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「え?」


 ぼくが辺りを見回すと、檻の前に1人の男が立っていた。いつからそこにいたのだろう。執事服を着た茶髪の使用人が、ぼく達の方をじっと見ている。


 なんてことだろう。ぼく達が作戦を決行する前に、それが相手にバレてしまっていた。ぼくは地の底に落ちた気分になる。イタチの最後っ屁のようなおろかな策ですら、ぼく達はやらせてもらえないなんて……。


「そんなことをしないでも、君達は外に出られる」


 その使用人はぼく達に向かって言った。外に出れる? 彼は何を言ってるのだろうと思う。


「それはどういう……」


 兄も困惑しているようで、もごもごと口走った。


「俺が君達を、ここから出してやろうと言ってるんだ」


 それは願ってもないことだったが、そんなうまい話がある訳がなかった。何かのワナだろう。ぼくはけいかいし、男をキッとにらみつけた。


「まあ、そんな顔をするなよ。俺は本当のことを言ってるんだ。俺はお前達を、この檻の中から、いや、このイジュメール家から救い出す為にやってきたんだ」


 使用人はひょうひょうとそう言った。変わらずぼくは彼をにらみ続けた。それはとうてい信じられる話ではなかった。

 奴は一体何がしたいのだろう。ぼく達をぬか喜びさせて、きついバツを与えることに快感でも覚えるのだろうか。それはなんて悪趣味なのだろう。ぼくの頭に血が上る。


「何が目的だ!?」


 思わずぼくは声を荒げた。その使用人は「おおっと」と、いささかオーバーなリアクションをとり、きょろきょろと左右を見回した。何事もないことを確認すると、彼は右手の人差し指を立て、口元に持っていった。


「あまり大きな声を出すなよ。見張りは俺ともう1人いるんだからな」


 確かに彼の言うことは一理あった。しかしすでに彼がぼく達の前にいるのだから、あまり意味はないなと思う。もう1人を呼ぶなら呼べばいい。奴らが檻の中に入ってきたら戦争だ。


 けいかいを解こうとしないぼくを見て、その使用人はやれやれと肩をすくめた。それから男は口を開く。


「チャチャ・ブラウニー」


 思わずぼくは目をみはった。なぜその名前を奴が知っている? 兄の方を見ると、彼もおどろいたように目を丸くしていた。


「お前ら母さんの子供だろ? 一目見ただけで分かったぜ。お前達は俺を見て、何も思わないのか?」


 今こいつ、チャチャ・ブラウニーのことを母さんと言ったのか? ぼくはまじまじとその使用人を眺めた。すぐにああ、と思う。


 ぼく達と違って筋が通った鼻をしているが、そのブラウンの髪と瞳、それからかもし出すふんいきに、ぼく達と似たものを、母を感じさせるものを感じた。


「も、もしかして……」


 ぼくがそう口走ると、彼はにっと笑った。


「そう、俺の名前はソイ・ブラウニー。お前達のお兄ちゃんだ」


 そう言うと、彼は檻の鍵を開け、牢の中に入ってきた。もはやぼくは彼をおそう気なんかなくなっていた。


「ほ、本当に……、お兄ちゃん、なのか……?」


 兄はぼうぜんとして、檻の中に入ってきた男に言った。


「嘘なんかつくものか。見ろよ、この茶色い髪と瞳を。お前達とお揃いだろ?」


 兄はわなわなと震えると、男の胸に飛び込んでいった。


「お兄ちゃん!」


「こらこら、あまりうるさくするんじゃないぞ」


 男はそう言うと、やれやれと肩をすくめた。それからぼくと目が合うと、彼は困ったように微笑んだ。その目はとても優しかった。


「お兄ちゃん!」


 ぼくも兄にならって、兄の兄に抱きついた。「こらこら」と呆れつつも、嬉しがっているような、そんな声が頭上から聞こえた。ぼく達3兄弟は1つのかたまりとなって、しばらくは牢屋の中でたたずんでいた。

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