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 伯爵を殺した後は3階に戻り、ママとエムバペのママを助け出す。ぼく達が来ることはエムバペのママにも伝えられていた。彼女はその話を聞いて、涙を流して喜んだという。


 館から外に出ると、後は前回聞いたルートをたどって塀を越えるだけだった。ぼくの胸は自然と高なった。早く当日を迎えたい。その思いでいっぱいだった。


「一応確認しておきたいことがある」


 ソイ兄がマジメな顔で切り出した。ぼく達はぐっとソイ兄の方を見た。


「俺達が殺そうとしているイジュメール家の誰かしらと、お前達は血が繋がっている訳だが、それでもいいんだよな?」


 うすうす気づいてはいた。この閉ざされた環境の中で、ママは誰の子どもを産んだのか。自分の顔を見るたびに、奴らとそっくりな鼻がどうしても目についてしまう。認めたくなかったが、事実としてそれはいつも目の前に立ちはだかった。


「当たり前じゃないか」


 ぼくは心の底から言った。アミド兄もぼくの言葉に深くうなずいた。


「事実がどうあれ、あんな奴らはぼくらのかたきでしかない。そもそもそんなのぼくは認めていないしね」


 ソイ兄はほほえむと、「そうか」と言った。続けて彼は、「決行は来月でいいか?」とぼく達にたずねた。ぼくとアミド兄はすぐに「うん」と答えた。


「絶対に奴らをぶっ殺そう。何度も何度もナイフをぶっ刺して、今までのうらみをはらしてやるんだ」


 ぼくは息まいて言った。


「そうだそうだ」「やってやろう」


 2人の兄が輝いた目をこちらに向けた。




 ぼく達はXデーを待ち望んで日々を過ごした。当日の脱出のことを思い浮かべながら、農園でたんたんと野菜をシュウカクしていった。


 ある日三兄弟がぼくの元にやってきた。彼らはにやにやと笑いながら、いつも通りぼくをムチで打つのだった。

 彼らの攻撃を全身にあびながら、ぼくは今に見てろよ、と思った。お前らはぼくの手によって刺し殺されるのだ。せいぜい今のうちに、ぼくをいじめて楽しんでおくんだな。


 ぼくにはそう思う心のよゆーさえあった。いたくて苦しいはずの彼らのムチが、なんてことのないペチペチ攻撃のように思えるのだった。




 またある日、ぼく達が農作業しているところに、エムバペの引く馬車が通りがかることがあった。


 ぼくはいつものようにエムバペの姿をじっとながめた。しかしその時はいつも以上に彼に対する思いがつのっていた。


 あと少し、もう少しなんだエムバペ。その内ぼく達がきみの元をおとずれて、そのふざけた専属奴隷なんてものから解放させてやるからな。そして今馬車の中でふんぞり返っているサディやベリィを、君のその手で刺し殺すんだ。

 ああ、なんてすばらしいのだろう。きみの喜ぶ顔が目に浮かぶよ。だからもう少し、もう少しだけ待っててくれ……。


 ぼくの思いにこたえるように、エムバペの青くすんだ瞳がこちらを向いた。ぼく達はまるで思いが伝わっているかのように、お互いのことを見つめ合った。


 ああ、エムバペ。ぼくは今カクシンしたよ。どれだけはなれていたって、言葉をかわさなくたって、ぼく達はいつでもつながっているんだ。待っててくれよエムバペ。すぐにむかえに行くから。


 馬車が通りすぎても、ぼくはしばらくエムバペの姿を追った。そうしていると、一度彼がこちらを振り返った。待っている、と、全てを分かったエムバペが、ぼくに目でうったえたように感じられた。

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