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3

 それから僕達はまた別の奴隷部屋に放り込まれた。部屋の面積は以前の半分程しかなかったが、子供2人だけで暮らすスペースとしては事足りた。


 部屋の中でもペプチドはまだ泣き続けていた。生まれて初めての理不尽な暴力を、彼はいまだ受け止めることができないのだろう。しくしくと泣き続ける彼をうるせえなと思いながら、僕は床に横になった。


 狭い部屋の中で、僕は熱を持った頬に触れながら、先程の出来事を思い出していた。イジュメール伯爵夫人のベリィ様。彼女が現れてから、僕の胸は高鳴りっぱなしだ。嗚呼、もっと撲って欲しい、もっと詰って欲しい、もっと冷たい目で見て欲しい。嗚呼、もっと、もっと、もっと。


 それから僕は専ら妄想に耽った。ベリィ様にあの手この手で責められているのを想像すると、思わず精通してしまいそうな程興奮した。

 実際にこれからの日々の中で、それらの妄想が現実になり得ることを思うと、僕は多幸感に満ち溢れた。嗚呼、ベリィ様。生まれてきてくれてありがとうございます。あなたの存在が、僕の世界に彩りを加えます。そして天界にいるであろう天使様、本当に感謝しています。ありがとうございます。


「エムバペ」


 不意に名前を呼ばれてびっくりした。いつの間に泣き止んだのだろう。目と頬を腫らしたペプチドがこちらを見ていた。


「さっきはありがとう」


「さっき?」


「ぼくをかばってくれた」


 そんなつもりは毛頭なかったのだが、結果そういう風に見えたのだろう。ペプチドをいじめるなとか言っちゃってたし。


「なに、大丈夫だよ。気にしないで」


「うん……」


 能天気で自分のことしか考えられない低脳児だとばかり思っていたが、素直にお礼を言う姿を見て好感が持てた。


「ぼくたち、これからどうなるのかなあ?」


 不安でいっぱいでどうしようもないのだろう。彼は縋るように僕に言った。


「まあ、僕達は奴隷らしいから、これからも今日みたいにいっぱいいじめられるだろうね」


「いやだあ」


 ペプチドは再び目に涙を浮かべる。また泣かれたら鬱陶しいなと僕は思う。


「大丈夫だよ。ベリィ様の言うことをちゃんと聞いていれば。それにもし今日みたいに叩かれることがあっても、僕がペプチドを守るから」


「ほんとう!?」


 ペプチドは潤んだ瞳を真っ直ぐこちらに向けてくる。


「本当だよ。約束する」


「ありがとう」


 約束なんかしなくても、甚振られている人間を前にして、指をくわえて見ているだけなんて僕にできる訳がない。元々虐げられるのは僕1人で充分なのだ。


「エムバペは、なんでそんなによくしてくれるの?」


 それは尤もな疑問だと思う。僕はドMで変態なんだ、などと言っても子供には理解できないだろう。


「一緒に育った友達が酷い目に遭っているのに、それを見過ごせる訳がないだろう」


「エムバペ……」


 心にもないことを言っているにも関わらず、ペプチドは今にも泣き出してしまいそうだった。やめてくれと僕は思う。


「それに僕は強いんだ。どんな痛みだってへっちゃらさ」


 僕はこれ見よがしに両腕を上げてマッスルポーズを決めた。ペプチドは目を輝かせ、「えっ、そうなの!? すごーい!」などと言った。子供はとても単純だ。




 その日僕達は2人寄り添って床に就いた。ペプチドは僕のことをとても頼りにしていて、中々離れようとしなかったのだ。

 僕は彼を鬱陶しく思いながらも、まだ齢4歳の子供なので仕方がないとも思った。彼のことを守ろうなんて思いは微塵もなかったが、結果そういうことにもなり得るだろう。


 ペプチドは泣き疲れていたようで、すぐに隣から小さな寝息が聞こえてきた。僕はしばらくこれからの調教生活のことを思い、わくわくとした気持ちを募らせていたが、やがて眠りに就いていった。

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