 僕は少し考えてから話し始める。


「まず僕はサディ様に恨みなど全く抱いておりません。日々彼女の奴隷として過ごすことができて光栄ですし、寧ろ感謝しています。確かにペプチドとは生まれてから共に育ってきましたが、別に何とも思っていません。向こうからは一方的に好かれていたようですが……。だから彼らが勝手に現れて、助けに来た、なんて言われても迷惑なだけです。それに一緒にサディ様を殺そうなんて、お門違いもいいとこです。別に僕も彼らに恨みはないですが、やろうとしていることがことなだけに、阻止せざるを得なかったのです」


 伯爵はじっと黙って僕の話を聞いていた。僕が話し終えると、彼は「そうかそうか」と言って満足そうに頷いた。


「流石はサディの専属奴隷。しっかりと調教されているな」


 そういうことではないのだがと思ったが、僕は伯爵に「ありがとうございます」と答えた。


「聞きたかったのはそれだけだ。今後とも娘に隷従してくれ」


 僕は威勢よく「はい!」と返事する。伯爵は満足そうに僕のことを見ていた。

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