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 イジュメール家をみな殺しにすると決めたことによって、脱出の日にちは一旦先のばしにされることになった。その間にソイ兄は合カギや現場の確認などの下準備を進めるということだった。


 ぼくとアミド兄はひたすらにソイ兄にかんしゃした。イジュメール家へのふくしゅうを果たし、その上でここから抜け出すことができる。そんな夢のような話がまい込んでくるなんて思ってもみなかった。ぼくはジボウジキにならなくて良かったと心から思う。


 ソイ兄が牢屋に来てからというもの、ひどくつらい労働が、なんてことのないように感じられた。もうすぐぼく達はここから抜け出すことができるのだ。そう思うと、自然と笑みさえこぼれるのだった。


 しかしまだぼく達が無事脱出できると決まった訳ではなかった。全ては自分達しだいである。何が起こっても動じずにタイショできるよう、ほく達はなんとしても脱出するのだという気もちを強く持っておかねばならなかった。




 ひと月程が経ち、再びソイ兄がぼく達の元をおとずれた。準備はじゅんちょーに進んでいて、ぼく達しだいで来月にでも決行できるということであった。


 ソイ兄は改めて当日の動きを説明した。最初は前回と同じで、ソイ兄が看守をしばり上げ、ぼく達は牢屋から脱出する。それから3人で館を目指す。もちろん玄関には門番がいるので、ぼく達は館のうらての方に回ることになる。


 ソイ兄はふところから紙を取り出し、ぼく達の前に広げた。それは2枚あって、1つは以前と同じイジュメール家の敷地の地図。もう1枚は館の見取り図だった。


「まあ基本的に俺が先導するのだが、お前達も館までのルートや、イジュメール一家の部屋の位置を、しっかりと頭に叩き込んでおけ」


 館の全容を、ぼくは初めて知ることができた。館は広大で、当時ぼくが入れたエリアはほんの一部だということが分かる。

 2階には三兄弟の部屋があり、3階にはサディとベリィ、それからママやエムバペがとらわれている部屋があった。4階には伯爵の部屋がある。

 ソイ兄は一階のとある部屋を指差した。


「館へはこの使われていない物置部屋の窓から侵入することにする。鍵は事前に俺が開けておく」


 ぼくとアミド兄はこくりと頷いた。


「それから俺達は素早く2階に上がり、三兄弟の部屋を順々に回っていく」


 ぼくが1番殺したいのは彼らであった。農園でのリンチ、晩餐での母に対するひどい行い、決して許すことはできない。


「俺達は彼らがすやすやとベッドで眠っている所にそーっと忍びこむ。アミドが奴らの口を塞ぎ、それから俺と2人で動けないよう奴らを押さえ込む。そこをペプチドがナイフでめった刺しにするんだ」


 ぼくはごくりと生つばを飲んだ。それはなんてすばらしいことなのだろうと思う。その時のナイフの感触はどのようなものだろう。はげしい痛みによって、奴らの顔はどのようにゆがむのだろう。とても楽しみだ。


「それからは3階だ。まずはエムバペと合流する。サディやベリィは彼に任せるということでいいのか?」


 ソイ兄に聞かれ、ぼくはすぐに「うん」と答えた。


「エムバペに関してはサディと密になり過ぎてるから接触が憚られる。彼女は勘がいい。奴隷の異変から何かを察知するかもしれない。不安要素はなるだけ取り除いておきたい。当日までろくに意思疎通ができないが、彼は大丈夫なのか?」


 それはおろかな問いだった。大丈夫に決まっている。


「ぼくとエムバペは奴らに館で調教されていたころ、いつか絶対にイジュメール家を殺してやろうとちかい会ったんだ。喜んで引き受けるさ。特にサディには専属奴隷なんかにさせられて、殺したくてたまらないだろう。ベリィに関してはひょっとしたらエンリョするかもしれないね。サディをやるならベリィはペプチドがって。でもぼくは三兄弟をやってるからいいんだって言ってやるんだ。エムバペは嬉しそうににっこり笑って、ありがとうと言うだろうね」


 ソイ兄はそうかそうかとぼくの話を聞いていた。


「そこまで言うんならきっと大丈夫なのだろう。お前達の絆を信じるよ」


 そう言われて、ぼくは嬉しいやら気恥ずかしいやらで気持ちがごちゃまぜになった。


「伯爵はどうする?」


 ソイ兄に聞かれ、ぼくはなんともいえない気持ちになった。この環境を作り出したのは彼であり、全ての元凶でもあるのだが、あまり絡みがなかった。別に殺してもいいし、やりたい人がいるのなら全然ゆずった。


「んー。どうしようか。アミド兄とかやりたければ」


「俺はいいよ、手伝いで」


「じゃあ俺がやっていいか?」


 ソイ兄が言った。ぼくとアミド兄は「どうぞどうぞ」と声をそろえた。


「使用人として関わって、俺は幾度かあいつに痛い目を見させられた。それに諸悪の根源はあいつだしな。母さんの分も、他の奴隷達の分も、俺が奴をめった刺しにするよ」


「やったれソイ兄」「がんばれソイ兄」


 ぼく達弟は心からエールを送った。

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