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「そうして逃亡者は一気に女1人と子供3人増えた訳だ。当然脱出の機会は延期されることになった。彼らを逃す為に、俺はあれこれと考えた。そうして目処がたったから、こうしてお前達の前に現れたんだ」
ぼくとアミド兄はカンゲキした。やぶれかぶれで逃走を図ろうと思っていたのに、どうやらその必要はなさそうだった。それは全くもって幸せなことだとぼくは思う。
それからソイ兄はぼく達に脱出の計画を話した。決行は次のソイ兄が監獄の見張りをする日、およそ一ヶ月後を予定していた。その日のもう1人の看守をソイ兄がしばり上げ、ぼく達を牢屋から脱出させる。
それからぼく達は監獄の入り口でしばらくたいきし、ソイ兄は1人館に戻る。彼がママ達を連れ出してきて、再び監獄の前でぼく達と合流する。
ぼく達がソイ兄の話をマジメに聞いていると、彼はおもむろにふところから紙を取り出した。それはイジュメール家の敷地の地図だった。
ぼくとアミド兄は広げられた地図をじっと見る。そこには夜間の警備の配置が書かれてあった。その人型のマークの間を縫うように、一本の矢印が伸びていて、それは監獄から敷地を取り囲む塀の1地点まで続いていた。
「これが当日の脱出ルートだ。なるべく障害物が多く、見つかりにくい道筋を選んだ。全員での移動は目立つから、2組に別れて時間差で動くことにする」
それからソイ兄は矢印先の塀、その手前のポイントを指差した。
「ここは果樹園になっている。先行組はしばらくここで身を隠し、後続の到着を待つ」
ぼくとアミド兄はうんうんと首を動かした。
「塀からの脱出は鉤爪付きロープを使う。事前に試したが問題はなさそうだった。塀さえ越えれば後は逃げるだけだ。奴らの権威の届かない隣国を目指し、俺達は旅に出る」
おお、と、ぼくとアミド兄は声をだした。それはすばらしいプランだった。イジュメール家からの脱走が、決して夢の話ではなくなった。ソイ兄は持っていた地図をぼく達につきつけた。
「いいか、このルートを今しっかりと頭に叩き込んでおくんだ。この地図は見つかったらまずいから、お前達に渡すことはできない」
ぼく達は二つ返事でりょーかいすると、改めてその地図を食い入るように見た。
ソイ兄は正に救世主だった。この脱出は全て彼のおぜんだてがあってのことであり、彼がいなかったらぼく達はどうにもならなかった。そんなソイ兄に意見することははばかられたが、ぼくは言わずにはいられなかった。
「ソイ兄……」
ぼくが名前を呼ぶと、ソイ兄はちらとこちらを見た。
「まずはありがとう。こんな脱出方法を考えてくれて、ぼく達まで救おうとしてくれて」
アミド兄もぼくに続けて、「本当にありがとう」と言った。
「礼を言うのはまだ早い」
ソイ兄は冷静にそう言った。それから「ここから脱出できた時、改めて感謝を述べてもらおう」と続けた。
「そうだね。もちろんそれはそうなんだけど……」
ぼくは迷ったけど、意を決して喋り始めた。
「このプラン通り、普通に脱出するのもいいんだけど、どうしてもぼくはそれプラスでやらなければならないことがあるんだ」
「やらなければいけないこと?」
ソイ兄はキョトンとした顔でぼくの方を見ていた。ぼくはゆっくりと口を開けた。自分の血が冷たくなるのが分かった。
「イジュメール家へのふくしゅう」




